勝手知ったる空間、気心知れた人たちとフラットに楽しめるショーを
──先ほどから“日本らしさ”がキーワードとして挙がっていますが、今回後藤さんは、海外のお客様をかなり意識されているということでしょうか?
そうですね。できれば観客全員外国の方だったら面白いなと思いますけど(笑)。最低限の言葉だけで表現できれば、海外の方だけでなく子供やお年寄りの方も楽しめるものになると思うので、ラインをそこに設定したいなと。だからあまり小難しくなく、とにかくシンプルに行こうぜ、っていう話を皆さんとはしています。言葉に関しては、「Mr.ビーン以上の言葉は発しないで」とお願いしていて(笑)。Mr.ビーンが使う程度の限られた言葉でも、ちゃんと面白さって伝わるじゃないですか。今回はあそこに近付けたらいいなって。もちろん総合演出として、今後、各チームの稽古を見て調整をお願いする可能性もありますが、幸いにして話をしにくい人が1人もいないので、安心しています。
──皆さん、普段から関係性がおありの方なのでしょうか?
ええ、Fチームの大西千保さんは初めましてですが、ほかの方たちは関係性がありますね。
──確かに後藤さんのSNSにはたびたび若手の劇団やクリエイターの方が登場しますね。
演劇はそんなにあれこれ観てはいないんですけど、観たときはSNSに載せるようにはしていて、だからそう見えるのかもしれないですね。数年前に若手の連中を集めたオムニバス企画の総合演出をやって、そのときにいろいろな人たちと出会い、「こんな面白いヤツがいるんだ!」って思ったりもしましたし、ずっと若手だと思っていた人たちがあっという間にベテランになっていたりしていて、「じゃあ俺のポジションはどこなんだ」って感じたり(笑)。でも、新しい人とは積極的に出会うようにしています。やっぱり若い子から刺激をもらったり、逆に与えたりという関係を続けていかないと、大阪にずっといる意味がないと思いますから。
──また今回の顔ぶれもそうですが、笑いのセンスだけでなく身体能力が高い俳優さんも関西には多い気がします。
どうなんでしょう? ただ昔から気質としてあるのかもしれないですね。南河内万歳一座はもともと大阪芸術大学のプロレス同好会の人たちですし、劇団☆新感線も(当時よく公演をしていた扇町ミュージアムスクエアの近所にある)扇町公園で、ずっと筋トレをやったり走り回っていたりした時代がありましたら(笑)。
──今回、顔合わせが回替わりとなります。観る回によって「OSAKA SKIT theater」全体の印象もかなり変わりそうです。
そうですよね。全部成功といけばいいんですけど、そうでなければ総合演出の私の責任でもあります(笑)。
──舞台も張り出し型のステージで、シート席以外にスタンディング席もあるなど、通常の演劇公演よりもフラットな感じで観られるのかなと。構造的にも内容的にも、臨場感のあるステージとなりそうです。
そうですね。スタンディング席があるとどういうノリになるのかな……。チケットの値段も2000円という、演劇よりお笑いイベントに近い価格設定ですし、1団体20~30分程度の作品で、芸人がいて俳優がいて……面白いことになるんじゃないですかね。会場のHEP HALLも、俺、ここで育ったので懐かしいです。当時の遊気舎の座長さんがオレンジルームで演劇講座をやっていて、そこに訪ねて行き、ワークショップや講座に参加したことがきっかけで遊気舎の劇団員になったので。さんざん遊んだ場所でまた遊べるっていうのがすごく楽しみです(編集注:オレンジルームは阪急大阪梅田駅の近くの阪急ファイブ8階にあった小劇場で、劇団そとばこまち、劇団☆新感線、惑星ピスタチオ、そして遊気舎など当時の関西の人気劇団がこぞって公演した場所。その後1998年に阪急ファイブの建て替えが行われ、HEP HALLとなった)。
──今、大阪も海外のお客さんが非常に多いので、大阪に遊びに来たついでにふらっと劇場に立ち寄ってもらえると良いですね。
とにかく駅まで場所がいいので、ぜひ来てもらいたいですね。
8チームそれぞれの笑いを楽しんで
──改めて各チームの顔ぶれを見ると、「日本人がジョークを理解しないなんて誰が言った?」というサブタイトルをそのまま表現するように、8チームそれぞれ、いろいろな質の笑いが楽しめそうです。
ジョークに関する小話があって……アメリカ人はギャグを言った瞬間に笑うけど、日本人は「明日ジョークを言うよ」って予告しても笑わないって、笑いに関する国民性の違いを言ったものなんだけど、ずっと日本でコメディをやってきた人間としてはすごく屈辱的な話だなと思っていて。その思いもあり、今回、このサブタイトルを企画会議で出してみたところ、プロデューサーがえらく気に入ってくれて、結局サブタイトルになりました。でも本当に、これが核心だと思っています。日本人はちゃんと笑いをわかっているし、たくさん笑わせてきた人たちがいっぱいここにいるんだって。なので今回は、コメディショーとして笑って帰っていただけるものになることは間違いないです。
