相馬千秋と宮崎刀史紀が語る、港区の新劇場・みなと芸術センターm∼m (2/2)

演劇のドラマツルギーで港区を見直す

──そのほか、現在考えていらっしゃる劇場のプログラムについて現段階でお話しいただけることはありますか?

相馬 管理運営計画の中には海外からの招聘事業も組み込まれており、国際的な事業はもちろん考えています。プラス、これは今後検討していくことになりますが、ある時期に集中して作品が発表されるようなプログラムも構想しています。それが芸術祭というような形で打ち出されるかはわかりませんが、何かしら国際的な展開につながるようなものは用意したいと思っています。

──ほかの劇場とのつながり、ネットワークについてはいかがでしょう?

宮崎 m∼mは施設的にも事業の面においても、すべてがセンターだけで完結するということではなく、区内外の施設や団体などと連携することで広がりを持たせていくことが大切だと思っています。近年は連携を通じてさまざまな取り組みを行う劇場が各地に増えており、そうした動きにも積極的に加わっていきたいです。文化芸術に限らないほかの分野の施設や団体、さまざまな視点や取り組み等も文化芸術の視点でつなげていく、そんな拠点の一つになっていければと思います。

施設としては、再開発によって生まれる複合ビルの中に位置しており、センターの中におしゃれなカフェやレストランが入っているというわけではありません。ただ近くには素敵な場所やお店などがたくさんあるので、そういう点でも周囲との連携を大切にしていきたいなと。

──浜松町の駅前という立地を考えると、確かに立ち寄れる素敵な場所はすでにたくさんありますね。

相馬 そうなんです。

左から宮崎刀史紀、相馬千秋。

左から宮崎刀史紀、相馬千秋。

宮崎 もしかしたら“浜松町”は、“港区”を想像するときにすぐに出てくる地名ではないかもしれません。しかし今まさに再開発が進んでいて、街の雰囲気が大きく変わろうとしている注目エリアです。すぐ近くの芝浦や高輪ゲートウェイなど、周辺地域も大きく変貌を遂げようとしています。ちょっと大袈裟かもしれませんが、東京の重心が少しずつ移りつつある中で、m∼mはまさにそのダイナミズムの中に位置しています。そのことをぜひ楽しみにしてもらえたらと思っています。

相馬 最近港区をリサーチしているんですが、面白いパワースポットが多いんですよ。それは多分偶然ではなくて。先日は愛宕神社に行ったのですが、愛宕神社って東京23区にある天然の地形では最も高い場所にあり、そこにいろいろな歴史の層が堆積しているんです。今は巨大なオフィスビルが群立していて見えなくなっていますが、増上寺を筆頭に昔からの宗教施設が多く、オフィスビルの間に寺や神社があってコントラストが面白いんです。そういった、いろいろな人の思いが堆積した場所が、港区には実は渋滞するほどあって、これからはそのような視点も都市のドラマツルギーとして取り入れていきたいですね。そうそう、あのバブル時代の伝説的ディスコ・ジュリアナ東京って田町・芝浦エリアにあったんです。いわゆる東京のイメージって、東京タワーとかレインボーブリッジとか、湾岸エリアのオシャレな場所というイメージから作られてきたものだと思うのですが、そうやってかつて外から“眼差された場所”を、演劇のドラマツルギーを使って、今の目線でもう一回捉え直すとき、港区はめちゃくちゃ面白いと思います。

ここ50年ほどの日本演劇の大きなパラダイムで考えると、鈴木忠志さんを筆頭に、平田オリザさんなど都市を離れて地方や農村部で演劇活動を展開するという流れがあり、私たちはそれとは全く逆行しているわけですけれども(笑)、一方で、これまで都市で見逃されてきたものがいっぱいあると思うのでそれを拾っていきたいですし、“都会対地方”というような二項対立ではなく、今後はどちらとも相互にネットワークしていくというパラダイムになって、「利賀にも行くし、m∼mにも来る」みたいなことになっていくのではないか、そうなればいいなと思っています。

宮崎 です!(笑)

左から宮崎刀史紀、相馬千秋。

左から宮崎刀史紀、相馬千秋。

m∼mの理念が体感できる「プロローグ・イベント」

──開館までまだ2年ありますが、準備室では今どのようなことをされているのですか?

