コミックナタリー Power Push - 「ライチ☆光クラブ」

“成長を否定した少年たち”の証言

岡山天音(ヤコブ)

ヤコブは光クラブの中ではシンプルな人間

──原作はもともとご存知でしたか?

岡山天音

僕はマンガがけっこう好きなので、中学生の頃に1回だけ読んだことがありました。それまで読んできたマンガと次元が違いすぎて、そのときはピンとこなかったっていう印象があって、なんか通り過ぎた感じだった(笑)。

──役が決まってから再読なさったんですね。最初に原作に触れたときと印象は変わりましたか?

前よりは踏み込んで読めるようになっていました。「ぼくらの☆ひかりクラブ」っていう前日譚と合わせて読んだときにしっくりきましたね。「ライチ☆光クラブ」は色々とそぎ落として描かれてる印象だったので。「ぼくらの☆ひかりクラブ」を読んで、現実にいる自分とこのエッジの効いた世界との架け橋ができた感じはしました。

──ヤコブを演じるにあたって、何か特別な役作りはされましたか?

リハーサルが始まる前は、街で子供の動き方とかを見ていましたね。ヤコブは光クラブの中ではシンプルな人間で、等身大の14歳に近い感覚だと思ったので、そういう世代の子たちを「何が俺と違うんだろう?」って考えながら見ていました。

──同年代の俳優がたくさん出演されていますが、その中で最も親しかったのはどなたでしょうか?

(戸塚)純貴くんにはたくさん相談に乗ってもらいました。撮影後に純貴くんが部屋に遊びに来たときに、「ヤコブはどんな感じに見えてるのかな?」っていう話をして。純貴くんって大人数でいるときは常にスイッチオンで、口を開けば周りを沸かせてみたいな感じなんですけど、俺と2人になるとスイッチをオフにするんですよ。でもそのときは「俺もう今日この部屋に泊まるから」とすごく親身になってくれて、思っていることを何時間も色々話しましたね。

──先ほど戸塚さんにお話を伺ったときにも、岡山さんとのエピソードをとても濃密に話してくださいました(笑)。

岡山天音

マジですか!? 純貴くんは今まで出会ったことのないタイプの人なので、一緒にいるとすごく楽しいですね。

──ほかの方はいかがですか?

みんな芝居も人間性もカラーが違うので、それぞれに思い出がありますかねえ……。けっこうみんな規格外の感じだったので。(カネダ役の藤原)季節くんとは2人で飲んだりして。彼はすごいストイックで真面目なので、どんどん芝居の話になっていって。同世代の人と仕事の話をする機会って意外とないんです。この仕事を始めてけっこうな時間を過ごしてきましたけど、初めての体験でした。そのときに季節くんが話してた言葉や考え方とかは鮮明に残っていますね。めちゃめちゃ響きました。

──藤原さんとは、どのようなことをお話されたんでしょうか?

季節くんは、出会う前から僕の出演作を観てくれていて。で、けっこうちゃんとしたダメ出しをされましたね。僕が「そうだね……。でもさあ」って言っても全部論破されて(笑)。

無意識に「祭りだ祭りだー!」って言ってた

──ヤコブがデンタクや雷蔵と一緒に、ライチへ美とは何かを教えるシーンが印象的でした。

あの場面では雷蔵の胸を揉んでいるんですけど、無意識に「祭りだ祭りだー!」って言いながらやっていたんです(笑)。僕、気付いたら言っていて。本編では音がカットされてましたが、現場のみんながそれで笑ってくれたっていう思い出があります。けっこう深い時間の撮影だったんですけど(笑)。

──緊迫したシーンが続く中でヤコブが無邪気にはしゃいでいる様子に癒やされる方も多いと思うのですが、光クラブのメンバーの中でヤコブの役割をどのように考えていましたか?

唯一役割がないキャラクターなんですよね……(笑)。役割がないけどいるやつみたいな。中学とか小学校とかたまにグループにいましたけど、そんな感覚なのかな。鮮烈すぎる世界と観客との架け橋みたいな役割ですね。

──そうですね、ホッと一息つけるというか。

はい。光クラブにはタミヤ派とゼラ派で派閥が分かれているけど、ヤコブはどこにも属してなくて、ひょうひょうとしていますよね。何も役割がないのにいることができる、天然の処世術みたいなのに長けてるんだと思うんです。最初に世界史の先生が捕まったときとかも、自分から進んで目を見開かせに行くとか、そうやってうまいこと光クラブに居続けてるんだろうなって。本当になんの役割もないやつですからね……。逆にそれが役割みたいな感じですかね(笑)。

──ヤコブにとってのラストシーンはどのような心境で演じられましたか? すぐに叩きつけられてしまいますよね。

岡山天音

気付く前に死んでいたような感覚ですよね。ライチが近付いてきたことをポジティブに受け取っていて、予期せずして殺されるっていう。日常の地続きの感覚で、気付いたら命を絶たれてたみたいなことにしたかったんです。だから別にこれといって何かが自分の中でありましたという感じではないんですけど、そこを目指してやっていましたね。

──映画の中でここはぜひ観てほしいというポイントやシーンはありますか?

自分と重なるところを見つけてもらえたらうれしいですね。登場人物1人ひとりが、キャラクターというよりもちゃんと人間なんだって思ってほしい。誰にでも通ずる部分も本当はあると思うので。目を凝らして1人ひとりを観てほしいです。

「ライチ☆光クラブ」2月13日新宿バルト9にてロードショー、2月27日より全国拡大公開

「ライチ☆光クラブ」

工場から黒い煙が立ちのぼり、油にまみれた町、螢光町。この貧しい地の廃墟へ、深夜に集まる9人の中学生がいた。この秘密基地の名は「光クラブ」。光クラブのメンバーは醜い大人を否定し自分たちだけの世界をつくるため、兵器として機械(ロボット)を開発していた。巨大な鉄の塊で作られた機械が動く燃料は、永遠の美を象徴するライチの実。その機械は「ライチ」と名付けられ、悪魔の数列666でいよいよ起動する。ライチに与えられた目的は、光クラブに美しい希望をもたらす「少女の捕獲」。光クラブのリーダーであるタミヤ、実質的支配者のゼラ、ゼラを偏愛するジャイボと絶対的な忠誠を誓うニコ……光クラブ内でそれぞれの愛憎が入り乱れ、裏切り者探しがはじまる中、ライチはとうとう美少女・カノンの捕獲に成功する──。
果たして、少年が願う大人のいない永遠の美の王国は実現するのか……。

スタッフ / キャスト

監督:内藤瑛亮

脚本:冨永圭祐、内藤瑛亮

原作:古屋兎丸「ライチ☆光クラブ」(太田出版)

配給・宣伝:日活

制作:マーブルフィルム

出演:野村周平、古川雄輝、中条あやみ、間宮祥太朗、池田純矢、松田凌、戸塚純貴、柾木玲弥、藤原季節、岡山天音 、杉田智和(声)

岡山天音(オカヤマアマネ)

1994年6月17日生まれ、東京都出身。主な出演作はドラマ「家族狩り」「サマー・ストーカーズ・ブルース」、映画「死と恋と波と」「合葬」。2016年は「鬼談百景」「黒崎くんの言いなりになんてならない」「ドロメ」「セトウツミ」「雨にゆれる女」ほかが公開予定。