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「テヅコミ」特集|「どろろ」を近未来SFに作り替えたカネコアツシ、手塚ワールドを“アリス”と旅する上野顕太郎。好き勝手やってる2人が全18回で伝えたいこと

マイクロマガジン社が刊行している「テヅコミ」は、手塚治虫を敬愛するマンガ家たちが、おなじみの手塚作品にアレンジを加えた新作マンガを発表しているマンガ書籍。月刊ペースで全18号を刊行予定で、12月5日に第3号が発売されたばかりだ。

コミックナタリーでは複数回にわたり、「テヅコミ」の特集を展開中。第2回では、同誌で「どろろ」を原作とするSF作品「サーチアンドデストロイ」を連載中のカネコアツシと、手塚作品全般をテーマにした「治虫の国のアリス」を連載中の上野顕太郎にインタビューを実施した。「好き勝手やっている」「手塚マニアに怒られるような話を描きたい」と語る2人の本心は。それぞれが作品で大事にしている部分、気になる連載作品への期待などを聞いた。

取材・文 / 鈴木俊介 撮影 / 星野耕作

みんな好き勝手なことをやっていて、それがすごくいい(上野)

──おふたりは長く、コミックビーム(KADOKAWA)の作家としてご活躍されている印象があるのですが、普段からお会いになることはあるのでしょうか。

カネコアツシ 交流ってほど交流はないですよね。年に1、2回、会うか会わないかくらいで。

上野顕太郎 コミックビームのイベントで会ったりするくらいですかね。でも毎号載っているから、常にお互いの動向がわかってるという感じはありました。

カネコ 僕はマンガ家になって、最初にお会いしたプロのマンガ家さんが上野さんなんですよ。作家同士の飲み会みたいな席が設けられたときに「あっ、あの人は!」って(笑)。

上野 (笑)。カネコくんはコミックジャングル(ワニブックス)でデビューしたんだよね。80年代後半か、90年代の前半くらいにはもう会ってたかな。カネコくんのことは会う前から気にしてたよ。担当者が同じだったっていうのもあるけど、日本人が描いたんじゃないみたいなマンガだったから。あの頃は今と違って、まだペンを使った絵だったけど。

左から上野顕太郎、カネコアツシ。

カネコ 考えてみると、なんだかずっと同じ雑誌で描いてますね(笑)。

上野 だからきっと、ウマが合うんですよ。1回きりだけど、一緒にお花見に行ったりもしたよね。

──会われるとどういうお話をするんですか?

上野 うーん、あんまりマンガの話はしないよね?

カネコ しないですね。上野さんは、ほかのマンガ家さんとは延々マンガの話をされてるんですよ。でも僕はあまりマンガを読まないから、マンガの話ってわかんなくて。僕と話すときは映画とか、そういう普通の日常話をしてくれますね。

上野 でも何回か、カネコくんのマンガについて質問したような記憶はあるんだよ。例えば「SOIL」の、時間軸の演出のこととか。“ここで時間が変わりました”みたいなコマ運びはせず、映画の場面が切り替わるみたいにして時間軸が変わるんだけど、それが混乱せずに読者に伝わるのがすごいなって。

カネコ それは覚えてます。マンガって回想シーンを表現するとき、コマのタッチを変えたり、ぼやーんとする演出を入れたり、いろいろと効果を使うんですね。でも僕はそれを一切使わず、映画のようにそのままやってみたいと思って。苦労しながら意識的にやっていた部分なんですけど、それを指摘してくれたので「さすがだな!」と思いました。

上野 いやいや、それをサラッとやってるカネコくんがさすがなんだよ(笑)。

──そんなおふたりが新たに連載を始められた「テヅコミ」。実際に読まれて、いかがでしたか?

上野 お話自体はかなり前からいただいていたので、どんな人がどんなふうに手塚作品を描くのかなって、楽しみにしてたんですよ。創刊号を手に取ってみたら、見事にみんな好き勝手なことをやっていたから、それがすごくよかったですね。僕の「治虫の国のアリス」はあえて原作を限定せず、手塚作品全般をテーマに好き勝手やらせてもらってるんだけど、同じように全般をテーマにしてるらしい史群アル仙さんの作品が、特に気になりました。

「グルグルギューン」第1話より。

──史群アル仙さんの「グルグルギューン」は、アル仙さん自身が手塚マンガの世界に入って、登場人物と会話をしたりしながら旅をする作品です。創刊号では「ブラック・ジャック」のエピソード「笑い上戸」、第2号では読み切り作品「雨ふり小僧」を取り上げていらっしゃいました。

上野 長編もいいけど、有名じゃない作品とかキャラとかを取り上げてほしいと思ってたんです。アル仙さんのことは妻に薦めてもらって以前から存じ上げていたのですが、いいマンガを描く方ですよね。「テヅコミ」でも注目しています。

カネコ 僕はひとくちにトリビュートと言っても、いろんな解釈というか、アプローチの仕方があるんだなと思って興味深かったです。特に第2号に載っている、石田敦子さんの「初恋は風の中」。あれは面白かったですね。

