KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「オイディプスREXXX」杉原邦生×中村橋之助×南果歩インタビュー|若さとスピード感で魅せる、新感覚ギリシャ悲劇

日本一わかりやすくてスピーディな河合祥一郎の新訳

──今公演では、英文学者・翻訳家でKawai Projectを主宰する河合祥一郎さんの新訳(光文社古典新訳文庫)が使われます。シンプルな言葉でテンポよくつづられており、非常に読みやすく、作品世界がつかみやすいと感じました。

杉原 そうですよね。上演に向けていくつかの翻訳を読み返したんですけれど、河合先生の訳は今、日本一わかりやすくてスピーディだと思いました。まだこの河合訳では実演されたことがないということだったので、ぜひ河合先生の訳を使わせていただきたいなと。河合先生もたびたび稽古場に来てくださって、いろいろご相談をしています。例えば橋之助くんに合わせて一人称を“私”から“俺”に変えてもらったり、できる限りスピーディに展開させたいので1時間45分くらいになるよう、コンパクトにしてもらったり。また、河合先生は言葉の数にもこだわってリズム感を大切に訳されているので、そもそもリズミカルに響くのだと思います。

南果歩

──俳優のお二人にとって、台本の印象は?

 邦生さんがおっしゃるように、もっともわかりやすく書かれているギリシャ悲劇なのかもしれないです。でも覚えるほうとしてはやっぱり……手強いですね(苦笑)。

一同 あははは!

 しかも邦生さんは、ギリシャ悲劇的な歌うようなセリフ回しを根こそぎ崩して、そのセリフが自分の言葉として自然に口から出ちゃった、というように演出されるので、リアリティを持ったやり取りが生まれてくる。「そうか、邦生演出ってこういうことなんだ!」と日々実感しています。以前「勧進帳」を観て私が衝撃を受けたのは、邦生さんがこれまで観てきた演出家と、リズム感が違うことだったんですね。自分にはない、邦生さん独自のビートがあるなって。でも実際に演出を受けると、邦生さんの演出がすごく身体にフィットした。だから「私にもこういう感覚がないわけじゃなくて、眠ってただけなんだ」ということに気付いて。そうとわかればもっと自由になれる!と思ってはいるんですけど、それにはセリフを完璧に入れないと……。

杉原 そういえば橋之助くん、稽古初日に「杉原さんヤバいですー、セリフが覚えられないですー!」って顔を合わせるなり言ってて。

中村橋之助

橋之助 だから僕、インターネットで「芸能人、セリフ、覚え方」って検索したんです。

 そんなのあるの!?

橋之助 藁にもすがる思いで(笑)。そうしたらいろんな芸能人の方のセリフの覚え方がまとめになってたんです……っていう話を稽古初日に吐夢さんにしたら、吐夢さんも同じページを見たみたいで。

一同 あははは!

橋之助 吐夢さんはそのとき「セリフは覚えずに稽古場に行く」って宣言してたんですけど、「そうは言っても絶対覚えてくるんだろうな」って思ってたら、本当に稽古しながらセリフを覚えようとしてて、すごく安心しました(笑)。

杉原 (笑)。まあ言い回しが独特だから、確かに覚えるのが大変だよね。

橋之助 「~である」「~であるのだ」というセリフを、ギリシャ悲劇ふうに言わないようにしてるんですけど、録音した自分の声を聞くと、やっぱり歌うみたいにセリフを言ってしまってて。

 そう、難しいんですよね。

囲み舞台、至近距離で展開する「オイディプスREXXX」

 それと今回、コロス(編集注:ギリシャ悲劇に登場する合唱隊のこと)の人たちはセリフをラップで語るんですね。邦生さんはコロスを一団体としてけっして扱いません。個と個が集まってるだけで、群集ではないという捉え方なんです。それって正しいと思うんですよね。もちろん主役はストーリーを引っ張るために自分の人生を歩んでいくんだけど、主役以外の登場人物にもそれぞれに人生があって、それぞれが自分の人生の主人公だという考え方。だからコロス1人ひとりに焦点を当てて追いかけて観るのも面白いと思うんです。この人にはどういう家族がいて、どういう人間で、それぞれの命の重さに甲乙はない……そういう邦生さんの感性は素晴らしい。

──木ノ下歌舞伎「勧進帳」再演では、義経の家来と、富樫の家来である番卒という敵対する2役を、4人の俳優が入れ替わり立ち替わり演じました。さらに4人それぞれのキャラクターを掘り下げたことで、人生の多様さやはかなさ、彼らを率いる義経や冨樫の孤独や悲しみが浮き彫りになりました。

橋之助 その「勧進帳」の印象が強かったので、今回僕も複数の役を演じるのかなって思ってたんですよ。例えばオイディプスと羊飼いの対話を(スイッチングの振りをして)1人でやるのは大変だなあって……。

杉原 それは大変でしょ!

一同 あははは!