宮崎 確かにまだ2年とも言えますが、2年しかないとも言えます。今は、建築工事が着々と進む中、施設内の細かい設計について、運営者の視点で、区や設計チームとも協議を重ねています。備品の検討や、施設を借りていただくためのルールづくり、各種システムの検討なども開館準備の大切な業務です。開館後のさまざまな事業も検討していかなければなりません。そして、みなと芸術センターで取り組んでいこうとしていることの一部を少しずつ実践したり、多くの方にセンターのことを知っていただこうということで、プレ事業も実施しています。港区立としては初めての文化芸術施設であり、“前例”もあまり多くはない中で、いろいろ議論を重ねながら、そしてさまざまなつながりを作りながら、オープンに向けた準備を進めている状況です。

──11月30日の「開館2年前 プロローグ・イベント」の内容についても教えてください。

相馬 劇場がまだ建設中なので、ほかのホールを借りてイベントをプロデュースするのですが、そこまでしてやるのは、m∼mが目指す理念をちょっと先取りして体験していただき、いろいろな意見を聞きたいからなんです。お客さんにとってもある種の予行演習といいますか、一つのモデルを咀嚼してもらう準備になるし、我々準備室にとっても、ものを作っていくチームとして、一つひとつステップを踏んでいく必要があるなと。

内容面では、たとえば「コラボレーション・パフォーマンス 鈴木優人 x 鈴木ヒラク 『Prologue』」では、音楽家の鈴木優人さんとアーティストの鈴木ヒラクさんに、完全なる即興でコラボレーションしていただきます。この間リハーサルを行ったのですが、まさに音楽の波動とドローイングの波動が共振していました。優人さんを介して古今東西の音や音楽の歴史が出て来る一方で、ヒラクさんからは洞窟壁画の時代から続くような描く喜びや衝動が湧き出てくる。それらが共振して、その場でしか成立し得ない素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられることになると思います。

またVRエンターテインメント「バーチャルm∼m」は、小泉明郎さんの「縛られたプロメテウス」やアピチャッポン・ウィーラセタクンさんの「太陽との対話(VR)」のVRを手掛けてきた谷口勝也さんによる作品です。m∼mの中に入るようなVRになりますので、ぜひ体験していただきたいです。

劇作家・演出家の市原佐都子さんには、演劇ワークショップ「m∼mで、も~も」を企画していただきました。お客さん自身に自分の好きな人形やぬいぐるみを持ってきてもらって、それを介して対話する、人形が持ち主を紹介するというプロセスを経て、人形たちを介して演劇を作ります。そうすることで演劇が持っている“役を演じる”ことが体感できると思いますし、今回は中国人アーティストのメイ・リウさんのファシリテーションのもと、英語の回、中国語の回も行いますので、ぜひ日本語話者のみならず、英語・中国語でも参加していただけたらうれしいです。

そのほか佐藤朋子さんの「オバケ東京ウォーク:いくつかの塔をめぐってm∼mを眺める」と今和泉隆行(地理人)さんの「裏路地から追いかける街の変化」では港区の中にある歴史を考えてもらえるような内容になっており、三井淳平さんの「レゴ®ブロックでm∼mを作ってみよう」は、小中学生対象なんですが、“レゴでm∼mをつくってみよう”という内容です。先日、「レゴで劇場をつくってみよう」というワークショップをやってみたのですが、子供たちが考える劇場はかなり斬新でした(笑)。

……というように、言ってみれば1日フェスですね。このイベントを通して、“誰しもがクリエイティブな主体である”というm∼mの理念を先取りしてもらえると思います。とにかくm∼mが気になる方は、11月30日のイベントにぜひいらしていただけたらと思っています!

みなと芸術センター開館準備室の皆さん。

みなと芸術センター開館準備室の皆さん。

11月30日は「開館2年前 プロローグ・イベント」へ

ここではm∼mの理念が先取りできる、11月末の「開館2年前 プロローグ・イベント」について紹介する。

各イベントへの参加はこちらから申し込みを。

「開館2年前 プロローグ・イベント」

2025年11月30日(日)
東京都 ニッショーホール
入場無料

港区立みなと芸術センターm~m「開館2年前 プロローグ・イベント」

プロローグ・トークセッション / コラボレーション・パフォーマンス 鈴木優人x鈴木ヒラク「Prologue」

(14:00~16:00 / ニッショーホール)

プロローグ・トークセッション

前半はプロローグ・トークセッション。俳優のサヘル・ローズ、港区立みなと芸術センター愛称選考委員会委員のクリエイティブディレクター・箭内道彦、港区長の清家愛が登壇し、みなと芸術センター開館準備室プログラム・ディレクターの相馬千秋がモデレーターを務めるトークセッションが行われる。

「コラボレーション・パフォーマンス 鈴木優人x鈴木ヒラク 『Prologue』」

後半は世界を股にかけて活躍する音楽家・鈴木優人によるピアノ演奏と、音楽家や詩人らとの協働も多いアーティスト・鈴木ヒラクのドローイングが共鳴し合う、コラボレーションパフォーマンス。
※英語同時通訳、手話通訳あり。
※先着順にて申込受付中。