──「初恋は風の中」は、手塚さんの短編「るんは風の中」にインスパイアされた作品でした。

「初恋は風の中」より。ポスターの中の少年に恋をした、ある少女の一生が描かれる。

カネコ 石田さんの「初恋は風の中」は、原作と真逆の結末にいくじゃないですか。手塚版の主人公が、望みながらも得られなかった未来を生きている女性の姿が描かれていて、「こういうのもありか!」と驚かされました。今ってオタクっぽい生き方が昔より許容される時代になっているし、そういう時代を反映している部分もあるのかなって。あと和田ラヂヲさんの「火の鳥」もすごいですよね(笑)。

上野 あれ全然「火の鳥」じゃないじゃん?(笑)

カネコ 本当、衝撃作ですよ。

上野 そういえば僕、最初の頃にしりあがり(寿)さんが参加するとは教えてもらっていて。そのときは「マグマ大使」をベースに毎回「〇〇大使」ってやつをやるって聞いてたから、しりさんらしい力抜けたやつをやるのかと思ってたら、実際に載った「懊悩! マモルくん」は全然違う話じゃない? 驚いたけど、やっぱりしりさんには期待してる。

カネコ 最初軽いノリで始めながら、だんだんディープな方向に持っていったりしますもんね。今回も、もしかしたらそういうのを用意しているのかもなと思いました。

誰もが知っている作品をリメイクしてみたかった(カネコ)

──カネコさんの「サーチアンドデストロイ」は「どろろ」を題材にした作品ですが、原作として「どろろ」を選んだ理由を教えていただけますか。

カネコ 執筆のオファーをいただいたときは、「なんでも好きなものを選んでください」というお話だったので、いろんな案を考えたんです。全18回でやらせてもらえることになったから、一般に知られていないような短編作品を発掘して、すごく長くしてみるのも面白そうだなとか。例えば「ユフラテの樹」とか……。

上野 へえ、いいじゃない。それも読んでみたい(笑)。

カネコアツシ

カネコ いろいろ考えた結果、誰でも知ってる作品のほうがやりがいがあるなと思って、自分が好きな「どろろ」に決めました。もともと有名な小説とか、そういうものを大胆に脚色してやってみたいなと考えていて。

──カネコさんはあまり原作付きで描かれている印象がないのですが、これまでに原作付きのものを描かれたことってあるんですか?

カネコ 狩撫麻礼さんとちょっとだけ(※)。長い連載ものとかでは全然ないですね。一時期はジョージ・オーウェルの「一九八四年」を題材に、あっと驚くような作り替えができないかと格闘したりもしました。結局それはちょっと難しくて、諦めてしまったんですが。

※「3ツのお願い」。同作は12月12日にKADOKAWAより初めて単行本化される。

──カネコさんのタッチで描かれる「一九八四年」も気になります。「サーチアンドデストロイ」は“クリーチャー”と呼ばれるアンドロイドが、人間(ヒューマン)と共存する世界を舞台にしたSF作品ですが、「どろろ」を近未来SFにしようという発想はどのように生まれたんでしょう。

「サーチアンドデストロイ」より。

カネコ 実はSFモノも以前から描こうと思っていて。今回出てくるクリーチャーの設定や、機械の体と人間の体の対照みたいな話を、もともと温めていたんですよ。それで、「どろろ」をやると決まったときに、この世界観を持ってきたらピタッと当てはまった(笑)。じゃあこのままやっちゃおう、と思って。

──へええ、そうなんですか。別々に考えていたとは思えないくらいピッタリですね。

カネコ ですよね。ただ世界観を近未来SFにしたことで、設定などを具体的に描かないといけなくなったのは大変な部分ですね。「どろろ」なら“妖怪だから”“魔術だから”で済ませられる部分を、僕の作品ではきちんと説明してあげないといけない。まあ“SFだから”っていう魔術は使えるんですけど(笑)。

上野 SF的な魔術ってのは面白いね。僕が「サーチアンドデストロイ」を読んで最初に驚いたのは、(主人公が失った体のパーツを)「物理的に取り返すんだ!」っていう部分。第1話では、相手が持っている舌を直接切り取ってたじゃない。

「サーチアンドデストロイ」より。第1話では“人間の舌”を持つクリーチと百が激突する。

カネコ 切り取って、箱にしまって持って帰ってますね。

上野 そうそう、「それを持って帰って使うんだ!」って思って。それで、次は目玉でしょ? ビックリしたんですよ。聞きたいと思ってたんだけど、第2話で主人公が、「うめえ!」って言いながらモノを食べてたじゃない。あれはもう、舌が戻ったってことなの?