──また杉原さんは美術もご自身で手がけられることが多いですが、今回は建築家・藤原徹平さん率いるフジワラテッペイアーキテクツラボが空間構成スタッフとしてクレジットされています。

杉原邦生

杉原 藤原さんとは初めてご一緒させていただきます。最近は自分の美術でやることが多くて、そのよさもある反面、マンネリ化する可能性は常にあるなと思っていたんです。今回、藤原さんには空間構成という形で入っていただいているんですが、最初の打ち合わせで20パターンくらい、舞台の構造プランを出していただきました。多くはオーソドックスな対面式舞台か挟み舞台の形状だったんですけど、藤原さんと話す中で、この物語は堕ちていく王の話だから、舞台を見下ろす感じの囲み舞台がいいんじゃないかというアイデアが浮かんで。四方から囲んで観る、蟻地獄的な八角形の観客席にする予定です。しかもセンターのステージも2間半(約4.5m)しかない。客席からめちゃめちゃ近い場所で演じることになります。

──それは臨場感がありますね! 客席が美術になる感じなんですね。

杉原 そうなんです。

8役を3人で演じる必然性

──今回は古代ギリシャ悲劇の上演スタイルにのっとり、主な登場人物8人をメインキャストの橋之助さん、南さん、宮崎さんの3人が演じ分けます。杉原さんは演出上の“必然性”をいつも大切にしていらっしゃると思いますが、今回、実際に稽古していく中で、8役を3人で演じる“必然性”は見えてきていますか?

杉原 8役を3人で演じると言っても、橋之助くんはオイディプス王1役で、あとは果歩さんがメインのイオカステ含む4役、吐夢さんがクレオン含む3役を演じます。ある場面で、果歩さんがイオカステを演じた直後に羊飼いの役をやるんですけど、我が子を捨ててくるように命じたイオカステと、子供がかわいそうで捨てられなかった羊飼い、1人の人間の引き裂かれた二面性が描き出されるような感じがして。それぞれ別の俳優が演じているときはなんとも思わなかったのに、同じ俳優が演じることで新たに見えてくることがありますね。羊飼いのセリフにこんなにぐっときたこと、これまでなかったなって。

 私も思わなかった!

杉原 ですよね。そういうところがたぶんほかにもたくさん出てくると思う。さらにラップが入ってきたり、すごいことになってるので(笑)。

 ラップ練習のときは邦生さんが一番ノリノリですよね(笑)。

一同 あははは!

杉原 いろいろ盛り込んでるので、自分でもときどき「あれ? 今、何を作ってるんだったっけ?」ってわからなくなるときがあるくらい(笑)。きっとこれまで観たことがない「オイディプス」になると思います!

左から杉原邦生、中村橋之助、南果歩。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「オイディプスREXXX」
2018年12月12日(水)~24日(月・振休)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
「オイディプスREXXX」
スタッフ / キャスト

作:ソポクレス

翻訳:河合祥一郎(光文社古典新訳文庫「オイディプス王」)

演出:杉原邦生

出演:中村橋之助、南果歩、宮崎吐夢 / 大久保祥太郎、山口航太、箱田暁史、新名基浩、山森大輔、立和名真大

ストーリー

テーバイの都に突如襲い掛かってきた疫病の原因が、先王ライオスの殺害の汚れにあるとアポロンの神託によって知らされたオイディプス王は犯人糾明に取り掛かる。しかしその犯人が実は自分であり、しかも産みの母と交わって子をもうけていたことを知ると、オイディプスは自らの目を潰し、王位を退くのだった。

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杉原邦生(スギハラクニオ)
1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎市育ち。京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科在学中に自身がさまざまな作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げる。これまでにイヨネスコの「椅子」や、上演時間が約8時間半におよぶ「エンジェルス・イン・アメリカ」第1・2部を連続上演している。2008年から10年には、こまばアゴラ劇場主催の舞台芸術フェスティバル「舞台芸術フェスティバル<サミット>」ディレクター、10年から13年まではKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画のコンセプターを務めた。第36回京都府文化賞奨励賞受賞。近年の演出作に、KUNIO「ハムレット」「TATAMI」、木ノ下歌舞伎「黒塚」「三人吉三」、東京芸術劇場+ホリプロ「池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ルーツ」、「八月納涼歌舞伎」(構成)など。
中村橋之助(ナカムラハシノスケ)
1995年東京都生まれ。成駒屋。八代目中村芝翫の長男。2000年、九月歌舞伎座「京鹿子娘道成寺」所化、「菊晴勢若駒」春駒の童で初代中村国生を名乗り初舞台。16年に四代目橋之助を襲名した。17年には「車引」の梅王丸や「寿曽我対面」の五郎など、さまざまな立役に挑戦。19年1月には「新春浅草歌舞伎」への出演が控える。
南果歩(ミナミカホ)
1961年兵庫県生まれ。84年に主演映画「伽倻子のために」でデビュー。89年に「夢見通りの人々」でエランドール賞新人賞を受賞。また同作と「螢」でブルーリボン賞助演女優賞、「お父さんのバックドロップ」で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作にテレビドラマ「定年女子」「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」、映画「オー・ルーシー!」、舞台「パーマ屋スミレ」など。