「テヅコミ」特集|「どろろ」を近未来SFに作り替えたカネコアツシ、手塚ワールドを“アリス”と旅する上野顕太郎。好き勝手やってる2人が全18回で伝えたいこと

一番不安なのは、18話までできちんと終わらないこと(カネコ)

──「テヅコミ」は創刊号から海外作家の作品を積極的に起用したり、第2号でもさっそく新しい顔触れを加えたりしていますよね。おふたりは今後の「テヅコミ」に期待することはありますか?

上野 そういえば僕、全然存じ上げなかったんですけど、なんだか古い絵柄の人が載ってるなと思ったら外国の作家さんだった(笑)。しかも「ローマの休日」と「リボンの騎士」を組み合わせてて、なんじゃそりゃ!ってびっくり。

マウリシオ・デ・ソウザ「プリンセスナイト」より。

──ブラジルのマンガ家、マウリシオ・デ・ソウザさんの「プリンセスナイト」ですね。「リボンの騎士」も「ローマの休日」も1953年の作品で、2018年で65周年を迎えたというつながりがあるそうです。

カネコ 少し昔の少女マンガみたいな、なんだか懐かしい絵柄ですよね。

上野 「ローマの休日」も大好きな映画だし、違うものを組み合わせるのも好きなので楽しみですね。ただまあ、僕らはこれからもがんばって描いていくだけですよ。カネコくんは今、7話の辺りでしょ?

カネコ もう8話目描き始めてます。

上野 早いなあ。僕は6話がようやく描き終わるところなので、こりゃがんばらないと。

カネコ 全18話の割り振りって、なんとなく考えてます?

上野 もちろん考えてる。多少はズレるだろうし、このエピソード思ったより長くなっちゃったなっていうのもあるんだけど、6話まではうまいこと予定通りに描けてるな。カネコくんはズレたりした?

カネコ まだそんなに。でも、やっぱり描いてるといろんなことを盛り込みたくなってくるじゃないですか。今、一番不安なのが、18話までできちんと終わらないこと(笑)。

──雑誌だったら予定より1・2話長くなっても載せてもらえそうですけど、「テヅコミ」は全18号と決まっているので、未完になっちゃいますもんね。

カネコ そうなんですよ。

上野 単行本で描き下ろすとかはできるけどね。原作「どろろ」の未完も踏襲すればいいんじゃない?(笑)

カネコ 嫌だなあ(笑)。逆に足らなくなったりもしないように、1話1話をけっこう長めに描いてて、それも実は不安の顕れっていう……。

上野顕太郎、カネコアツシ。

──ページ数は固定じゃないんですか?

カネコ 上野さんは毎話10ページっておっしゃってましたけど、僕は34のときもあれば36のときもあるし、30ぐらいのときもある。そのときやれるここまでっていうのを全部1話に入れたいなっていう。

上野 カネコくんがちょっとうらやましいのは、「テヅコミ」が刊行中の段階で単行本が出せるんだろうなってこと。僕のはページ数的に「テヅコミ」の刊行が終わったあとじゃないと出ないから、そのタイミングだと宣伝が難しそうだなって。さっき8話まで描いてるって言ってたから、1巻分はもう描き終えてるんだ。

カネコ そうですね。6話ずつ、全3巻で出せたらいいなって考えています。だから6話の終わりと7話の冒頭は、単行本の区切りを意識しました。

パッと見では怒られるかもしれないけど……(カネコ)

──先ほど上野さんが、パロディの元ネタに気付いてもらえてうれしかったとおっしゃっていましたが、おふたりのところに作品の反響は届いているんですか?

