KAAT「三文オペラ」谷賢一×志磨遼平|負けず嫌いであまのじゃくな2人とブレヒトの“取っ組み合い”

“演劇悪魔”こと谷賢一が、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース公演に演出家として初登場。今回、ロックバンド・ドレスコーズの志磨遼平を音楽監督に迎えて上演するのは、叙事的演劇を提唱した劇作家ベルトルト・ブレヒトの音楽劇「三文オペラ」だ。

自らを負けず嫌いのあまのじゃくと称する2人は、本作を通して、ブレヒトとどのような“取っ組み合い”を繰り広げているのか。また演劇、音楽、それぞれのフィールドで活躍する2人にとって、“芸術のつとめ”とは?

取材・文 / 興野汐里 撮影 / 川野結李歌

デモを聴いたとき、「やってくれた!」って震えました(谷)

──稽古が始まって3週間ほどですが(取材は12月中旬に行われた)、志磨さんもかなりの頻度で稽古に立ち会っていらっしゃるそうですね。

左から谷賢一、志磨遼平。

谷賢一 面白がってしょっちゅう来てくれるんです。(音楽監督としての)仕事があるときもあれば、ただ観てるときもある(笑)。演劇自体にすごく興味を持ってくれているのでうれしいですね。

──志磨さんはミュージシャンとして活動する傍ら、ドラマ「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」や、映画「溺れるナイフ」に俳優として出演されています。今回初めて舞台作品に携わられて、どのような印象を受けましたか?

志磨遼平 これまで自分は観客として立ち会うという関わり方しかしていなかったものですから、みんながお芝居を作り上げていく現場に立ち会ってみて、想像していたより何倍も面白かったです。なんというか、根底から覆される感じ。毎日観ていても飽きないし、単純にものすごく興奮しますね。

──演劇と音楽、それぞれ異なるフィールドで活動されながらも、お二人からは、何か熱いものを内に秘めているような近しい印象を受けるのですが……。

 俺ら、共通の熱源みたいなものってあるのかな? 志磨さんって負けず嫌い?

志磨 すごく(笑)。

 じゃあそこだ(笑)。

志磨 負けず嫌いのあまのじゃく。

 めちゃめちゃわかるわー(笑)。でも大体のクリエイターは負けず嫌いのあまのじゃくなのかもしれないけどね。

志磨 劇団の主宰だったり、バンドのリーダーだったり、フロントマンのようなポジションに自ずとなっていったのは、そういうことなんでしょうね。

──今回、「三文オペラ」の音楽監督を志磨さんに依頼した決め手は何だったのでしょうか?

谷賢一

 二十歳を過ぎてから、特定のバンドやミュージシャンの音楽を追いかけて聴くことがなくなったんですけど、志磨さんの音楽は二十歳を過ぎてからもずっと継続して聴いていたので愛着があったんです。同時に、今回は今までと違う「三文オペラ」を作りたいという思いがあって。これまで観てきた音楽劇では、言葉が聴こえてこなかったり、原作には忠実なんだろうけど、ダサい仕上がりになってしまっている作品に鼻じらむことがあったので、きちんと日本語が立ってくる歌にしたいなと思っていたんです。そんなときに志磨さんがパッと思い付いて。

──お二人は、どのようにコミニュケーションを取りながら制作を進めていっているのでしょう。

志磨 まず歌詞を作ろうということになって、2人の考えをクロスさせていくところから始めました。台本の初稿を参照しながら、「この曲はこういうことなんだ」っていう認識を2人で擦り合わせていって、僕が書いた歌詞を送って、谷さんから「いいよ、いいよ」って褒めてもらうっていう流れでしたね(笑)。

 1曲につき2~3行くらいのコンセプトというか、“基本のお願い”のような文章をお渡しして、「あとは自由にやってくれ」ってパスして。大体、一発OKでしたね。最初の打ち合わせのときに、「実はこの曲、僕もまだよくわかっていなくて……」みたいな感じでお任せしちゃったところもあったんですけど、結果的に自由に料理してもらってよかったなと。コクのある日本語の歌詞がたくさん盛り込まれていていいなって思いました。

