ステージナタリー Power Push - 追悼 蜷川幸雄
「青の炎」「蛇にピアス」脚本家・宮脇卓也インタビュー 蜷川の書斎で過ごした日々を振り返る
CS放送女性チャンネル♪LaLaTVにて、8・9月の2カ月にわたり、故・蜷川幸雄の追悼番組が放送される。8月には2014年から1年半に及び蜷川を追ったドキュメンタリー「疾走する蜷川幸雄80歳~生きる覚悟~」、蜷川が監督した映画「蛇にピアス」「青の炎」、そして演出を手がけた舞台「ヴェニスの商人」「ヘンリー四世」「ヘンリー六世」の6作品を放送。9月にも6作品がラインナップされている。
ステージナタリーでは放送に先がけ、当時の蜷川と親交のあった人物へのインタビューを2カ月連続で実施。今月は映画「蛇にピアス」と「青の炎」の脚本を蜷川と共同執筆した脚本家・宮脇卓也に、過去のエピソードから、在りし日の蜷川を語ってもらった。
取材・文 / 北村恵
LaLaTV 8月ラインナップ
- 「疾走する蜷川幸雄80歳~生きる覚悟~」
- 2016年8月1日(月)11:00~ ほか
「世界のニナガワ」と呼ばれ、国際的評価を不動のものにした演出家・蜷川幸雄。病魔と闘いながら現場に立ち続けるモチベーション、「強欲」ともいえる表現へのあくなき執着はどこから生まれるのか? 蜷川が演出家として何を追い求め、嫌悪し、壊し、残そうとしているのかを探るポートレートドキュメンタリー。
- 「蛇にピアス」
- 2016年8月5日(金)25:15~ ほか
「スプリットタンって知ってる?」そう言って、男は蛇のように2つに割れた舌を出した。一瞬にしてその舌に魅了された19歳の少女ルイ(吉高由里子)は、 その男アマ(高良健吾)と付き合い始める。アマの影響で、身体改造にはまっていくルイは、彫り師のシバ(ARATA)とも関係を持つようになり……。
- 「青の炎」
- 2016年8月7日(日)16:30~ ほか
17歳の秀一(二宮和也)は、母・友子(秋吉久美子)と妹(鈴木杏)との3人暮らし。その平和な生活を乱す闖入者が出現する。10年前、母が再婚してすぐに離婚した男・曾根(山本寛斎)だった。傍若無人に振る舞い、母のみならず妹にまで手を出そうとする曾根。秀一は曾根を自らの手で殺害することを決意する……。
灰皿は投げられなかった
──宮脇さんは、最初は俳優として蜷川さんの作品に出演されていたとのことですが、ニナガワ・スタジオ(蜷川幸雄の劇団)に所属していらしたんでしょうか?
よく間違えられるんですけど、僕スタジオには入ってないんですよ。「血の婚礼」っていう舞台の出演者募集があって、蜷川さんの稽古場を見られたら面白そうだなと思って。芝居をやった経験もなかったんですけど、オーディションに参加してみたら受かったんです。1993年ですね。その公演期間中に劇場のロビーでストレッチしているときに、蜷川さんから「このあと暇?次は樋口一葉の『にごり江』をやるから、出る?」って言われて、そのまま1998年頃まで蜷川作品に出演させていただきました。
──なるほど。蜷川さんの演出を受けられていかがでしたか?
灰皿は投げられなかったです。まあ靴とか箱馬(舞台装置用の木箱)とか(笑)。
──え! 箱馬を?
投げます投げます。演出部も心得ているので、蜷川さんがイライラ(膝を揺する仕草)しはじめると、投げちゃいけないものはスッとどかして、投げていいものをそっと置くみたいな。そしたら「てめえこの野郎!」って手近にあるものを投げる。そんな感じです。
──あはは(笑)。
あと稽古場の思い出で言うと「身毒丸」のオープニングで人々が路地を歩くシーンがあって、僕はおにぎりを食べてる設定で演じようと咄嗟に思いついたんですけど、現物がなかったので、手ぬぐい丸めてくわえたんですよ。そしたら蜷川さんに「演技プランを示したいなら、ちゃんと本物のおにぎりを用意して来い!」ってすっごい怒られて。やばいなと思ってたら、演出部のスタッフが、本物のおにぎりを渡してくれたんです。何回も稽古やるから、3個ぐらいあったのを全部食べちゃったんですよ。そのあとそのスタッフさんに謝ったら、「あれ蜷川さんのお昼ご飯だよ」って言われて。
──実は蜷川さんが陰で配慮してくださってたんですね。
はい。「宮脇に持って行ってやれ」って、スタッフを介して渡してくださったのを、僕は知らずに全部食べちゃった。
──直接お渡しにならない感じがかわいらしいですね。
ね、ちょっとシャイな感じがあって。そういう気遣いが蜷川さんらしいと思います。
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LaLaTV
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8月ラインナップ
- 「疾走する蜷川幸雄80歳~生きる覚悟~」
- 2016年8月1日(月)11:00~ ほか
- 「蛇にピアス」
- 2016年8月5日(金)25:15~ ほか
- 「青の炎」
- 2016年8月7日(日)16:30~ ほか
- 「ヘンリー四世」
- 2016年8月12日(金)25:00~
- 「ヘンリー六世」
- 2016年8月19日(金)25:15~
- 「ヴェニスの商人」
- 2016年8月26日(金)25:00~
9月ラインナップ
- 「冬物語」
- 2016年9月17日(土)23:00~ ほか
- 「から騒ぎ」
- 2016年9月15日(木)27:00~
- 「じゃじゃ馬馴らし」
- 2016年9月25日(日)25:15~
- 「ジュリアス・シーザー」
- 2016年9月30日(金)25:15~
- 「ヘルタースケルター」
- 2016年9月2日(金)23:00~
- 「さくらん」
- 2016年9月9日(金)23:00~
蜷川幸雄(ニナガワユキオ)
1935年10月15日、埼玉県川口市生まれ。1955年に劇団青俳に入団し、1968年に劇団現代人劇場を創立。1969年に「真情あふるる軽薄さ」で演出家デビューした。代表作は「身毒丸」「NINAGAWA・マクベス」「ハムレット」など多数。肺炎による多臓器不全のため2016年5月12日に逝去。8月には森田剛、宮沢りえ出演の「ビニールの城」、12月には「1万人のゴールド・シアター2016」、2017年には「NINAGAWA・マクベス」が追悼公演として上演される。
宮脇卓也(ミヤワキタクヤ)
1975年生まれ。愛媛県出身。1993年より蜷川幸雄の舞台に俳優として参加。1999年より執筆活動を始める。2003年、映画「青の炎」で脚本家デビュー。2008年に映画「蛇にピアス」、2009年にテレビ朝日開局50周年記念ドラマ「警官の血」(脚本協力)、2015年にNHK大河ドラマ「花燃ゆ」(脚本協力・取材協力)などを執筆。2014年より公開されているフジテレビとIQIYIの日中共同製作インターネットドラマ「不可思議的夏天」の脚本を務め、中国全土で再生回数が1億ビューを超えるヒットを記録。北中南米など全世界35カ国で配信された。同作は2015ニューヨーク・フェスティバルにおいてファイナリスト入賞。
2016年8月30日更新