コミックナタリー Power Push - 「ライチ☆光クラブ」
“成長を否定した少年たち”の証言
キラキラしたイメージをぶち壊したい
──オーディションを受ける際に原作を読まれたそうですが、どのような感想を抱きましたか?
コアな内容といいますか、すごい世界観だなと思いました。1回読むだけだとあんまり理解ができないけど、読めば読むほど「ライチ☆光クラブ」の世界にハマっていくんです。グロテスクな部分やBL要素がどうしても注目されがちですが、よくよく読んでいくとこの世界の面白さとかテーマがいろいろあることに気付いて。今回の映画は「ライチ☆光クラブ」と前日譚の「ぼくらの☆ひかりクラブ」上下巻を3冊くっつけて描いているので、これまでとはちょっと違う世界を見せることができるのかなと思います。
──ご自身が演じたゼラについての印象は?
最初は独裁者的過ぎて傲慢な人だなと思ってたんです。でも演じていくにつれて、ゼラは頭がよすぎて孤独になったがゆえに、光クラブに入ることで自分の存在を確認できたんだなと感じるようになりました。
──ゼラは残虐な支配者というキャラクターですが、どのように役作りをされましたか。
一番気を付けたのは手の動きですね。マンガの中のゼラの描写って必ず手の動きが入っているんです。彼は手袋をしているので、それを見せたいんだと思うんですよ。リアリティを求めながらも「ライチ☆光クラブ」の世界を生かすという微妙なラインを狙わなきゃいけないので、それをどう映画で使うかが問題でした。いかに不自然じゃなく、オーバーでない程度にゼラっぽく振る舞うかを一番意識しましたね。
──ゼラっぽい手つきというのは?
(ゼラの手の動きを数パターン披露しながら)いろいろあるんですけど、オーバーにやりすぎている動きは手がクロスしちゃってたりとか。そこまでやるとちょっとおかしくなってしまうけど、「行け!」って言うときに指をさすのはおかしくないなとか、イライラしているときに指を噛むのは大げさじゃないかもしれない、そうすると手袋が見えるな、というように考えながらやっていました。一番多いのは顔の前で手をパーにすることなんですけど、それはかなり不自然なので。(ストーリーの)流れを見ながらできる範囲でやるようにしました。
──確かに、ゼラはよく手を動かしていましたが、1つひとつの動きはとても自然に感じました。ほかにはどのようなところに気を遣いましたか。
居場所ですね。どこに立ち位置を置くかで印象が変わるので。秘密基地には玉座があるんですが、そこに座ってると偉そうに見えたり上からものを言えたりするし。あとは弱い立場の人間に見えるから後半戦は下に降りて演じてみたり、見せ方を色々と考えながらやりました。
──特に映画の中で観てほしいポイントはありますか?
少女マンガが原作の作品に出演することが多くて、そのキラキラしたイメージをぶち壊したいなという思いがずっとあったんです。僕のことをずっと見てくれている方に「古川くん、こういう狂気的な役もやるんだ」と感じてもらえれば。あとは原作ファンの方々は、映画でどのように「ライチ☆光クラブ」の世界観が描かれているかというのを楽しみにしていただきたいなと思います。
ゼラは自由に動けるキャラクターなので、思いのままやった
──先ほどジャイボ役の間宮祥太朗さんにお話を伺ったのですが、「ゼラを心の底から愛していると言えるように気持ちを高めていった」とおっしゃっていました(参考: 間宮祥太朗(ジャイボ)インタビュー)。古川さんは、どのような思いでゼラとジャイボの親密なシーンに臨みましたか?
ジャイボはゼラのことを愛していますが、ゼラからすると、14歳になる、性欲が出てくる、その処理をどうしよう、じゃあ、そばにいて自分に好意を持っているジャイボでいいじゃないか、という感じかと。ゼラは非常に論理的な考え方で性欲処理を行っているだけなのではと想像して演じました。
──なるほど。同世代で活躍されている俳優の方々が顔を揃えていますが、撮影中に刺激を受けた共演者の方はいらっしゃいますか?
ニコ(池田純矢)ですね。終盤にゼラがニコを見捨てるシーンがあるんですけど、そこはけっこう感情を込めてやらなきゃいけない場面で。本人が納得いかなかったみたいで、「もう1回やらせてください!」って気合いを入れて撮影に臨んでいて、そういう姿はすごくいいなあと思いました。彼は役者魂がある人なので、芝居について話したり、撮影後にも一緒に遊びに行ったりしていますね。
──ゼラの冷酷さがよく表れていた場面でしたが、熱い撮影エピソードがあったんですね。あのシーンはどのような気持ちでゼラを演じましたか。
そのときはもうあまり考えてなかったかもしれないですね。とにかくこいつは必要ないなと思いながら演じていました。ゼラがニコの手を踏みつけるんですけど、あれは僕のアドリブで。ただ「踏みつけたいな」と思って思いっきりガーンとやっちゃったんです。この作品にはそういうシーンが多いですね。あっかんべーとかも、実は台本にはそんなもの全然なくて。ゼラは自由に動けるキャラクターなので、思いのままめちゃくちゃにやらせていただきました。
──ほかに思いつきでやってみた場面は?