VRエンターテインメント「バーチャルm∼mむーむ

(11:00~18:00 / 2階大会議室)

VRエンターテインメント「バーチャル m~m」

VRクリエイターの谷口勝也が手掛ける、約10分間のノンバーバルVR作品。みなと芸術センターのイメージを、VRによっていち早く体験できる。英語サポートあり。
受付期間:2025年10月10日(金)9:30~27日(月)23:59(先着順)

演劇ワークショップ 市原佐都子「m∼mむーむで、も~も」

(10:30~12:10[日本語]、11:00~12:40[英語]、16:15~17:55[日本語]、16:15~17:55[中国語]/6階会議室 A・B)

演劇ワークショップ 市原佐都子「m~mで、もーも」

劇作家、演出家の市原佐都子による、人形やぬいぐるみを使ったワークショップ。開催は日本語、英語、中国語でそれぞれ行われる。
受付期間:2025年10月10日(金)9:30~27日(月)23:59(応募多数の場合は抽選)

レゴ®ブロック・ワークショップ 三井淳平「レゴ®ブロックでm∼mむーむを作ってみよう」

(11:00~12:30、14:00~15:30 / 2階大会議室)

レゴ®ブロック・ワークショップ 三井淳平「レゴ®ブロックでm~mを作ってみよう」

レゴ®認定プロビルダーの三井淳平による小中学生を対象としたワークショップ。「こんな劇場があったらいいな」を形にしていく。英語サポートあり。
受付期間:2025年10月10日(金)9:30~27日(月)23:59(応募多数の場合は抽選)

ウォーク 佐藤朋子「オバケ東京ウォーク:いくつかの塔をめぐってm∼mを眺める」、今和泉隆行(地理人)「裏路地から追いかける街の変化」

(10:30~11:30[佐藤]、12:00~13:00[今和泉]、16:30~17:30[佐藤]、16:30~17:30[今和泉]) / 屋外(ニッショーホール~浜松町近辺)

ウォーク 佐藤朋子「オバケ東京ウォーク:いくつかの塔をめぐってm~mを眺める」、今和泉隆行(地理人)「裏路地から追いかける街の変化」

イベントの会場であるニッショーホールから出発し、みなと芸術センターm∼mが建設される浜松町までを散策するウォーキングツアー。リサーチをベースとした創作を手掛ける佐藤朋子と、地図×アートの専門家・今和泉隆行がそれぞれ案内人を務める。英語サポートあり。
受付期間:2025年10月10日(金)9:30~27日(月)23:59(応募多数の場合は抽選)

ネットワーキング・テーブル

(16:15~17:45 / 2階大会議室)

ネットワーキング・テーブル

ワールド・カフェ形式でイベントの感想を語ったり自由に対話できるスペース。ホストファシリテーターは開館準備室のスタッフなどが務める。英語テーブルもあり、途中入退場自由。
※予約不要

~砂浜でひとやすみ~出張!みなとコモンズ~

(10:30~18:00 / 2階大会議室)

~砂浜でひとやすみ~出張!みなとコモンズ~

旧三田図書館を活用した“新たな居場所”みなとコモンズが、ニッショーホールにも設置される。出入自由・英語サポートあり。
※予約不要

プロフィール

相馬千秋(ソウマチアキ)

アートプロデューサー、キュレーター。NPO法人芸術公社代表理事。演劇やパフォーマンスを軸に、現代美術、社会関与型アート、VR/ARテクノロジーを用いた作品など、領域横断的なキュレーション、プロデュースを行う。「フェスティバル / トーキョー」初代プログラム・ディレクター(2009~2013年)、「あいちトリエンナーレ2019」および「国際芸術祭あいち2022」パフォーミングアーツ部門キュレーター、シアターコモンズ実行委員長兼ディレクター(2017年~現在)など。2023年には非西洋圏出身者として初めてドイツの世界演劇祭「テアター・デア・ヴェルト」のプログラム・ディレクター(芸術監督)を務めた。2015年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ受章、2021年芸術選奨文部科学大臣新人賞(芸術振興部門)。2021年より東京藝術大学大学院美術研究科准教授。

宮崎刀史紀(ミヤザキトシキ)

早稲田大学演劇博物館、(有)空間創造研究所を経て、KAAT神奈川芸術劇場では開設準備室の立ち上げ時からのメンバーとして、劇場の立ち上げとその後の運営に携わる。2014年からは、ロームシアター京都の立ち上げとその後の運営に携わる。劇場では庶務、施設、貸館、事業、店舗運営の調整など、舞台技術以外のさまざまな業務に携わってきた。2023年からは、東京都港区の公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団の文化芸術部長として広く文化芸術事業に携わる。2025年4月より、みなと芸術センター開館準備室長。