個性派マンガ家が集まった紙-1フェスタ'09
2009年3月5日 14:57
2 コミックナタリー編集部
去る3月1日、「紙-1フェスタ'09」が下北沢440(four fourty)で開催され、個性派マンガ家たちが自作の紙芝居を披露した。「紙-1フェスタ'09」は、真の紙芝居チャンピオンを決める観客参加型のイベント「紙-1グランプリ」のスペシャル版。グランプリと異なり勝敗ジャッジはなく、紙-1参加者たちが一堂に会すショウケース的お祭りとなっている。
なかなか生で見る機会のないマンガ家たちがどんな紙芝居を演じるのか、注目度も高く前売りチケットは完売。会場は立ち見が出る盛況ぶりとなった。司会を務める主催者の三本美治と吉祥寺バサラブックスの福井康人が趣旨や注意点を説明し、イベントは和やかにスタート。
トップバッターを務めたのは、自費出版した「週刊オオハシ」で注目を集め、クイックジャパン(太田出版)や週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で執筆している大橋裕之。ミュージシャン前野健太とのコラボや、ミドリの1stシングル「swing」のライナーマンガなど、ボーダレスな活動でも注目を集めている。そんな大橋の紙芝居「ヒトシの挑戦」は、ドラゴンボールを想起させる主人公が、最強ビルと名づけられた建造物の最上階を目指すバトルもの。
続いて登場したのは「恋の門」で知られる羽生生純。「よいしょっ!」と元気な掛け声で始まった紙芝居「ウェスタンポーチ」は、主人公・セミヌードキッドと、おしゃべりな相棒・山田ブルゾンが活躍するパラレル西部劇。ウィキペディアで仕入れた情報を得意気に吹聴する昨今の豆知識ブームをチクリと批判し、時折セリフ噛んだりしつつもシニカルな笑いを誘った。また羽生生自身が手がけたBGMを使用し、多才ぶりをアピール。
3番手は「ワイルド・ナイツ」が発売されたばかりの古泉智浩。若者たちの会話劇「限りなく童貞に近いブルー」は、自主映画を制作する青年がいかにも口走りがちな「あるあるネタ」で勝負。原稿をコンビニで拡大コピーして厚紙に貼り重ねたローテク制作法を明かし、「制作費は2000円で、これはマンガを執筆するよりも高いんですよ」と自虐ネタを交えつつ、安定したトークで観客を引き込んだ。
目下、読売新聞社が密着取材を行っていると紹介されたのは田中六大。第5回ますむらひろしコミック大賞を受賞した実力派だ。田中の「くまくんとピエロさん」は、サーカスのスターから転落したクマとピエロが主人公のブラック童話。ほのぼのタッチの絵柄とは相反する内容で「下流」「派遣労働」など気になるワードを連発。会場内には気まずいムードと哀愁が漂った。
続いて5番手、松尾スズキや歌人の枡野浩一との共著でも知られ、昨年「出会いK」を発売した河井克夫。「うさぎバンド」のタイトルどおり、うさぎが動物を集めてバンドを結成するお話だ。自作曲と歌で場内を和ませた直後、動物たちは狼にガブリと食べられ全員死亡。来場していた児童が「怖いよー」と泣き叫ぶ阿鼻叫喚のトラウマ紙芝居となった。また社会派ラッパーとして名乗り出たシマウマを「怖い」と加入拒否したり、ドラマーのクマが覚醒剤で逮捕されるなど、音楽シーンをネタに大人向けの笑いを織り交ぜていた。
気合の入った蝶タイ姿で6番目に登場したのは、イラストレーター兼ギャグマンガ家の川崎タカオ。お下品なギャグ紙芝居「浮遊のソナタ」で、プロポーズ中の男性が急な便意に苦しむ姿を熱演した。独特のウィスパーボイスで語る「オザケンもライブ中に便意を催したりするのかな」などの妄想じみたモノローグに、場内は爆笑の渦に巻き込まれた。
ここでいったん休憩を挟み、第2部に突入する。第2部トップバッターは「東京ゾンビ」で知られる花くまゆうさく。栗栖という名の冴えない派遣社員が突然の派遣切りにあったのち、身体(ボディ)を透明にするマジックを覚えようとして挫折したり、アダムスキー型UFOに拉致されたりする紙芝居「ふしぎの国のクリス(栗栖)」を上演。波乱万丈な栗栖の人生を、抑揚のない語り口で冷酷に演じた。
そして、ディフェンディング・チャンピオンの堀道広が登場。焼き鳥工場で日夜鳥に串を刺す派遣社員の笹塚と、同僚の蟻のやり取りを愉快に描いた「刺すか笹塚」を披露した。寸劇を挟んだ高度な笑いのテクニックは、さすがはチャンピオンとうならせるものがあった。また堀は最近レーシックで角膜炎に集団感染したと告白。ニュースで放映された自分の姿を紙芝居の一コマに使うなど、片目が白濁し視力が下がった逆境を笑いへと昇華した。
「聖水」と呼ぶジャックダニエルを壇上に持ち込んだのはキクチヒロノリ。39ページにも及ぶ極彩色の大長編紙芝居は、思わず息を飲むほどの美しさ。創作に悩む美大出身の母と子供の紙芝居絵師をめぐる紙芝居というメタ的なテーマで熱演しはじめたが、しかし、話の筋はちょくちょく脱線し、小松崎茂や水木しげるの妖怪、宗教画についての膨大な知識や、楳図かずおの自宅へのリスペクトが止め処なく溢れ出す濃厚な時間となった。「モノを作る人はお金も大事ですが、人に喜んでもらうことが何より」と、紙芝居の中の登場人物と自分を重ね合わせる一幕も。
続いて登場したのはミュージシャンの松倉如子。ムシのポン太が主人公のミュージカル風紙芝居で、場内をうっとりさせ、がらりと今までの雰囲気を変えた。
そして、ガロ(青林堂)出身の田中ようた(ぼくは16角形)が舞台に上がった。カルトマンガ家、徳南晴一郎を思わせる作風で、紙芝居のタイトルは「孤独な桃太郎」。その名のとおり、おばあさんにもおじいさんにもキジにも犬にもそして、鬼にも出会わない孤独な桃太郎が次第に狂気の世界に取り込まれていく姿を上演し、会場を笑うに笑えない気まずいムードに突き落としていった。
トリを務めたのは落語家の川柳つくし。「紙芝居ではなく落語を演じます」と、イベントの趣旨をひっくり返す宣言とともにほのぼの風刺ネタを演じると、場内に平和な笑いが舞い戻った。
最後に出演者がそれぞれ近況や告知を語り、イベントは無事終了。雑誌や書籍とは違い、ダイレクトに読者の反応を見てとれる紙-1グランプリ。出演したマンガ家たちの顔は一様に晴れやかっだった。
紙-1は次回からふたたびグランプリ形式に戻るとのこと。「今回のイベントで紙芝居に興味を抱いた一般の人も参加してほしい」と、司会の三本は締めくくった。ミュージシャンにとってのライブのように、マンガ家にとってのライブとして紙芝居が定着することを期待したい。
ホリィ・セン @holysen
堀道広とか大橋裕之とか羽生生純とかが出てた「紙-1フェスタ'09」 https://t.co/pT4GQziJxz のDVDを買っちゃったんで(いつ届くか知らんけど)今度漫トロの人らと観たい