ガンダムのコクピットで神を演じる能楽師と、肉体の記憶まで降ろす声優
──宗家は社会人有志による和の会の「体感する能」シリーズなど、“感じること”を大切に活動されていますが、神や夢幻能での死者の役を演じるときに、舞台上の身体の感覚はどのように捉えているんですか?
和英 本当に不思議なのですが、能楽では役になりきれないんですよ。意識が身体を操っているような、「機動戦士ガンダム」のガンダムのコクピットにいるイメージなんです。乗り手の演じたいという気持ちはあるんですが、そこに、いかに正確さを求めるかという冷静さも共存していて。僕は「演技してはダメだ」とずっと言われてきたんですね。だから、自分らしさをどう出すかというところで、さっき言った「鬼は優しく、女性は強く」という“逆のベクトル”に引っ張ることにたどり着いたんです。
津田 なるほど。
──津田さんは俳優として舞台に立つとき、声優として演じるとき、それぞれ身体の感覚は変わるんですか?
津田 基本的には変えちゃダメだなと思っていて。ジャンルの違いはあれど芝居は芝居という考え方のタイプなので、肉体はめちゃくちゃ意識してます。興奮状態とリラックス状態とでは力の入り方も違いますし、それを作れないままに音を出すと、小手先のものでしかなくなってしまう。役者はアスリートのような部分があると思っているので、生まれ持ったものであれ、後天的に獲得したものであれ、鍛えられた優秀な肉体を持っていないと良い表現はできないと思うんですよね。
──舞台では感情の発露として、身体を伴った表現は不自然ではありませんが、ブースの中でも演劇的な動きをされているということですか?
津田 基本的にはノイズが出せないので、あまり動かせないんですよ(笑)。だから身体を大きくは動かさず、振り幅を小さくして、中を動かすというか。僕は、一番信じられるのは肉体のような気がしていて。そこが動かなくなっちゃったらもう引退なんだろうなあって思うんですけど。肉体の記憶や感覚というところまで降りてきたり、肉体で反応しないと、うそくさくなっちゃう。僕の中で、舞台かアフレコかというのは、帝劇か小劇場かというサイズ感の違いに近いですね。
和英 能楽もまさに肉体なんです。“彼を知り己を知れば百戦殆からず”で、身体が小さい人や大きい人、声が細い人や太い人、それ以上のことをやろうとして欲を出すと、故障したり表現に迷ってしまったりする。自分の身体のバランスに気付いていないと、コントロールすることもできないんですよね。
──「能楽Departure」では、演じ手の肉体表現が、映像というフィルターを1つ通して観客に伝わるわけですが、その点についてはいかがですか?
和英 舞台では能楽師の感覚と型のズレを客観的に正せば良いのですが、映像になるとそこにフォーカスするカメラマンの技術が入ってくる。それが今回のキモになるのかなと思っています。お客さんの目になるものが悪かったらすべてが壊れてしまう可能性があるので、どこが一番よく伝わるスイートスポットなのかを探す作業にこだわりたいなと思います。
──監督、何かアドバイスはありますか?
津田 いや、アドバイスできるほど監督やってないですから(笑)。でも「舞台とは別物としてやっぱり面白いね」というふうになるとすごく素敵だなと思いますよね。魅力的なコンテンツですし、僕は、能楽が海外の演出家に称賛されていたりして、日本よりも海外での評価が高いことが多いということに悔しさがあって。日本でももっと絶賛してよ!と(笑)。
和英 確かに海外で集客に困ったことはないですね(笑)。向こうのお客さんはたくさん質問をぶつけてくださるんですが、日本だと変な質問をしてはいけないという意識なのか、あまり言ってくださらない。「自分はこう思ったんだけど、どう思いますか?」とフランクにご自身の意見を出したり、質問したりしてほしいですね。
津田 もったいないですよね。でもそれが映像になると格段に敷居が下がるので。あまり能楽に触れてこなかった人も、「どんなものなのかな? ポチッ」でお試しができる。
──コロナ禍でスタートした「能楽Departure」はこれから進化していくと思うのですが、津田さんは今後、挑戦してみたい能の作品などはありますか。
津田 逆に勉強しておかなきゃなあと思っています(笑)。
和英 津田さんには今度、「景清」という曲が良いんじゃないかなと僕は思ってるんですよ! 能での藤原景清は、盲目になって宮崎(日向国)に配流の身となっているんですが、そこに娘たちがやって来るというストーリーで。若手では表現が追いつかない、積み重ねがないとできない曲なので、津田さんがやったら面白いだろうなって。
津田 へえ、やります(即答)。宗家のおすすめなら(笑)。
過去の「夜能 夜語りの会」をストリーミングで楽しもう!
「能LIFE online」では現在、2020年に上演・配信された津田健次郎の「生田敦盛」、細谷佳正の「祇王」、速水奨の「雷電」をストリーミング視聴できる。津田による「生田敦盛」はトークと雅楽解説付きの特別版と通常版が用意され、有観客上演となった速水の「雷電」は配信用に収録されたアフタートークと雅楽演奏が加わった特別版となる。価格は通常版が税込2200円、特別版が税込2750円。
- 2021年6月21日(月)まで
- 「生田敦盛」
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脚本:長田育恵
朗読:津田健次郎
能:宝生和英
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雅楽:三浦元則、纐纈拓也、音無史哉
ワキ:野口能弘
子方:水上嘉
笛:杉信太朗
小鼓:飯冨孔明
大鼓:安福光雄
地謡:小倉健太郎 ほか
- 2021年7月11日(日)まで
- 「祇王」
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脚本:保木本佳子
朗読:細谷佳正
能:柏山聡子、内田朝陽
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雅楽:三浦元則、纐纈拓也、音無史哉
ワキ:福王和幸
間狂言:山本泰太郎
笛:栗林祐輔
小鼓:住駒匡彦
大鼓:原岡一之
地謡:土屋周子 ほか
- 2021年10月12日(火)まで
- 「雷電」
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脚本:長田育恵
朗読:速水奨
能:渡邊茂人
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雅楽:三浦元則、纐纈拓也、音無史哉
ワキ:舘田善博
間狂言:大藏基誠
笛:成田寛人
小鼓:住駒充彦
大鼓:柿原弘和
地謡:東川光夫 ほか
※配信期間は延長の可能性あり
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2021年2月15日更新