「ひかりの歌」「春原さんのうた」で知られる
本作は、母親への思いや悲しみの気持ちと向き合う書店員・春を主人公にした物語。春は悲しみを隠せずにいる女性・雪子に声を掛け、また剛という男性のあとをつけながら、その様子を確かめる日々を過ごしていた。「PLASTIC」の
大九は「どうやら杉田監督は、自分の映画の中の美味しそうなお店に朝だろうが深夜だろうがしょっちゅういるらしい。ずるい。スクリーンの向こうとこちらを行ったり来たり。その感覚だけは私たち観客にも許されているからありがたい。だから何度も観たくなるんだと思います」と述べながら「そうやって酔わせてもらっていたけれど。ラスト、雪子さんが春さんに向けて言うセリフにはっとさせられます。春さん、あなたって人はもうホントに」とコメントを寄せた。
「キネマの神様」や「楽園のカンヴァス」を手がけた原田は「何も語らないことが、すべてを語ることにつながるのだと、本作に教えられた。書くことで語り尽くすさだめの私には、新鮮な体験だった」と推薦。現代短歌を代表する歌人の1人でエッセイストとしても知られる穂村は「異様なほど静かな画面から、溢れ出した命の輝きが、こちらに向かって流れてくるのを感じていた」と語っている。このほかのコメントは下記の通り。
「彼方のうた」は1月5日より東京・ポレポレ東中野、シネクイント、池袋シネマ・ロサほか全国で順次ロードショー。
丘田ミイ子(文筆家)コメント
雪子の存在を掬い上げるようにオムレツを頬張る春、春が食べ始めるのを見届けてから箸を進める雪子。重ねられていく食事のシーンに、いくつもの優しく寂しい横顔をみた。笑ったらいいのか、泣いたらいいのかわからない顔をしながら人が人に手を差し伸べるとき、差し伸べられるそのとき、はじめて「独り」は「一人」になるのかもしれない。画面の向こうで、街や家や店の中で、互いを縁取り合うように生きる人々を見てそんなことを思っていた。さみしくて、やさしくて、泣きそうになって、笑いそうになって、自分も時々こんな横顔をしているのかもしれない、と思った。
羽佐田瑶子(ライター、編集者)コメント
春さんの足取りや感覚が、ときどき自分と重なった。人に作ってもらったものを食べると、自分の存在がたしかめられたような気がした日のことを。映画を観終えた帰り道、ふと思い出して窪美澄さんの「夜に星を放つ」を読み返した。やるせなさみたいなものは拭えないけれど、それでも、友人と話したりごはんを食べたりしながら、生きていくことを私が選ぶ。杉田監督の作品を観るとそうしたことをしばらく考えてしまう。
東直子(歌人)コメント
小川あんさんの大きく見開いた目は、こちらをまっすぐに向いているけれど、決してこちらを見ていないようで、怖かった。だから、彼女が発する優しい声に少し震えた。この人の胸の裡(うち)が知りたい。でも見えない。周りにいる人も震えているのが分かる。
映画の中で主人公が朗読する私の絵本「キャベツちゃんのワンピース」は、娘の理解できない行動を、あるとき深く受け入れる母の物語なのだが、これを使っていただいた杉田監督の意図が、ラストに来てぐっと迫ってきて胸が強く締めつけられた。
それぞれの孤独な後ろ姿が美しい。
森井勇佑(映画監督)コメント
すごく面白かったです。映画が始まってから終わるまでずっと面白かった。張りつめた感覚がずっと持続しているように思いました。これほど持続している映画は稀だと思います。もう2回見ましたけど、何度でも見たいです。人が人を気にかけるというシンプルなことが、これほど映画を豊かにさせるのかと、とても驚きました。素晴らしい映画です。
映画「彼方のうた」予告編
杉田協士の映画作品
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シネモンド @cinemondestaff
「彼方のうた」予告解禁 大九明子、原田マハ、穂村弘ら7名の推薦コメントも到着 https://t.co/3RZ17UP1m5