ステージナタリー Power Push - 追悼 蜷川幸雄
演出家・藤田俊太郎インタビュー 演出助手としてそばに居た10年
「やっぱり蜷川の時代だな(笑)」
──エピソードは尽きないのですが、今回放送される各演目についても少しお話を伺えれば。まず「冬物語」について、個人的にとても気になったシーンがあるのですが、冒頭から舞台上で旋回する紙飛行機は、どうやって飛ばしていたんでしょうか?
あぁ!あれは“紙飛行機博士”っていう、テレビに出てる有名な方がいまして。丹波純さんという。
──(検索して)全日本紙飛行機選手権大会優勝……。この方でしょうか?
その人です。蜷川さんが「俺は頭の中でイメージができてる。紙飛行機は主人公2人の友情の象徴として、ゆっくり回って客席の上をふわっと飛んできて、舞台上に戻ってくる。絶対できる」って言ったんですよ。でも実際に僕らが紙飛行機を劇場で飛ばすと、「違う」と。なんとかしようとネットで調べたら“紙飛行機博士”が見つかり、僕が電話をしました。「蜷川さんのイメージを具現化できますか?」とお願いしたところ、「できます。やってみましょう!」となって、丹波さんと演出部が苦心した結果、蜷川さんに見せたら……「これだ!」となりました。
──貴重なエピソードですね。男性キャストのみで演じられるオールメール・シリーズの「から騒ぎ」ではどんな思い出がありますか?
井手らっきょさんのキャスティングですね。小出(恵介)さん、(高橋)一生さん、長谷川(博己)さんも、月川(悠貴)さん、吉田鋼太郎さん、瑳川(哲朗)さんと素晴らしい俳優の方々の中に、らっきょさんが入ってくるっていうのが、キャスティングにある種の異化効果を狙ってくる、蜷川さんらしい采配だと思います。
──ふんどしでご出演されてましたね。
大事なところがほぼ見えてましたからね(笑)。そこをツッコまないのがすごいですよね。ちなみに稽古場ではほとんど出してました。
──(笑)。
「(北野)武さんの映画と自分の作品は似てるんだ」「らっきょさんみたいな、いわゆる“下層民衆”の身体があるから蜷川の演劇ができるんだ」って、蜷川さんは言ってました。(グレート)義太夫さんもそうですけど、圧倒的に美しい月川(悠貴)さん、(高橋)一生さんがいて、それを支える宮廷の構造として、下層民衆を演じる身体が必要なんです。その階級構造がないとシェイクスピアって上演できないですからね。例えば「タイタス・アンドロニカス」では、無名の報告者に美しいセリフがある。蜷川さんの世界の捉え方が、感動的に立ち上がる瞬間だと思います。
──「ジュリアス・シーザー」はどうでしょうか? 藤原竜也さんの演説シーンが印象的でした。
藤原竜也さん演じるアントニーは、本当にいい役で、だからこそ蜷川さんはこの役を(藤原)竜也さんにあてた。演説シーンは民衆の心をつかまなければいけないので、ダメ出しが壮絶でしたね。「それじゃダメだ。それじゃ乗り越えられない」って。演出家と俳優の素晴らしい仕事を目の当たりにしました。あと、装置の大階段が全部動くなんて見たことがありますか? あの階段、演出部と役者が20人ぐらいで後ろから押していたんですからね(笑)。
──電動じゃないんですね。
舞台裏を見せたかったぐらいですよ。動く階段は、権力の構造がうごめいている象徴。力を持った者はいつかは失墜する。シーザーからブルータス、アントニーそしてブルータス、時勢によって支持者を変えてきた民衆はいつもうごめいて、次のスターが出ればそっちに行くわけですから。そう言えば稽古場で蜷川さんも「どうせ蜷川が死んだら、みんな次のやつに行くんだよ」って冗談で言ってました。自らもネタにしてしまう蜷川さんに対して皆さん爆笑しながら否定したら、蜷川さん、「やっぱり蜷川の時代だな(笑)」って。
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9月ラインナップ
- 「冬物語」
- 2016年9月17日(土)23:00~ ほか
- 「から騒ぎ」
- 2016年9月15日(木)27:00~
- 「じゃじゃ馬馴らし」
- 2016年9月25日(日)25:15~
- 「ジュリアス・シーザー」
- 2016年9月30日(金)25:15~
- 「ヘルタースケルター」
- 2016年9月2日(金)23:00~
- 「さくらん」
- 2016年9月9日(金)23:00~
蜷川幸雄(ニナガワユキオ)
1935年10月15日、埼玉県川口市生まれ。1955年に劇団青俳に入団し、1968年に劇団現代人劇場を創立。1969年に「真情あふるる軽薄さ」で演出家デビューした。代表作は「身毒丸」「NINAGAWA・マクベス」「ハムレット」など多数。肺炎による多臓器不全のため2016年5月12日に逝去。8月には森田剛、宮沢りえ出演の「ビニールの城」、12月には「1万人のゴールド・シアター2016」、2017年には「NINAGAWA・マクベス」が追悼公演として上演される。
藤田俊太郎(フジタシュンタロウ)
1980年生まれ、秋田県出身。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在学中の2004年、ニナガワ・カンパニーに入る。当初俳優として活動を始めたが、2005年以降は蜷川幸雄作品に演出助手として参加。2011年、「喜劇一幕・虹艶聖夜」で初めて作・演出を手がける。2012年にさいたまネクスト・シアター「ザ・ファクトリー2(話してくれ、雨のように……)」の演出を担当。2014年に、新国立劇場小劇場にて上演された「The Beautiful Game」で第22回読売演劇大賞杉村春子賞優秀演出家賞を受賞。2015年に「美女音楽劇 人魚姫」、2016年にミュージカル「手紙」「ジャージー・ボーイズ」の演出も手がけた。12月には「Take Me Out」、2017年1・2月には「ミュージカル 手紙」が控えている。なお演劇活動の傍ら、2011年より、絵本ロックバンド「虹艶 Bunny」としてライブ活動も展開中。