カネコ 戻ってます。これからの話で出てきますが、手術するためのロボットがいるんです。

上野 なるほど、仲間が出てくるのか。早くそこまで読みたいな。

だんだん「サーチアンド“話し合い”」になったりして(上野)

──原作「どろろ」の魅力って、どういう部分だと思われますか。

カネコ 戦乱の世が舞台だし、妖怪も出てくるし、体の48カ所をバラバラにされた少年がそれを取り戻すっていう極端な話ですけど、ある意味普遍的な物語として読めると思うんです。百鬼丸という少年が、「自分ってなんだろう」と問いながら、少しずつ1人の人間として成長していくという話に思えて。自分に当てはめようと思えば、当てはめて読める部分もあるんじゃないかな。

──読者として共感できる部分があると。

カネコ うん、自分というアイデンティティを確立できている方は大人でも少ないですし、生きてると「自分ってなんだろう」ということを常に問わなきゃならないじゃないですか。そういう気持ちって、百鬼丸の行動とかにそのまんま宿らせられる。

カネコアツシ

上野 “自分を取り戻していく”っていうのが、言葉そのままの作品ですよね。自分を確立する、自分の生きてる意味みたいなものを見出すということを、精神的でなくやっていく。それが「どろろ」はすごい。

カネコ あとやっぱり“ダーク手塚”が出てますよね。手塚治虫って今だとヒューマニズムの人みたいに言われるけど、すごく悪魔的なところもあった。父親が魔物と取引したせいで、体の48カ所がない赤子が産まれてくる。よくこんな恐ろしいことが発想できるなって。

上野 父ちゃん、ホントにひどいやつだよね。あれはないわ。それでも少年マンガだからこんな感じだけど、手塚治虫って青年マンガだともっとひどいことも描いていて、「どろろ」の前年に始めた「バンパイヤ」以降、手塚治虫がそんなキャラクターや物語作りに目覚めていった、という手塚研究もあるみたいです。ロックも百鬼丸も女性人気の高いクールなキャラクターだし、手塚治虫のターニングポイント的な時期の作品なのかもしれないね。

──「サーチアンドデストロイ」は原作「どろろ」から、主人公たちの性別が反転していますよね。キャラクター造形でこだわられた部分をお聞きしたいのですが、例えば原作では百鬼丸にあたる百の体は全身機械で覆われていて、あまり不自由がなさそうに見えます。

「サーチアンドデストロイ」より。

カネコ 未来が舞台のSFなので、代わりになる手足であったり、いろんな道具とかは生身の人間より優れているんじゃないかなと。現実でも、例えば走り幅跳びの記録とか、パラリンピックの選手の方が高かったりするじゃないですか。だから百は、自分の体を取り戻して人間に近づくにつれて、どんどん弱くなっていく。これは面白いぞって。

──なるほど。後半に出てくる敵ほど苦労せざるを得なくなる。

カネコ 熱いとか寒いとか、痛いとか、そういう不便も感じるようになるから、人間になっていくという過程も面白く描けるんじゃないかなと思っています。女の子にしたのは、差別の構図とかが「どろろ」にも描かれているので、性差別とかの現代的な問題を落とし込めるんじゃないかなという思いからですね。

上野 感情みたいなものもどんどん変わっていく感じ? 心は物理的に取り戻すわけにいかないじゃない。今は自分のルールだけで戦えて、すごく強いけど、人間の体を取り戻すにつれて感情とかが生まれていくのかなって。

カネコ そうですね。彼女はこれから、自分の体(の一部)を持っているアンドロイドたちにどんどん出会っていくんですけど、そのアンドロイドにもいろんな暮らしをしてる奴がいて、ときには感情移入したり、複雑な気持ちを覚えたりもします。第1話のように、ただ怒りをまき散らしているだけの状態から、やがて葛藤したりしていく。そのあたりも今後、注目してほしいですね。

上野 ただ相手を倒して取り返すっていう、単純な感じではなくなっていくんだ。「サーチアンドデストロイ」ってタイトルだけど、“デストロイ”ではなくて話し合いで返してもらうとかもあるのかな? サーチアンド“話し合い”(笑)。

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手塚治虫生誕90周年を記念したマンガ書籍「テヅコミ」第3弾!
「火の鳥」「どろろ」「リボンの騎士」などの名作を人気作家がトリビュート!
過去の手塚治虫作品も収録! 月刊・全18号予定。

上野顕太郎(ウエノケンタロウ)
上野顕太郎
1963年、東京都生まれ。1984年に週刊少年チャンピオン(秋田書店)に掲載された「煙草撲滅委員会」でマンガ家デビュー。パロディやパスティーシュなど、さまざまな手法を駆使しギャグマンガの表現を模索しており、ファンからの支持を獲得している。代表作は「帽子男」シリーズ、「うえけんの五万節」など。2018年、「夜は千の眼でございます」で第21回文化庁メディア芸術祭の優秀賞を受賞した。
カネコアツシ
カネコアツシ
著作に「BAMBi」「SOIL」「Wet Moon」「デスコ」など。最新作はテヅコミ(マイクロマガジン社)で連載中の、手塚治虫「どろろ」のトリビュート作品「サーチアンドデストロイ」。イラストレーターとしてもCDジャケットなど数多くの作品を手掛けている。オムニバス映画「乱歩地獄」の一編「蟲」では脚本、監督も務めた。2018年12月29日まで、東京のヴァニラ画廊にて原画展「SEARCHANDDESTROY」を開催中。