「やはり歴史あるすごい場所なんだな」としみじみ
──歌舞伎座ツアー、いかがでしたか?
普段は楽屋と舞台の行き来だけですから、知らないことばかりでした。知ったつもりの歌舞伎座が、とても新鮮に感じられましたね。毎月歌舞伎座に足を運んでくださる皆様も、ぜひお芝居見物に合わせて、いろいろと楽しんでみてください。きっと新しい発見があると思います。
──新しい歌舞伎座ができて約10年。新開場時の思い出はありますか?
うちの祖父(坂田藤十郎)もまだ存命中でしたし、開場式で歌舞伎役者がズラッと並んだ風景は忘れられません。当時の写真を見るとこの10年で亡くなってしまった方も多く、すでに懐かしいような気持ちになります。やはり歴史あるすごい場所なんだな、と感じますね。
──前の歌舞伎座の思い出はありますか?
雰囲気はよく覚えています。強烈に記憶しているのは、歌舞伎座さよなら公演で「女暫」(2010年3月)が掛かったとき。遊びに行った楽屋の階段を降りると、荒事の拵えをしたものすごく大きな人たちがいっぱい並んでいて、それが幼心に「怖い」と思った記憶があります。市川左團次さんが腹出しの役(赤い腹を出した敵役、成田五郎房本)をなさっていて、子供にはその隈取りがあまりに恐ろしかったんですね(笑)。
──成田五郎は顔から身体まで真っ赤ですし、確かにちょっとしたモンスターとの遭遇かもしれません(笑)。
もう、恐怖で逃げ回りました! 絶対に会いたくなくて、その後楽屋に行ったときも、鉢合わせにならないようにビクビク廊下を歩いていました。
──今の歌舞伎座は、虎之介さんにとってどういう場所ですか?
僕は年間を通して歌舞伎座に出る機会がまだあまりないので、毎回、緊張感がありますね。平成中村座の翌月に歌舞伎座に来ると、この広さに圧倒されるような気持ちになりますし。大きさに負けてしまうというか、まだこの空間を「ホーム」と呼べるような力が備わっていないというか……ある種の威厳を感じます。
案内パートのオファーを受けたときは「どういうことだろう?」
──11月の歌舞伎座は特別公演。虎之介さんは冒頭の「ようこそ歌舞伎座へ」と題した歌舞伎座ご案内コーナーを担当されます。
なんせ初めての試みですから、最初オファーを受けたときは正直「どういうことだろう?」と(笑)。スタッフの皆さんとご相談しながら、映像を使って歌舞伎座の裏側をお見せする構成を考えています。国立劇場の「歌舞伎鑑賞教室」では、「歌舞伎のみかた」という解説コーナーがありますが、それを僕が担当したときをご覧になってお声がけくださったみたいですね。
──虎之介さんの「歌舞伎のみかた」は本当にカッコよかったです……。ファレル・ウィリアムスの「Freedom」の軽やかなリズムに乗せて登場したオープニング、カジュアルなTシャツ姿から着物に着替えた鮮やかさ。記憶に残る「歌舞伎鑑賞教室」です。
鑑賞教室の解説は、歌舞伎役者の目線から少し離れて、「自分が客席に座ったときに、面白いものってなんだろう?」「若い人たちが心掴まれる歌舞伎の入り口ってどういうことかな」「学生を寝かさないためにどうしたらいいんだろう」など、いろいろなことを考えるんですね。方向性としては今回もその延長線上ではありますが、歌舞伎座のお客さまは学生さんだけではありませんし、何より、せっかくの歌舞伎座初の企画じゃないですか。どこかに“らしさ”も出したいです。ただの説明だと授業みたいで面白くないですし、1つのストーリーのような、テンポよくショーアップされた舞台をお届けできればと思います。派手な幕にしたいですよね。
マイペースな次男多めの「石橋」、“推し”が出る「三人吉三」
──この月だけのスペシャル企画ですね。虎之介さんは「石橋」にもお出になります。
舞踊の会で踊ったことはあるのですが、こうしてまた挑めることがうれしいです。獅子の毛振りが見どころの作品ですが、尾上松緑さんと毛振りをさせていただくのは今回が初めて。スピードを重視されるのか、そろえることを大切にされるのか、芯の方によって毛の振り方に対する考え方が違うと思うので、しっかりお考えを伺いたいです。そして何より、共演させていただくことがとても楽しみ。あと……座組みがマイペースな次男だらけなんですよ。
──中村萬太郎さん、中村種之助さん、中村福之助さん……確かに、松緑さんと虎之介さん以外は皆様次男ですね(笑)。どんな個性あるチームになるか楽しみです。虎之介さんはお出になりませんが、「三人吉三巴白浪」も上演されます。
和尚吉三が坂東亀蔵さん、お坊吉三が中村歌昇さん……そして僕が大好きな尾上左近さんが、お嬢吉三でご出演されます。
──あら、左近さん推し!
年下の方に向かってベタ褒めになっちゃうんですが、彼の舞台に向かう姿勢が、真面目で真剣で、本当にステキなんです。「今度は共演させていただきたいです!」と書いておいてください!
──では最後に、お客さまへのメッセージをお願いします。
なんと言っても、1等席と1階桟敷席が9000円と、通常よりもリーズナブルなのは大きな魅力じゃないでしょうか。一度は座ってみたいと思っていた方にもおすすめの月になっています。そして、「歌舞伎座なんて気軽に行けない」と尻込みされている方のハードルを、僕が下げられたらうれしいです。気負わず、ジーパンで大丈夫なんですから。そして上演時間もコンパクトなので、観劇帰りにはぜひ、なんでもそろった銀座の街歩きも楽しんでください。
11月の歌舞伎座にはこんな演目も
「三人吉三巴白浪」(通称「三人吉三」)は、河竹黙阿弥が得意とした白浪物(盗賊を主人公とした作品)の1作品。作中では、同じ“吉三”という名前を持った3人の若き盗賊の運命が描かれる。今回上演されるのは、3人の出会いを描いた「大川端庚申塚の場」。節分の宵、夜鷹のおとせが、客の落とした百両を懐に大川端を歩いていると、美しいお嬢様風の娘が困った様子で助けを求めてきて……。女装の美男子・お嬢吉三を尾上左近、武士崩れの二枚目・お坊吉三を中村歌昇、小坊主あがりで腕っぷしの強い和尚吉三を坂東亀蔵が、それぞれ初役で勤める。虎之介も推す左近は、近年、女方としての頭角をめきめきと現す18歳。父・尾上松緑ゆずりの身体性の高さで、猛々しい舞踊も得意としている。品の良い美少女から、ガラの悪い盗賊の少年に一転して変わるお嬢吉三は左近にぴったりで、歌舞伎ファンからの期待も高まる。
「石橋」は、能の「石橋」をもとにした舞踊作品。「連獅子」でもおなじみの、獅子の精が登場する作品で、後半のダイナミックな毛振りが見どころだ。獅子の精を演じるのは、藤間流の家元でもある松緑、そして中村萬太郎、中村種之助、中村福之助、虎之介と、パワフルで迫力ある踊りを得意とする5名がそろった。劇場を熱気に包む、激しくも美しい獅子の狂いに注目しよう。
プロフィール
中村虎之介(ナカムラトラノスケ)
1998年生まれ。中村扇雀の長男。2001年に林虎之介の名で初お目見得。2006年に初代中村虎之介を名のり初舞台。
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