KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「オイディプスREXXX」杉原邦生×中村橋之助×南果歩インタビュー|若さとスピード感で魅せる、新感覚ギリシャ悲劇

自らのハードルを上げ続ける演出家・杉原邦生が、このたびギリシャ悲劇の初演出に挑む。過去に大罪を犯した若き王が、その罪によって滅亡へと追い込まれる様を描いたソポクレス作「オイディプス王」を、ストレートプレイ初挑戦の歌舞伎俳優・中村橋之助、2年ぶりの舞台出演となる南果歩らと立ち上げる。ギリシャ悲劇と聞いて、ひるむことなかれ。過去にはシェイクスピアや歌舞伎演目など、一見すると敷居が高いと思われる作品を、杉原は上質なエンタテインメントとして提示してきた。今回は河合祥一郎の新訳を用いて、斬新かつスピーディな「オイディプス王」を目指す。その作品の片鱗に迫るべく、本特集では杉原・橋之助・南の座談会により、「オイディプスREXXX(オイディプスレックス)」の魅力に迫る。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 金井尭子

「オイディプス王」に違和感があった

──杉原さんは2018年2月のKAATのラインナップ発表記者会見で「いつかギリシャ悲劇をやってみたかった」とお話されていました(参照:白井晃芸術監督が熱い思いを込め、KAATの2018年度ラインナップ発表)。このタイミングで挑戦することにしたのはなぜですか?

杉原邦生

杉原邦生 学生のときからずっと「いつかは……」と思っていました。と言うのも、大学の授業で蜷川幸雄さんが演出された「王女メディア」(編集注:東京・花園神社にて1984年に上演。主演は平幹二朗)の映像を観て、衝撃を受けたんです。「演出ってこんなに自由で面白いんだ!」と思い、それがきっかけで演出に興味を持つようになりました。ただ、ギリシャ悲劇って演劇の原点のようなものなので、すぐには挑戦できなかったんですよね。そのあと、近代劇、シェイクスピア、歌舞伎とさまざまな作品を演出する中で、徐々に作品の年代を遡ってきた感じがあって、今なら紀元前の古典に挑戦できるんじゃないかと。また今回はKAATと一緒に作品を作るので、自分のカンパニーでの創作とはまた違う挑戦ができる。それならギリシャ悲劇で冒険してみたいと考えました。

──ギリシャ悲劇の中でも、「オイディプス王」を上演することにしたのは?

杉原 これまでいくつかの「オイディプス王」を観て、ずっと違和感があったんです。「なんでオイディプスをこんな年上の俳優さんが演じているんだろう? イオカステと親子なんだから、2人は、少なくとも15歳くらい年が離れているんじゃないか」と。だから僕がやるときはキャスティングから再考しようと思っていて、それが「『オイディプス王』をやりたい」と思ったきっかけでもあります。

中村橋之助

中村橋之助 僕も「オイディプス王」っていうと熟練の方が演じられているイメージがあったので、「『オイディプス王』のオファーをいただいた」と家族のLINEグループで最初に知ったときは、僕の話ではなくて父(八代目中村芝翫)の話だと思ったんですよ(笑)。父はよく自分がうれしいことをLINEで共有してくれるので、「よかったですね」と返したら「お前の話だよ」と。すごくびっくりしました。僕は生まれて22年、歌舞伎以外のお芝居に出たことがまだなくて。でもずっと歌舞伎以外の作品にも興味があったのと、今年の7月に襲名披露興行が終わり、僕も橋之助としていろいろなことに挑戦していきたいと思っていたところだったので、こういうお話をいただけて、率直にうれしかったです。

南果歩 「オイディプス王」は演劇を始めた大学で、座学の最初の教材でした。だから私にとっては教科書のイメージ(笑)。でも18歳のときに読んだときはあまり理解してなかったんだな、と今感じています。例えばセリフにはなっていないけれど、オイディプスやイオカステの気持ちに揺れがあったり、自分が過去にやってしまったことを美化していたり、人間の醜悪な部分がたくさん見えてきて、「ああ、人間って自分本位に歴史を塗り替えていくものなんだな。防衛本能が働く動物なんだな」という発見を、稽古場で毎日しています。