ほぼ全部ですかね……。人を投げたいときに投げちゃったりとか(笑)。
──(笑)。ちなみにそれはどなたを。
誰だったっけな? 撮影中に立ち位置が変わっちゃったんですよね。最後にゼラがうわーっておかしくなるときはどこで何を言おうとゼラの自由なので、ステージ上を歩きまわりながら演じていて。最後に誰かがそばにいたので「そいつをぶん投げよう」と思って投げちゃいました(笑)。
──投げられた方は驚いたでしょうね……。その場面はカットされてしまったんですか?
あります、あります。カメラの角度の問題でうまく映ってないかもしれないですけど。
──「撮影現場が寒くて暗くて、監獄のようだった」と共演者の皆さんがおっしゃっていましたが、撮影時につらかったことはありますか?
ないですね(即答)。
──まったく?
楽しかった。あえて言うならセリフが多すぎるのがつらかったです(笑)。ずっとしゃべってなきゃいけないし、セリフにドイツ語が入ってたり。ほかにもエラガバルス(14歳で即位したローマ皇帝の名)とか、ナチズムなどの専門用語も出てくるんですが、そういうセリフって覚えにくいんですよ。特に後半の、ゼラが狂気的になっていくシーンは早口で内容も難しいですし。だからセリフの練習はかなりしました。でも基本的にはすごく楽しくやらせていただきましたね。
──ナチズムを題材にした映像を観て、演説の仕方などを勉強なさったそうですね。
僕はもともと第二次世界大戦に関心があったので、当時をテーマにした映画はいっぱい観ていました。一番好きな映画は「シンドラーのリスト」。ほかにも監督から、この映画を観てみてって言われて「意志の勝利」「ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~」「黒蜥蜴」のDVDを貸していただいたりとか。
──物語が終盤に向かうにつれて振り切れた演技をされていましたが、この作品に出演したことで得たものはありますか?
こういう役は初めてだったので、得たものはだいぶ大きいですね。僕は28歳なんですが、今のうちにいろんな役をやったほうが引き出しの多い俳優になれるので、この役に出会えたことは今後確実にプラスになるなと思いました。
──初挑戦の役柄を演じ終えて、次はどんなキャラクターに取り組んでみたいですか?
実は俳優になってからの6年間で、一番やりたかった役がゼラなんです。叶ってしまったので、今はちょっと思い付かないですね……。いかんせん学生役が多いので、ちょっと大人なキャラクターがやりたいなと思います(笑)。
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「ライチ☆光クラブ」2月13日新宿バルト9にてロードショー、2月27日より全国拡大公開
工場から黒い煙が立ちのぼり、油にまみれた町、螢光町。この貧しい地の廃墟へ、深夜に集まる9人の中学生がいた。この秘密基地の名は「光クラブ」。光クラブのメンバーは醜い大人を否定し自分たちだけの世界をつくるため、兵器として機械(ロボット)を開発していた。巨大な鉄の塊で作られた機械が動く燃料は、永遠の美を象徴するライチの実。その機械は「ライチ」と名付けられ、悪魔の数列666でいよいよ起動する。ライチに与えられた目的は、光クラブに美しい希望をもたらす「少女の捕獲」。光クラブのリーダーであるタミヤ、実質的支配者のゼラ、ゼラを偏愛するジャイボと絶対的な忠誠を誓うニコ……光クラブ内でそれぞれの愛憎が入り乱れ、裏切り者探しがはじまる中、ライチはとうとう美少女・カノンの捕獲に成功する──。
果たして、少年が願う大人のいない永遠の美の王国は実現するのか……。
スタッフ / キャスト
監督:内藤瑛亮
脚本:冨永圭祐、内藤瑛亮
原作:古屋兎丸「ライチ☆光クラブ」(太田出版)
配給・宣伝:日活
制作:マーブルフィルム
出演:野村周平、古川雄輝、中条あやみ、間宮祥太朗、池田純矢、松田凌、戸塚純貴、柾木玲弥、藤原季節、岡山天音 、杉田智和(声)
©2016『ライチ☆光クラブ』製作委員会
古川雄輝(フルカワユウキ)
1987年12月18日生まれ。東京都出身。主演ドラマ「イタズラなKiss~Love in TOKYO」で日本のみならずアジア圏でもブレイク。そのほか「潔く柔く」「脳内ポイズンベリー」など話題作に立て続けに出演した。3月25日より主演舞台「イニシュマン島のビリー」が上演される。