──しかも総合演出が後藤さんということで、これはもう安心です。後藤さんが作る笑いは、時代や場所、世代に関わらず普遍性があって、同時にファンタジーと“品”があるなと感じます。
私は誰かが傷つくような笑いはあってはいけないと思っていますし、笑ったことで元気になるようなものを作りたいと思っています、いつも。またこれは今回の「OSAKA SKIT theater」に直接関係なく、私が戯曲を書くときの話ですが、どれだけ笑ったかと、どれだけ泣くかは直結していると思っていて。9割笑わせておいて、最後に1滴、涙の要素を落とすとパーっと広がると思っているんですね。特にショーや演劇って、観に来たお客さんのほうが緊張していると思うんですよ。例えば一緒に行こうと誘った相手が、全然面白くないと感じたらどうしようとか、身内しかわからないギャグばっかりやっている劇団だったら気分悪くなっちゃうなとか(笑)、お客さんはきっとドキドキしているはずだと思うので、その緊張を柔らかくする一番は、笑わせることだと思っています。桂枝雀さんがおっしゃった“緊張の緩和”の話ではありませんが、最初に緊張をほぐすことでリラックスして楽しめるようになる。今回のメンバーはそれぞれ、綺麗な笑いの取り方をする良いメンバーばかりなので、その点でもぜひお楽しみに。
プロフィール
後藤ひろひと(ゴトウヒロヒト)
1969年、山形県生まれ。劇作・演出家。別名“大王”。1987年、大阪の劇団・遊気舎へ入団し、2代目座長を務める。遊気舎を退団後、1997年にPiperを結成。2001年には、自身が主宰する王立劇場を旗揚げした。関西を中心に、変幻自在なギャグとキテレツなキャラクターを持ち味にしたコメディ作品を多数発表している。代表作に「ガマ王子VSザリガニ魔人」「ダブリンの鐘つきカビ人間」「人間風車」「止まれない12人」など。2025年2月、「大阪国際文化芸術プロジェクト」の一環として上演される「FOLKER」の作・演出を手がける。
作・演出家が語る各チームの見どころ
- Aチーム
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総合演出を手がける後藤ひろひとが作・演出を担当。10年以上前に披露したことがある石丸謙二郎&内場勝則によるショートコントと、後藤が“今観てほしい人物”と推す、バケツドラマーshiutaのパフォーマンスが披露される。
- Bチーム
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身体1つですべてを表現するパワーマイムで知られる腹筋善之介が作・演出を担当。今回はパワーマイムでの演技経験もあり表現力豊かな中村容子と吉田憲章の2人と、腹筋善之介が出演する。
- Cチーム
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作・演出を担うのは、お笑いグループ、ザ・プラン9の久馬歩。出演者にはきょうくん、コヴァンサン、爆ノ介といったザ・プラン9メンバーのほか、表現の幅広さに定評があるサファリ・Pの佐々木ヤス子、お笑いコンビのビコーン!、NMB48の水田詩織が出演。
久馬歩コメント
前回(2024年2月に上演された「OSAKA SKIT theater~Actors Perform Timeless Hits!~」)に引き続きお声かけていただき、有り難うございます。本職の言葉を封じられ、大変ではありますが、佐々木ヤス子さんや水田詩織さんのお力を借り、お客様に面白世界旅行を伝えられたらな、と思っております。よろしくお願いします。
- Dチーム
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今勢いのある、京都のエンタメ集団・ゲキゲキ/劇団『劇団』の小西透太と古川剛充、大阪の劇作・演出家である金哲義が作・演出を担当。出演者には石原正一ショーの石原正一、ゲキゲキのさいとうひろき、サファリ・Pの佐々木ヤス子、俳優の樋口みどりこ、平川裕作が名を連ねた。
小西透太コメント
「とにかくシンプルに」をテーマに創作していますが、このテーマかなり奥が深いです。「これだ!」というアイデアが出ても、実はそこからさらに何段階もシンプルになり得る。シンプルのさらに奥へ。そんな作業を繰り返し、ようやく本当に「シンプルで楽しい」と思えるショートショートを8本ご用意いたしました! 頭空っぽでお楽しみください!
