朝日新聞社が主催する第27回手塚治虫文化賞の贈呈式が、本日6月8日に東京・浜離宮朝日ホールで開催された。
第27回はマンガ大賞を
朝日新聞社の中村史郎氏の受賞作品の紹介、手塚プロダクションの松谷孝征氏の祝辞、手塚眞からのビデオメッセージの上映ののち、選考委員のトミヤマユキコ氏が選考報告を行う。マンガ大賞では、「ゆりあ先生の赤い糸」と遠藤達哉の「SPY×FAMILY」が拮抗していたことを明かす。しかし高齢化社会を反映したキャラクターの年齢や、見落とされがちな中高生女性を主人公に描いたこと、ゆりあ先生という50代女性のユニークな人生を通して現代の社会の問題について描いた点などが評価されたと述べた。
また新生賞では「断腸亭にちじょう」と高松美咲の「スキップとローファー」が議論に。それぞれの支持者がいたものの、「断腸亭にちじょう」は闘病記でありながらもマンガとして面白く見せる表現に満ちていることなど、マンガというフォーマットに落とし込む技能が優れていたという。短編賞では「女の子がいる場所は」が常に話題の中心だったと述べ、世界における女の子の立場の違いに気付くきっかけになったこと、議論ができる解釈幅があること、異文化について著者が文献を読み込んでいることなどが評価の高さに繋がったいい、トミヤマ氏は「すんなり決まった作品はない。それぞれ魅力と底力があった」と語った。
最初に舞台に登壇した入江は「何も考えずにここに来てます」と飄々とした様子でスピーチを始める。「去年90代の母の認知症がかなり酷くなってしまい、家族もみんな大変な時期でした」と振り返り、「自分でもどうしたらいいのか悩んでいましたが、めっちゃ元気になるようなマンガにしてやるっていう気合が入りました」と述べ、「ゆりあ先生に助けられた1年だった」と追懐する。またちょうど本日発表になったドラマ化に触れ、「観た方が元気になるドラマになるといいなと思っております」と期待を寄せた。
続いて登壇したガンプは「なんだかものすごい賞をいただいちゃって、正直悪い気がしないというか、うれしいです(笑)」と率直な思いを述べ、観客を笑わせる。「断腸亭にちじょう」で描かれた闘病を振り返り、「大腸がんになったときは、マンガを描くことはもう2度とないと思っていたんですよね。それでも描けたのは、僕もがんばったんですけど(笑)、いろんな人の助けがあったから」と、客席にいる離れずにサポートをしてくれたという担当編集や妻への感謝を語った。
緊張した面持ちのやまじは、「38年前、高野文子先生の作品に影響を受けて、8ページのマンガを描いてみました」と、これまでのマンガ家人生を振り返る。大学1年でデビューして以来、描きたいことを描き続けてきたというやまじは、近年描きたいことが出てこなくなり「私のマンガ家人生そろそろ仕舞かなと考えるようになりました」と思っていたという。そんなとき「描きたいこと」ではなく「描けること」は何かという発想で描いたのが、「女の子がいる場所は」だった。やまじは「描きたいことがなくなったら駄目、ではないんだとわかりました。これからも私に描けることがあるなら描いていこうと思います」と、今後のマンガ執筆への意欲も見せた。
最後に登場した楳図は、冒頭で手塚眞からのビデオメッセージで「手塚治虫とは違う路線で活躍した」という言葉に対し、「子供の頃、夢中で手塚治虫のマンガを読みました」と手塚作品の大ファンだったことを強くアピール。しかし、同級生に頼まれて貸した手塚作品のマンガが返ってこなかったことから、「手塚路線はやめようと思って今に至ります」と続け、観客の笑いを誘った。
なお贈呈式後は「楳図かずおを語ろう」と題したトークイベントも開催。選考委員であり、楳図のファンとしても知られる
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兎来栄寿@マンガソムリエ @toraieisu
『断腸亭にちじょう』のガンプさんが生きて栄誉ある賞を受賞されたことが特に嬉しいです。楳図かずおさんも86歳にしてエネルギッシュで創り手であり続けていることに敬服します。 https://t.co/2crMZjTp70