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コミティア―マンガの未来のために今できること 第1回 [バックナンバー]

コミティア実行委員会代表・中村公彦氏インタビュー

次の世代へコミティアを渡していかなければという気持ちは強く持っています

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これからのコミティアはどのような形で存続できるか

──今後コミティアがどのような形で存続できるかを考えたとき、例えばコミティアを中止にするのではなく、規模を縮小して開催するという案は出ましたか? 現状は4000~5000サークル規模ですが、それを昔のように1000サークルくらいの規模に戻すとか。

一旦今の運営方法を全部なしにして、ある程度先のことを見越して1から計画を考えるのであれば、その発想もありえると思います。でも、いざ目の前の9月・11月でそれができるかというと難しい。というのも単純に、1年前に会場を予約する必要があるので、小回りがきかないんですね。こちらの都合だけでキャンセルすれば会場費は返ってこない。とりあえず今の段階では、借りてる会場を予定通りの日程でやろうという発想、現在のシステムを維持する方向でギリギリまで考えるという方針です。それがもう全然無理ってなったら、毎月分散してやるとか、ビッグサイト以外を借りようとかの発想になるかもしれないです。

「COMITIA133」のチラシ。

「COMITIA133」のチラシ。

──根本的にシステムを変えなければいけなくなるんですね。

あと、単純に規模を小さくするとなったとき、かなりのサークル数を落選させなくてはいけなくなる。その調整であるとか、来場者の入場制限が必要になったりするので、小さくして労力が減るかというとむしろ増えてしまうんです。だからそう簡単にはいかないでしょうね。それでも、コミティアがなくなるよりは、昔のような少人数規模でやることも最悪の場合は考えなくてはいけないし、なんとかして続けたいとは思います。

──コミティアは地方でも開催していますが、そちらは東京と規模が違いますし開催できるのでしょうか?

それぞれ各地元の団体が運営しているので、こちらが判断してはいないのですが、今年の前半で言うと、名古屋、関西は中止、新潟は延期、福島でやっているみちのくコミティアも直接参加は全部なしにして、委託参加だけでやることになりました。地方コミティアって東京から人がいっぱい移動してくるので、会場や県から要請があったみたいで。ただ、東京よりは状況は比較的マシだと思うので、なんとか各地方で地元のサークルを大切にして持ちこたえてほしいという気持ちが強いです。

──ほかのコミックマーケットなどの同人イベントの方々と情報交換は進んでいますか。

COVID-19の問題が起きる前から、東京オリンピック・パラリンピックの対応で「DOUJIN JAPAN 2020」というキャンペーン的なことを始めていました。これは東京ビッグサイトを使っている、同人誌即売会等のイベント主催7団体で始めたもので、定期的に会合を持ったり、あとはメーリングリストで情報交換をしています。

自分が参加しても参加してなくても、参加しなくなっても続くイベント

──コミティアがどういう場なのかを考えた際に、「ティアズマガジン」に以前書かれていた「コミティアは『ふるさと』だと思っています」という言葉を思い出しました。

昔は出ていて、今は忙しくてサークル参加できないし、会場に足を運べないけど、いつもそこにあるという故郷のような安心感が作家側にもあるようですね。そういう気持ちを持ち続けてくれてる人が多いとしたらとてもありがたいです。今のコミティアの参加者も、「あと1回だけ開催できる」「最後に大きな花火を」というのは求めてないと思うんです。もっと継続的に、自分が参加しても参加してなくても、参加しなくなっても続いているイベントという、存在になることが大事だろうと。私が2013年に文化庁メディア芸術祭の功労賞をいただいたときに、功労賞の先輩であるモーニング創刊時の編集長・栗原良幸さんにスピーチをしていただいたんですね。そこで、コミティアが30年続いたのはめでたいけども、30年で満足するなと。50年、100年を目指せと言われて。「そうか!」と思いました。これから100年後も続くイベントとして、次の世代へコミティアを渡していかなければという気持ちは強く持っています。

コミティアの様子。

コミティアの様子。

──出張編集部なども含めて、プロのマンガ家を目指してる方にとってコミティアという場が当たり前の選択肢の1つとして存在してると思うんですけども、そこまでの存在にコミティアがなったのは何が理由だと思いますか。

回答になってるかわかりませんが、うちはたまたま、私がマンガ情報誌のぱふの編集者だったので、別に商業誌と同人誌を区別しなくてもいいんじゃないかという姿勢だったんです。コミティアが始まった頃は、同人誌と商業誌ってお互いに敵対心のようなものが強かった。でも創作にアマチュアもプロもなくて、まず作品がある。それが商業誌に載っていようが、同人誌に載っていようが、作品の価値は変わらないじゃないですか。だからまず作品をちゃんと読もうというのはあったし、商業誌の編集者にも読んでほしいと思って出張編集部を続けています。でも、それはオリジナルオンリーだから最初にできたところでもありますね。