古川剛充コメント
言葉とか世代とかいろんなものを飛び越えて、どなた様にも「気軽に」楽しんでいただく!
それを突き詰めて考えるとこんな作品になりました。
我々は唯一、作・演出が3名のチーム。だからこそ盛り込みたくなるエッセンスをより削ぎ落としてわかりやすく!
難しいことはなしで、会場が一つになって楽しめたら最高です。想像力だけ持ってきてください!(笑)
金哲義コメント
「あ! この歌知ってる!」って歌に鼓動を弾ませて、クスッと笑えるエピソード、大きく笑えるエピソード、笑えるからこそなんか哀しいねんなんて、情も感じるエピソードをただただ楽しんでください。街を歩いたら、歌を聴いて思い出し笑いもできるはず。
思い出して笑えたら、あなたが生きる街もまた好きになれるはず。そんな想いを込めてお届けします!
- Eチーム
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作・演出はオパンポン創造社の野村有志。出演者にはシイナナのあっぱれ北村、舞台を中心に活動する高橋映美子、三等フランソワーズ主宰の中川浩六、俳優でシンガーの西原希蓉美、小骨座の浜間空洞、劇団テノヒラサイズの松木賢三が名を連ねる。
野村有志コメント
「Mr.Alice In Wonderland」
世界的に愛されるルイス・キャロル「不思議の国のアリス」をモチーフに、主人公の有栖が異世界でさまざまな出会いや人々との繋がりを体験する物語。ノンバーバルな表現で言葉を超えたエンターテイメント作品。どうぞお楽しみください。
- Fチーム
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ダンスボーカルエンタテインメント集団・RE:MAKEの大西千保が作・演出を担う。小劇場の舞台に多数出演する金田侑大、ダンススクール@B-irthの代表でもある宮野果菜、AiNa、Akitaka、Chii、MUKABI、村上穂花、RAYからprotrudeが登場。
大西千保コメント
Fチームの見どころは、演劇×ダンス×ヒット曲の最強コラボレーションです。俳優とダンサーがお互いの良さを存分に出しつつ、物語を繋いでいきます。そして、曲のラインナップもお楽しみに! 大人から子どもまで、誰しもが絶対に知っているヒット曲が流れるかと思いますので、舞台上と客席が一体になって盛り上がる楽しい30分になればと思います。人間の身体表現のチカラと音楽のチカラ、どちらもお楽しみ下さい!
- Gチーム
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ジャグリングやマジックを得意とする大道芸人・もりやすバンバンビガロが作・演出を担う。共演は、京都を拠点に活動する芸人の木下弱、ジャグリングやマイム、マジックなどを特技とするMr.オクチ。
もりやすバンバンビガロコメント
GチームはMr.オクチ、木下弱、もりやすバンバンビガロという、全員がパフォーマーで構成されたチームです。なのでパフォーマンスだらけの作品になります!(笑)
あととにかくお客さんとのコミュニケーションが多い舞台となっております。
わかりやすい音楽にわかりやすい内容、涙なし笑いありの作品になりそうです。
国内外の沢山のお客さんに観にきていただいて、万国共通の笑いを体験してください!!
お客さんが少ない場合、涙なし笑いなしの舞台ができあがります(笑)。
2024年12月19日更新
腹筋善之介コメント
「Mayim(マイム)」というタイトルですが、ヘブライ語で水を意味する言葉です。水の循環だけでなく、水が宇宙全体にどう関わっているのだろうかという疑問から出来た作品です。宇宙の誕生から地球の動植物、人間とどう関わって、未来はどうなるのか? そんなことを考えることができる、超マクロかつ超ミクロな世界を展開したいと思っています。