──KAAT神奈川芸術劇場の所在地でもある横浜という街と重ね合わせた歌詞が登場したり、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」などが引用されているのが特に印象的でした。

志磨遼平

志磨 台本には「横浜」って一度も出てきてないんですよ(笑)。

 ははは(笑)。

志磨 「三文オペラ」は、ブレヒトとヴァイルがすごく独特な共作の仕方をしている作品だから、谷さんの意向に対して僕の解釈を入れる余地がものすごくあったんですね。これが別の作品だったら、設定にない固有名詞をバンバン入れたり、まったく脈略のないところから引用することなんて許されないと思うので。「はあ? 何やってんの?」って言われておしまいですよ(笑)。

 「横浜」というキーワードは想像だにしていなかった入り方だったし、そこから連なってくる日本語もムード歌謡の世界を彷彿とさせて、最初にデモを聴いたとき、「やってくれた!」って震えましたね。オファーした時点でやってくれるんじゃないかとは思っていたんですが、その想像をはるかに超えていて、僕が一番初めに「三文オペラ」に触れたときの「何だと!?」って度肝を抜かれた感覚に似ていた。それでいて、志磨さんの歌詞がちゃんと芝居の文脈に寄り添っているのは、非常に面白いなと思いました。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「三文オペラ」
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『三文オペラ』

2018年1月23日(火)~2月4日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール

2018年2月10日(土)
北海道 札幌市教育文化会館 大ホール

作:ベルトルト・ブレヒト

音楽:クルト・ヴァイル

演出・上演台本:谷賢一

音楽監督:志磨遼平(ドレスコーズ)

出演:松岡充、吉本実憂、峯岸みなみ、貴城けい、村岡希美、高橋和也、白井晃 / 青柳塁斗、相川忍、今村洋一、小出奈央、小角まや、奈良坂潤紀、西岡未央、野坂弘、早瀬マミ、平川和宏、峰﨑亮介、森山大輔、和田武

あらすじ

マクヒィス(松岡充)は、乞食商会社長ピーチャム(白井晃)の一人娘ポリー(吉本実憂)を見初め、その日のうちに結婚式を挙げる。それを知ったピーチャムとピーチャム夫人(村岡希美)は2人を別れさせるため、マクヒィスの親友である警視総監タイガー・ブラウン(高橋和也)を脅し、彼を逮捕させようと画策。両親の企みをポリーから聞いたマクヒィスは、逃げると称して娼館に立ち寄るが、そこで昔なじみのジェニー(貴城けい)に裏切られ、逮捕されてしまう。牢獄を訪ねてきたポリーと、マクヒィスといい仲になっているブラウンの娘ルーシー(峯岸みなみ)が鉢合わせしたことを利用し、彼はまんまと脱獄するが……。

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谷賢一(タニケンイチ)
1982年福島県生まれ、千葉県柏市育ち。作家・演出家・翻訳家。DULL-COLORED POP主宰、Theatre des Annales代表。明治大学演劇学専攻、ならびにイギリス・University of Kent at Canterbury, Theatre and Drama Study にて演劇学を学んだのち、DULL-COLORED POPを旗揚げ。2013年には「最後の精神分析」で翻訳・演出を務め、第6回小田島雄志翻訳戯曲賞ならびに文化庁芸術祭優秀賞を受賞。また近年では海外演出家とのコラボレーション作品も多く手がけ、15年のシディ・ラルビ・シェルカウイ演出「PLUTO」では上演台本を担当し、同年のアンドリュー・ゴールドバーグ演出「マクベス」には演出補で参加。さらに16年のデヴィッド・ルヴォー演出「ETERNAL CHIKAMATSU」では脚本を手がけている。
志磨遼平(シマリョウヘイ)
1982年和歌山県出身。ミュージシャン・文筆家・俳優。2006年に毛皮のマリーズとしてデビューし、11年まで活動。翌12年にドレスコーズを結成する。14年にバンドを解体し、現在ドレスコーズは志磨のソロプロジェクトとして、メンバーが流動的に出入りする形態で活動中。16年には俳優として、映画「溺れるナイフ」、WOWOW 連続ドラマW「グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-」に出演した。

2018年4月27日更新