ステージナタリー Power Push - 追悼 蜷川幸雄

演出家・藤田俊太郎インタビュー 演出助手としてそばに居た10年

CS放送女性チャンネル♪LaLaTVにて、8・9月の2カ月にわたり、故・蜷川幸雄の追悼番組が放送中だ。9月には舞台「冬物語」「から騒ぎ」「じゃじゃ馬馴らし」「ジュリアス・シーザー」に加え、蜷川の娘・蜷川実花の監督映画「へルタースケルター」「さくらん」も、関連作品としてラインナップされている。

ステージナタリーでは、蜷川と親交のあった人物へのインタビューを2カ月連続で実施。今月は2005年以降蜷川幸雄作品に演出助手として関わり、今年7月にはミュージカル「ジャージー・ボーイズ」を手がけたことも記憶に新しい、気鋭の演出家・藤田俊太郎に、在りし日の蜷川を語ってもらった。

取材・文 / 北村恵 撮影 / 佐藤拓央

LaLaTV 9月ラインナップ

舞台「冬物語」より。©2009 HORIPRO INC.
「冬物語」
2016年9月17日(土)23:00~ ほか

シチリア王レオンティーズ(唐沢寿明)は、幼馴染のボヘミア王ポリクシニーズ(横田栄司)がシチリアに滞在した折、帰国を引き止める妻の王妃ハーマイオニ(田中裕子)の言動から、2人の仲を疑い始める。嫉妬心を抑えられないレオンティーズは忠臣カミローにポリクシニーズを毒殺するよう指示するが……。

  • 舞台「冬物語」より。©2009 HORIPRO INC.
  • 舞台「冬物語」より。©2009 HORIPRO INC.
  • 舞台「冬物語」より。©2009 HORIPRO INC.
舞台「から騒ぎ」©2009 HORIPRO INC.
「から騒ぎ」
2016年9月15日(木)27:00~

パデュアの若き貴族べネディック(小出恵介)とメッシーナ知事レオナートの養女ビアトリス(高橋一生)は、会えば口論ばかりしている仲だった。ある時、べネディックの主君ドン・ペドロ(吉田鋼太郎)が凱旋の途中でメッシーナに立ち寄ると、そこでべネディックの親友である若き貴族クローディオ(長谷川博己)が知事の跡取り娘ヒアロー(月川悠貴)に恋をして……。

  • 舞台「から騒ぎ」©2009 HORIPRO INC.
  • 舞台「から騒ぎ」©2009 HORIPRO INC.
舞台「じゃじゃ馬馴らし」©2012 HORIPRO INC.
「じゃじゃ馬馴らし」
2016年9月25日(日)25:15~

パドヴァの資産家の娘キャタリーナ(市川亀治郎)は男などまるで眼中にない“じゃじゃ馬”として、街でも有名な存在だった。ある日、父親が淑やかで従順な妹娘ビアンカ(月川悠貴)の求婚者たちへ「姉娘の嫁ぎ先が決まるまでは誰も妹とは結婚させない」と宣言しているところに、ルーセンショー(山本裕典)が通りかかる……。

  • 舞台「じゃじゃ馬馴らし」©2012 HORIPRO INC.
  • 舞台「じゃじゃ馬馴らし」©2012 HORIPRO INC.
  • 舞台「じゃじゃ馬馴らし」©2012 HORIPRO INC.
舞台「ジュリアス・シーザー」©2015 HORIPRO INC.
「ジュリアス・シーザー」
2016年9月30日(金)25:15~

ポンペイを破ったジュリアス・シーザー(横田栄司)が、大歓声の中、ローマに凱旋を果たす。その権力が益々強大となることを恐れたキャシアス(吉田鋼太郎)は、市民から厚い信望を得ていたブルータス(阿部寛)を仲間に引き入れ、暗殺を決行する。英雄の死に一度は混乱した市民たちも、直後に行われたブルータスの演説に納得するが、シーザーの腹心だったアントニー(藤原竜也)が弔辞を述べると、今度は逆に反ブルータスへと翻ってしまい……。

  • 舞台「ジュリアス・シーザー」©2015 HORIPRO INC.
  • 舞台「ジュリアス・シーザー」©2015 HORIPRO INC.
  • 舞台「ジュリアス・シーザー」©2015 HORIPRO INC.
映画「ヘルタースケルター」©2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会 ©岡崎京子/祥伝社
「ヘルタースケルター」
2016年9月2日(金)23:00~
映画「さくらん」©2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ  ©安野モヨコ/講談社
「さくらん」
2016年9月9日(金)23:00~
演出家・藤田俊太郎 インタビュー

「ジャージー・ボーイズ」はすべて蜷川さんです

──このインタビューへの出演依頼をした際、「僕の演出は蜷川幸雄さんなんです」っておっしゃっていたのが、とても印象的でした。

藤田が持参した、2005年から2016年までに使用された蜷川作品の上演台本一式。その数は80冊に上る。

あ、覚えています。それはですね……なんだか、まずい発言でしたか?