カネコ 反響とはちょっと違うかもしれませんが、先日サイン会をやったときに、「『サーチアンドデストロイ』をきっかけに『どろろ』を読んでみました」って言ってくれた人がけっこういたんですよ。それはうれしかったし、入り口はなんでもいいから、「手塚治虫ってどんな人なんだろう」と、どんどん興味を持ってくれたらいいですよね。

上野 僕、大学で教えてたことがあるんだけど、これだけネットが整備されているのに、今の若い人はなかなか積極的に作品をたどったりしないんだよね。「ブラック・ジャック」が気に入っても、「ブラック・ジャック」だけ読んで満足しちゃったりする。好きな手塚作品を1つ見つけたら、ぜひほかの手塚作品も読んでみてほしい。それで僕のマンガの元ネタを「これだったんだ!」っていう出会いをぜひ(笑)。

上野顕太郎、カネコアツシ。

カネコ 僕は手塚マニアの方から、「こんなの手塚じゃない!」「こんなもん『どろろ』じゃない!」って怒られるような話を描きたいと思ってるんですよ(笑)。そうやって言われたときに、「だって『サーチアンドデストロイ』だもん」って言い返せるような作品にしたい。

上野 それを手塚プロダクションのお墨付きでやれてるのは面白いよね。

──ネームとかの段階で、手塚プロダクション側から「これはちょっと」と言われることはないんですか?

編集 なくもないですが、カネコさんと上野さんに関しては大丈夫です。

カネコ パッと見は「どろろ」と違うけど、ちゃんと原作を自分なりに噛み砕いて、自分なりに深く理解したうえで、そのメッセージ性みたいなものを踏襲しようとやっている。だから、最初怒っていた人も、ちゃんと読んでくれたら「怒ってごめんね」って言ってくれるんじゃないかなと(笑)。

上野 パロディにもいろいろなやり方があって、例えばブラック・ジャックが腹踊りをするとか、要するにそのキャラがやりそうにないことをやらせてその落差で笑わせるみたいな手法もありますけど、僕はそれはやらない。世界観に則って進行するし、元のキャラクターを大事にしたい。「テヅコミ」で描いている人はそういう作家さんが多いんじゃないかな。カッコいいから表面的に真似しましたというわけじゃなく、好き勝手やっているように見えるけど、それぞれがちゃんと、そのキャラクターや世界観と真剣に向き合っている。それが「テヅコミ」の魅力なんじゃないかな。

カネコ トリビュートするからには、手塚さんがどういう作品が描きたかったのかというのを、ちゃんと理解して描かないとな、とは思っていますね。せっかく全18回でやらせてもらえるので、自分なりにそれを深く描きたいと思っています。

上野 いろいろ話したけど、読んでない人がいたら「読んで!」としか言いようがないね(笑)。手塚治虫作品も読んでもらいたいし、もちろん僕らのも読んでもらいたいし。さっきカネコくんが言っていたけど、きっかけはなんでもいいから、ぜひ「テヅコミ」を手に取ってみてください。すでに読んでくれている人は、ぜひ最後までお付き合いをよろしくお願いします!

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上野顕太郎(ウエノケンタロウ)
上野顕太郎
1963年、東京都生まれ。1984年に週刊少年チャンピオン(秋田書店)に掲載された「煙草撲滅委員会」でマンガ家デビュー。パロディやパスティーシュなど、さまざまな手法を駆使しギャグマンガの表現を模索しており、ファンからの支持を獲得している。代表作は「帽子男」シリーズ、「うえけんの五万節」など。2018年、「夜は千の眼でございます」で第21回文化庁メディア芸術祭の優秀賞を受賞した。
カネコアツシ
カネコアツシ
著作に「BAMBi」「SOIL」「Wet Moon」「デスコ」など。最新作はテヅコミ(マイクロマガジン社)で連載中の、手塚治虫「どろろ」のトリビュート作品「サーチアンドデストロイ」。イラストレーターとしてもCDジャケットなど数多くの作品を手掛けている。オムニバス映画「乱歩地獄」の一編「蟲」では脚本、監督も務めた。2018年12月29日まで、東京のヴァニラ画廊にて原画展「SEARCHANDDESTROY」を開催中。