ロームシアター京都開館5周年「シーサイドタウン」松田正隆インタビュー|描くのは、追憶でなく故郷の現在

問いに向き合い、思考する人たちと挑む

──「レパートリーの創造」では毎回、クリエーションの期間がとても長く取られています。今回は昨年5月にオーディションが行われ、キャストが決定しました。夏と秋に短期間の稽古が実施されたのち、年末からの集中稽古を経て1月末に本番を迎えます。昨年11月のクリエーションでは、稽古後に松田さんと俳優、演出助手らスタッフが輪になってディベートしていました。その中で、俳優たちからたびたび夏の稽古を踏まえた発言が飛び出し、俳優たちの中でクリエーションがずっと続いていること、作品が熟成されていることを感じました。松田さんご自身も、作品に対する思いが変わっていったところはありますか?

松田正隆

戯曲はすでにできあがっているので、ここから大きく変わることはないと思いますが、こういう長期間の作り方はあまりしたことがありませんし、俳優たちの中で何かが変化したり、視線が変わってきたりすれば、その都度すり合わせをすることになると思います。

──キャストオーディションでは、「演劇における俳優の役割について」という課題作文が課せられていましたが、とても難しいテーマだなと思いました。

皆さん面白いことを書いていましたよ(笑)。ただ「俳優とはこういうものだ」と疑問なく書いている人は、「そうかなあ?」と思ってほとんど書類選考で落としました。定義付けられないものを問われて、回答を用意してる人より、問いに対してきちんと向き合って、それについてなんとか思考しようとしている人、考えを持続させようという態度を示す人が良いなって思うので。その点、今回出会えた俳優たちは抜群の感性を持っているので、安心してます。

──また、演出助手として演出家の福井裕孝さん、映像記録スタッフとして演出家の村川拓也さん、映像作家の米倉伸さんといった若手のアーティストが本作のクリエーションに参加していることも興味深いです。

ありがたいことですね。福井さんは「全国学生演劇祭」で審査員として出会って「面白いことをやる人がいるな」と思ったんです。彼はこれまでの演劇の作法に染まってない感覚を持ってるので、話していると刺激になりますし、彼のセンスを作品に取り入れながら稽古しています。映像に関しては……現段階でどうなるのか、実はよくわからないんですが(笑)、村川くんを信頼してお任せしてます。

“来るべき観客”と出会うために

──松田さんは京都で長く活動され、9年前に東京へ拠点を移されました。ロームシアター京都の開館前に松田さんは京都を離れていらっしゃいますが、客観的な目線で、京都の演劇シーンにロームシアター京都はどんな影響を与えていると思いますか?

松田正隆

ロームシアター京都で作品を作るのは今回が初めてなので、劇場自体のことはあまりよく知りません。でも私や岡田利規さんも参加している「劇場の学校」プロジェクトや、若い人たちをピックアップする「ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”」、国内外のアーティストを招く「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」、さらにアーカイブの作成など、劇場が本来やるべき教育や地域とのつながりを重じていて、マイノリティの人たちとどう切り結んでいくかということにも地道に取り組んでいる。また公共劇場である以上、創作劇を作っていくことも重要な問題だと思っていて。これからの若い作り手にぜひそういう機会を設けてもらい、今の価値観では捉えられないような感覚を、創作劇を通して作り上げてほしいし、そういう場を創出することが劇場の重要な役割なのではないかと思います。それが未来の、“来るべき観客”との出会いや希望につながっていくと思うので。その点で、ロームシアター京都はすでにそれを実践してると思うし、さらに今後、そういったことが求められていくんじゃないかなと思います。

──また「シーサイドタウン」では“帰郷”も重要なキーワードです。松田さんにとって、長崎はもちろん、京都もある意味、“故郷”なのではないかと思います。東京に拠点を移されて8年、京都に感じる懐かしさはありますか?

懐かしいは懐かしいですね(笑)。やっぱりクリエーションの場として京都は良いと思います。東京は劇場に行くまでのアクセスも抑圧感があるというか、便利は便利なんですけど、そこまでたどり着くまでの余白があんまりなくて、キツく感じます。でも京都では、劇場に行くまでに緑を見たりすることも重要だし、空間としての広がりがあるというか。硬直した旧態然とした劇場がいっぱいある中で、ロームシアター京都は現場が活性化するような環境なんですよね。だから今回、ロームシアター京都がこうやって創作現場を提供してくれたことは私にとって大きいです。もちろんロームシアター京都にもまったく問題がないわけではない。私自身、創作者の立場で介入し、境界線上に立ってロームシアター京都と接しているわけですが、劇場スタッフの方たちはアーティストにも観客にも、“集う場”を提供しようとしてくれているし、何か問題が起こってもそれを隠蔽せず、自浄活動をしていかれることだろうと思うので……。例えば今回、劇場が俳優とじっくり語り合う場を作って、俳優のほうから出演条件や規約について意見できる場が設けられたんですね。クリエーションについてだけでなく、ハラスメントや金銭面に対する契約を俳優と私と、そして劇場の人が共に話し合えるような場が作れた。演劇を作るって生活と密接に関わることだから、実はそういったことに取り組むのも創作活動の1つだと思いますし、公共劇場はそういうこともやらないといけない時代だと思う。ロームシアター京都がその先駆けになってくれればいいなと思います。

松田正隆