手塚治虫文化賞受賞作「その女、ジルバ」で“爆発”した思い、有間しのぶが明かす

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朝日新聞社が主催する第23回手塚治虫文化賞の贈呈式が、本日6月6日に東京・浜離宮朝日ホールにて行われた。

「その女、ジルバ」の展示の様子。モニターでは里中満智子ら選考委員のインタビュー映像が上映された。

「その女、ジルバ」の展示の様子。モニターでは里中満智子ら選考委員のインタビュー映像が上映された。

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有間しのぶ「その女、ジルバ」1巻

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今年はマンガ大賞を有間しのぶ「その女、ジルバ」、新生賞を山田参助「あれよ星屑」、短編賞を小山健「生理ちゃん」、特別賞をさいとう・たかをが受賞。贈呈を前に、選考委員を務めた南信長から選考経過が報告される。年間のベスト作品に贈られるマンガ大賞について、南は「最終選考に残った作品はいずれも甲乙つけがたかったが、意外性のある展開や前向きなキャラクターたちのパワーに後押しされるように、『その女、ジルバ』がほぼ満場一致で大賞に選ばれた」と説明。また大賞が決まった瞬間、かねてより有間しのぶファンだったという選考委員の桜庭一樹がガッツポーズを決めた姿が印象的だったと明かした。

贈呈式に移り、ステージに登壇した有間。「その女、ジルバ」の執筆にあたりさまざまな人々へ取材を行ったことを振り返り、「『私の力量で捌けるんだろうか』というくらい、その方たちが背負ってきた苦しさや怒り、悲しみをたくさん受け止めてきました」と語る。「それを物語にすることで喜びに変えられるのではないかという手応えを、『ジルバ』を描いてほんの少し感じたのが私にとって収穫だったと思います。だからといってその苦しみを今も抱えて生きている人たちにとっては恩恵になるのか、損なのか得なのか、その先の答えはまだわからないです」と続け、「でも私は、自分の仕事はただ目の前にあるものを地道にやっていくことだと、今回の賞に励まされました」と感謝を述べた。

さいとう・たかを

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さいとうには代表作である「ゴルゴ13」が連載50年を達成したこと、長年にわたるマンガ文化への貢献に対し特別賞が贈られた。「手塚治虫先生に対して恩義を感じている」と切り出したさいとう。若くから働かざるを得ず、大好きだった映画関係の仕事に進むことができなかった過去を思い返し、手塚の「新宝島」に出会ったことで「紙で映画みたいなことができる」と気付いたことを言葉にする。そこからマンガ家を志し今でも描き続けてきたことを振り返り、「どこまで描けるか、とにかくがんばってやろうという気持ちでいます」と今後の創作活動にも意欲を見せた。

山田参助

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自身にとって初の長編作「あれよ星屑」で新生賞に輝いた山田。“焼け跡”をテーマとした同作を執筆した経緯について、「私は昭和47年の生まれで、子供の頃は児童文学やTVドラマなどで戦争のことがたくさん描かれていて、戦争を知らない世代とはいえ、間接的に触れる機会がたくさんあった。最近、僕と同世代の人たちが意外とそういうことを覚えていないことを知り、『自分はこういうものを観てきた』というのをマンガにしてみたいと思って描いたのがこの作品です」と説明した。

小山健(左)と生理ちゃん(右)。

小山健(左)と生理ちゃん(右)。[拡大]

短編賞を受賞し、実写映画化も決定している「生理ちゃん」について、作者の小山は「生理ちゃん」の1話目を描いた際は「ただ、生理が玄関から入ってきたら面白いんじゃないか」とギャグマンガとして描いたことを述懐。しかし「2話、3話と回を重ねるにあたって取材が必要になり、女性から普段語られることのないいろいろな話を聞いていると、どうしようもなく心に芽生えてくるものがあった」と話す。「地球全体を覆う巨大な呪いに自分1人だけが気付いてしまったような孤独感がつきまとっていたところ、読者の方や担当さんが『このマンガを描いていいよ』と言ってくれて、(受賞を受けて)手塚治虫先生にも『描いていいよ』と言ってもらえたような気がしてとても心強いです」と思いを述べた。またステージには映画にも登場する生理ちゃんが登壇。小山の隣に並び、拍手が巻き起こる客席へと手を振っていた。

生理ちゃん

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さらに贈呈式のあとは有間と手塚るみ子、選考委員を務めた作家の桜庭一樹によるトークショーも展開。「その女、ジルバ」が大賞に決まった瞬間ガッツポーズを決めたことについて、桜庭は「ほかの先生方も『ジルバ』を推されていたんですが、選考会は生モノだから決まったと思ってもトイレに行って帰ってきたら流れが変わっていた、なんてこともあると聞いていて。なので皆さんが『ジルバ』を推していらっしゃる流れを変えてはいけないと、気配を殺していたんです。無事に決まった瞬間、存在感を出して(ガッツポーズをして)しまった」とそのときの心境を振り返った。桜庭は作家活動を行っていなかった20代の頃に有間の「モンキー・パトロール」に出会い、40代になった今「その女、ジルバ」を読んで新しい感動を得た喜びを感極まった様子で口にしていく。「『ジルバ』の中に、『モンキー・パトロール』の主人公の野市が一瞬出てくるんですよ。それを見た瞬間、もう会えないと思っていた主人公に会えたことで、『野市……!』と号泣してしまって。再会できてよかった」と溢れ出す愛を語り続けた。

「その女、ジルバ」の展示の様子。

「その女、ジルバ」の展示の様子。[拡大]

愛ゆえに止まらぬ桜庭のトークを受け止めながら、手塚は「気持ちはすごくわかります。ただ、有間先生にもお話しを伺いたい(笑)」と、有間へコメディ要素の強い「モンパト」と、移民をテーマに描く「ジルバ」の作風の変化について質問を投げかける。20代の後半から体調を崩すことがあったと話す有間は、「それまで描いていたギャグマンガでは自分の気持ちをまかないきれなくなって、何かを乗り越えていく主人公を描きたいと(心境が)変わっていった。苦しさを自分1人で乗り越えないといけない、乗り越えているのに誰もわかってくれないという悔しさみたいなものに共感を覚えるようになって、それが爆発したのが『ジルバ』だと思います」と胸の内を明かした。

朝日新聞のbeにて、手塚治虫が残した構想原稿を元に「小説 火の鳥 大地編」を連載中の桜庭。連載の話を受けた際は「絶句しました。周りにも『勇気あるね!』と言われたんですが、本当に勇気を出してやらせていただけるならと思い引き受けました」と思い返す。そして「原稿用紙2枚半のシノプシス(あらすじ)を見て、最初は『これだけしか残ってないの!?』と思ったんですが、たった2枚半の中にものすごく(情報が)濃縮されていて。必要なものが全部ある2枚半だったので、手塚先生がどう描かれるつもりだったかはわからないけれど、推理して推理して、きっとこうなんじゃないかと、なんとか『火の鳥』の続きとして描こうとしています」と語った。

トークショーの最後、今後の展望について問われた有間は「原作もやってみたいし、マンガだとおとぎ話のような絵本風味のものもやっていきたいし、実はBLも描きたい。……と、いろいろやりたいなと思っているので、これからもがんばっていきたいです」と意気込んだ。

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読者の反応

永井 祐子 @cafebleunet

取材を通じて得た人々の悔しさ、怒り、悲しみを「うたにする」とおっしゃって、「物語にするという意味です」と加えられ、そこに感動しました。有間先生にとって、うた=物語なのだと。 https://t.co/FTu1QVnYQN

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