杉原演出に衝撃を受けた

──南さんは、杉原さんが演出した木ノ下歌舞伎「勧進帳」再演(18年)をご覧になったそうですね。

南果歩

 ええ。今回のオファーをいただいて、観に行きました。で、「作品が何かということより、とにかくこの人とお仕事がしたい!」と思って、終演後すぐに「次回はよろしくお願いします」とお話して。

杉原 そうなんですよ、まずはご挨拶だけ……と思っていたら「よろしくお願いします」と言ってくださって、「今のは出演OKってことかな?」ってプロデューサーとザワザワしました(笑)。

──橋之助さんも木ノ下歌舞伎の「勧進帳」をご覧になっているとか。

橋之助 はい。2年前に信州・まつもと大歌舞伎「四谷怪談」に出演したとき、同じ時期に木ノ下歌舞伎の「勧進帳」が上演されていたので、中村鶴松と一緒に観に行ったんです。「勧進帳」は子供の頃から観ていてその面白さはよくわかっているつもりだったけど、理解したつもりでスルーしていることがたくさんあるんじゃないかって、雷が落ちたような衝撃を受けたんです。観終わって、「これは僕たち、もっとちゃんとやらないとマズイな。がんばっていっぱい引き出しを作らないといけないな」って2人で話したことを、すごく鮮明に覚えています。今回、杉原さんが稽古の冒頭で「まず疑うこと」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思いました。そういった目線で台本を読み直すと、オイディプスは(自分の意志ではなく)神の信託で行動したって言っているけど、人を殺してるわけだからやっぱりオイディプス自身が悪いのではないかとか、イオカステにも悪いところがあったのではないかとか、作品を根底から疑うことを初めて体験し、とても勉強になっています。

杉原 偶然お二人とも「勧進帳」を観てくださっていたので、稽古がとてもやりやすいです。僕が目指すテンポや世界観を一から説明しなくてもわかってくださっているから動きやすい。いつも以上にぐっと関係を詰めたところから作れている感じがして、とてもありがたいです。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「オイディプスREXXX」
2018年12月12日(水)~24日(月・振休)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
「オイディプスREXXX」
スタッフ / キャスト

作:ソポクレス

翻訳:河合祥一郎(光文社古典新訳文庫「オイディプス王」)

演出:杉原邦生

出演:中村橋之助、南果歩、宮崎吐夢 / 大久保祥太郎、山口航太、箱田暁史、新名基浩、山森大輔、立和名真大

ストーリー

テーバイの都に突如襲い掛かってきた疫病の原因が、先王ライオスの殺害の汚れにあるとアポロンの神託によって知らされたオイディプス王は犯人糾明に取り掛かる。しかしその犯人が実は自分であり、しかも産みの母と交わって子をもうけていたことを知ると、オイディプスは自らの目を潰し、王位を退くのだった。

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杉原邦生(スギハラクニオ)
1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎市育ち。京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中に自身がさまざまな作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げる。これまでにイヨネスコの「椅子」や、上演時間が約8時間半におよぶ「エンジェルス・イン・アメリカ」第1・2部を連続上演している。2008年から10年には、こまばアゴラ劇場主催の舞台芸術フェスティバル「舞台芸術フェスティバル<サミット>」ディレクター、10年から13年まではKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画のコンセプターを務めた。第36回京都府文化賞奨励賞受賞。近年の演出作に、KUNIO「ハムレット」「TATAMI」、木ノ下歌舞伎「黒塚」「三人吉三」、東京芸術劇場+ホリプロ「池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」、「八月納涼歌舞伎」(構成)など。
中村橋之助(ナカムラハシノスケ)
1995年東京都生まれ。成駒屋。八代目中村芝翫の長男。2000年、九月歌舞伎座「京鹿子娘道成寺」所化、「菊晴勢若駒」春駒の童で初代中村国生を名乗り初舞台。16年に四代目橋之助を襲名した。17年には「車引」の梅王丸や「寿曽我対面」の五郎など、さまざまな立役に挑戦。19年1月には「新春浅草歌舞伎」への出演が控える。
南果歩(ミナミカホ)
1961年兵庫県生まれ。84年に主演映画「伽倻子のために」でデビュー。89年に「夢見通りの人々」でエランドール賞新人賞を受賞。また同作と「螢」でブルーリボン賞助演女優賞、「お父さんのバックドロップ」で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作にテレビドラマ「定年女子」「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」、映画「オー・ルーシー!」、舞台「パーマ屋スミレ」など。