──確かに、出張編集部はコミティアが先駆け的存在です。

また「ティアズマガジン」では「プッシュ&レビュー」っていう、作品をちゃんと読んで・選んで・評価しようっていうページを作ってきました。それを30年近く、かなり初期からずっとやってきたこともコミティアが大きくなった理由だと思います。最近それを改めて実感したのは、しまたけひとさんというマンガ家さんとの出会いでした。彼は、もともとプロとして活動していたものの、うまくいかずにもう筆を折る気持ちで四国のお遍路さんを回って、そのときの経験で「アルキヘンロズカン」という作品を描いたんです。もうこれで最後にしようという気持ちで描き始めたそうなんですけども、コミティアに同人誌で出したら早くに評価されて、逆にむしろやる気が出てきたみたいで復活したんです。のちに双葉社から商業単行本化されています。彼と話をしていて、「コミティアならわかってくれると思ってました」って言われたのは、すごく響いたんですよ。それはうれしいですよね。反面、もし私たちが気付かずにいたら、彼はそのまま筆を折っていたかもしれない。その“読んで、評価する”責任をすごく痛感しました。その気持ちをずっと忘れずにきてるというのはあります。

「アルキヘンロズカン」

「アルキヘンロズカン」

──実際、コミティアをきっかけにプロになった作家さんも多くいらっしゃいます。

全員がプロを目指しているかはわからないですけど、読者がたくさんいる場所が目の前にあったら、作家さんなら、特にプロを目指す人であればあるほど、自分の作品を読んでもらいたいはずだと思うんですよ。描きたいものを描くだけじゃなくて、それを読んでもらいたい、感想がほしい、反応がほしい。読者の存在は大きいんだと思います。コミティアは創作マンガが好きっていう目利きの読者がものすごくいっぱいいる。そこがオリジナルの作品を出したいという作家さんの気持ちとマッチしていたのかなと。卵が先か鶏が先かという感じはありますけど(笑)、私はそう思っています。

──普通の同人誌即売会はイベントを開催するだけで作品の評価とかはしないですからね。ちゃんと読んで評価される場として、「ティアズマガジン」は重要な役割を果たしています。

イベント側が作品を評価するのは不遜じゃないかというのは昔からあったんです。そういうのが嫌で抜けていくサークルさんももちろんいたと思います。苦手だなとか、敷居が高いなとか。でもそれをやり続けることで、「コミティアってそういうところだから」と認知された。出しっぱなしじゃない、作品を介した魂と魂の出会いっていうのが原点にあるんです。それを大事にしたいし、初期から持ち続けているところですね。運営を回す事務的な能力以外に、編集力のようなものがコミティアにはあるんだと思います。そこがほかの同人誌即売会との違いかもしれません。

──クラウドファンディングが成功して、なんとかコミティアが継続できることを願ってます。

出資してくださった方が満足できるような結果を出す、それはコミティアが続くことが一番のお返しになると思うんですけども、出資したことでリアルなコミティアに参加してるような気持ちになってくれたらいいなと、リターン案をいろいろと考えている最中です。

──最後に、コミティアの再開を待っている人に向けてメッセージをいただけますか。

「ティアズマガジン」の「ごあいさつ」によく〈コミティアはいつもここにいます〉と書いてたんですけども、今それが実現できていないのが、ものすごく申し訳ないという気持ちが強いです。私はやっぱりコミティアは“描かずにいられない”人に向けてやっているので、そういう人に発表の場を提供できてないのが一番つらい。でもどんな形であれ描くのは続けてほしいと思うんです。Webに発表するのでもいいと思います。コミティアは必ず復活します、と言い切るには不安な状況ですけど、必ず復活するつもりなので、それまで待っていてください。

中村公彦(ナカムラキミヒコ)

1961年東京都生まれ。成蹊大学卒業。在学中よりマンガ情報誌・ぱふ(雑草社)の編集部員となり、1988年から1993年の退職まで同誌編集長を務める。1984年、創作同人誌展示即売会・コミティアの設立に参画。翌年より実行委員会代表を務め、2014年には設立30周年を迎える。2014年、第17回文化庁メディア芸術祭で功労賞を受賞。2000年より、全国同人誌即売会連絡会の世話人も務める。

コミティアクラウドファンディング

実施期間:2020年8月28日(金)~10月23日(金)
目標額:3000万円
リターン品(一部)

  • コミティア公式キャラクター(きみぴこ・コミティアちゃん)オリジナルグッズ
  • 内藤泰弘、こうの史代、たつき(irodori)による描き下ろしオリジナルラベルのドリンク
  • サークル参加権(サークル参加者向け)
  • カタログ&先行入場権(一般参加者向け)

また法人向けに、会場内での広告掲示スペースや、カタログのPR記事制作・掲載など、 コミティアを媒体として企業PRが出来るコースも用意される。詳細は公式サイトにて確認を。

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