──少し驚きました。

(笑)。俳優に檄を飛ばすという一般的な蜷川さんのイメージ通り、稽古場で蜷川さんが投げた靴を助手である僕は拾いに行きましたし、ときには靴だけじゃなくてコップや椅子が飛ばされたりもしました。もちろん蜷川さんは俳優やスタッフに当たらないようにかなり外して投げていましたが、そうしたエピソードより、せっかくいただいた機会なので、今日は個人史的に、今やっている自分の演出のどこに蜷川さんの影響があるのかをお話できれば。まず僕が7月に手がけた「ジャージー・ボーイズ」の演出は、すべて蜷川さんの影響からできています。2014年の「The Beautiful Game」という作品から、「美女音楽劇 人魚姫」、ミュージカル「手紙」、そして「ジャージー・ボーイズ」とありがたいことに大きい仕事が4本続いていて、来年もミュージカルの話をいただいたりしてるんですけど、僕のやってることって“模倣”っていうと違うかもしれないけど、全部蜷川さんですからね。

──例えば「ジャージー・ボーイズ」だとどういったシーンですか?

藤田俊太郎

上下3層に割った舞台構造、階段やテレビを使った演出もそうですが、劇の中にもう1個、劇中劇を作るメタシアターが特徴的ですね。「ジャージー・ボーイズ」は、アメリカのポップスターだったフォー・シーズンズの4人が、実は出生がイタリア系移民、マフィアとの繋がりがあったという話で、そこにアメリカ人は60年代アメリカの表と裏を見たわけなので、この作品はアメリカ人にしか演じられないはずなんです。演出のオファーがきたときに、うれしくて光栄であると同時に困り果てました。で、「わかった。日本人が『ジャージー・ボーイズ』の出演者を演じる構図を作ろう」って思ったんです。あくまでさりげなくですけど、構造として日本人が「ジャージー・ボーイズ」っていう人たちを演じてますっていう前提を作れば、それがアジアのどこの国であっても、誰が演じても成立するんですよ。もっと言ったら日本版をブロードウェイに持っていっても成立するようにしたかった。

──「ジャージー・ボーイズ」のオープニングで使われていた手法ですね。舞台に登場したキャストをライブカメラで撮影して、舞台上のテレビに映し出し観客に見せるという。LaLaTVで9月に放送される蜷川さん演出の「じゃじゃ馬馴らし」でも、メタシアターの劇構造が最初に提示されますね。

LaLaTVで9月に放送される「冬物語」(2009年)、「から騒ぎ」(2009年)、「じゃじゃ馬馴らし」(2009年)、「ジュリアス・シーザー」(2015年)の上演台本。

はい。出演者が全員出てきて、“これからシェイクスピアが書いたイタリア人の喜劇を日本人が演じますよ”って、礼をして始める。そうすることで、(市川)猿之助さんが歌舞伎のような動きをするのも、筧(利夫)さんがハイテンションで芝居をかけてくるのも、さらに月川(悠貴)さん、山本(裕典)くんがどんな演技スタイルで入っていっても、全部ありになる。「これは劇中劇なんですよ」ということを最初に明らかにすることで、全部成立させるんですよ。これが「『ジャージー・ボーイズ』は蜷川さんです」という理由です。

──なるほど。

頭のてっぺんから爪先まで蜷川さんが入ってるので、自然にそうなるのではと。それぐらい影響を受けてます。演劇においては、蜷川さんは僕のすべてです(笑)。

LaLaTV

厳選した国内外の良質なドラマ、映画、舞台や音楽等のライブコンテンツ、料理や旅のライフスタイル番組を放送するCSチャンネル。

9月ラインナップ
「冬物語」
2016年9月17日(土)23:00~ ほか
「から騒ぎ」
2016年9月15日(木)27:00~
「じゃじゃ馬馴らし」
2016年9月25日(日)25:15~
「ジュリアス・シーザー」
2016年9月30日(金)25:15~
「ヘルタースケルター」
2016年9月2日(金)23:00~
「さくらん」
2016年9月9日(金)23:00~
蜷川幸雄(ニナガワユキオ)
蜷川幸雄

1935年10月15日、埼玉県川口市生まれ。1955年に劇団青俳に入団し、1968年に劇団現代人劇場を創立。1969年に「真情あふるる軽薄さ」で演出家デビューした。代表作は「身毒丸」「NINAGAWA・マクベス」「ハムレット」など多数。肺炎による多臓器不全のため2016年5月12日に逝去。8月には森田剛、宮沢りえ出演の「ビニールの城」、12月には「1万人のゴールド・シアター2016」、2017年には「NINAGAWA・マクベス」が追悼公演として上演される。

藤田俊太郎(フジタシュンタロウ)

1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の2004年、ニナガワ・カンパニーに入る。当初俳優として活動を始めたが、2005年以降は蜷川幸雄作品に演出助手として参加。2011年、「喜劇一幕・虹艶聖夜」で初めて作・演出を手がける。2012年にさいたまネクスト・シアター「ザ・ファクトリー2(話してくれ、雨のように……)」の演出を担当。2014年に、新国立劇場小劇場にて上演された「The Beautiful Game」で第22回読売演劇大賞杉村春子賞優秀演出家賞を受賞。2015年に「美女音楽劇 人魚姫」、2016年にミュージカル「手紙」「ジャージー・ボーイズ」の演出も手がけた。12月には「Take Me Out」、2017年1・2月には「ミュージカル 手紙」が控えている。なお演劇活動の傍ら、2011年より、絵本ロックバンド「虹艶 Bunny」としてライブ活動も展開中。