「FOLKER」25年ぶりに再演!後藤ひろひと・紅ゆずるが意欲、キャスト陣の意気込みも (2/3)

フォークダンスの意味を、今一度考えたい

──本作はフォークダンスがキーとなる作品です。今回はダンスシーンにも力を入れるそうですね。

後藤 まず、稽古の初めには毎日みんなでフォークダンスをやろうと思っています。フォークダンス連盟の方に基本のフォークダンスを教えてもらう予定で、それをアップとしてやれば、絶対すぐにみんな、仲良くなると思うんですよね。ちなみに女囚たちのダンスチーム、スティール・キャッツにはオーソドックスなフォークダンスを踊ってもらいます。(紅に)フォークダンス、やったことある?

 小学校の運動会とかでやりましたね。でもそこから全然やっていないです。

後藤 この間、フォークダンス連盟の人が教えてくれたんだけど、日本にフォークダンスが入ってきたのは戦後、マッカーサー率いるGHQが日本にやって来てからで、日本の復興を考える一環で、“まずはお互いの手を取り、笑おう”ということで、学校教育にフォークダンスが取り入れられたそうです。アメリカ軍が焼け野原の中でも日本の人たちを笑顔にさせるために始めたことなんでしょうけど、僕らの世代まではそれは続いていた。今は学校でフォークダンスをやる機会はなくなってきたそうですが、フォークダンス自体は悪いものではなかったと思います。

──フォークダンスは、「みんなで踊る」ということ以外、あまり細かな決まりはないようですね。

後藤 そうなんですよ。で、お客様にはその意味を考えてほしいんです。カッコいいダンスもいっぱいあるんだけど、それをフォークダンスって呼んでいいのかどうか? 女囚たちが踊っていた、みんなで踊るものがやっぱりフォークダンスじゃないのか? フォークダンスの良さはどこにあるのか? みたいなことをちょっとでも考えてもらいたいし、もし学校教育に携わっている方が観てくださったら、もう1回フォークダンスをやってみようかなと思ってもらえたらうれしい。フォークダンスが広まることがうれしいわけではなくて、フォークダンスが持つ意味を考えるきっかけになってくれたらいいなと思います。

後藤ひろひと

後藤ひろひと

──紅さんはこれまでのご経験の中で、ダンスを通してチームワークを感じたことはありますか?

 そうですね。ダンスを通じてつながる、1つのものを作り上げている感じはすごくありますよ。お芝居とはまた違う意味で、1つのシーンを作り上げていくときにみんなで1つになる感じは確かにあります。

──本作の振付は、ステージングも担当する山崎翔太さんと、真壁役で出演もする梅棒の梅澤裕介さんが手がけられます。梅澤さんとはもう何かお話をされましたか?

後藤 彼にお願いしたのは、彼が役柄上所属している、フォーク・ウォリアーズの振付です。フォーク・ウォリアーズは女囚たちのダンスチームと敵対しますが、梅澤さんにはめちゃくちゃカッコいい、「それってもうフォークダンスじゃないじゃん!」っていう振りを作ってほしいとお願いしました。もちろんフォークダンスであるからは、最初はやっぱり円で始まるんだけど、そこからどんなふうに展開していくのか楽しみです。

 どうなるんやろ、めちゃくちゃカッコいいんやろうなあ。

後藤 ただフォーク・ウォリアーズのメンバーには男性ブランコの平井(まさあき)がいるのでね、サッカーで言えば、狙い目は平井です。

 大変やー(笑)。

──空那はスティール・キャッツのメンバー。ということは、紅さんはバリバリに踊るわけではないのでしょうか?

後藤 いや、オーソドックスなフォークダンスであっても、踊れる人にはしっかり踊ってほしいと思っているので、ちょっとしたターンでも美しく見せてほしいなと思っています! あとスティール・キャッツには宮下(雄也)くんがいまして、ここにもちょっと注目してほしいですね。

 宮下さん、めっちゃ面白い人やって聞きました。

後藤 動きのキレがすごいそうで、僕が探していたような役者なんじゃないかなって思っています(笑)。

クセの強い人物が続々と…2025年版「FOLKER」

──2025年版の台本を読ませていただきましたが、加筆修正されている部分と、ネタを含め以前のままの部分とがありますね。どのような塩梅でリライトされたのでしょうか。

後藤 「これはもう今じゃ伝わらないな」と思うところは変えましたが、基本的にはそのまま残して、あとは稽古場で調整していこうと思っています。初演は劇団でやったものなので、劇団員の得手不得手に合わせて書いた部分もありましたが、今回はそういう心配はありませんから、書き換えるにしても、“手加減ない書き換え”にしたと思っています。

──空那は初演時、楠見さんが演じられた役です。紅さんは楠見さんと何かお話しになりましたか?

 お話自体はしたんですけど役とは全然関係ないお話で盛り上がって(笑)。でもお稽古が進む中でいろいろとお聞きすることが出てくるんじゃないかなって思っています。

後藤 いや、たぶん何も言わないんじゃないかな。「君がやりたいようにやったら良いと思うよ」って言うと思う。僕も初演でやった風に近づけようとは一切思っていないので、紅さんなりの空那を一緒に作っていけたらと思っています。

 はい! しかも私、2カ月も稽古期間があるのは初めてで、どう組み立てていこうか考えているんです。2カ月間を全部栄養に変えよう!じゃないけど、手繰り寄せて壊して、手繰り寄せて壊して、というように何度もアプローチを変えて、挑戦していきたいなと思っています。それにこういうお役も初めてで。死刑囚の役も初めてだし、鬱々とした役も初めてなので、一線を越えないとできないんじゃないかなと思っています。ファンの方によく「こっちを見てほしい」って言われるんですが、今回は「絶対に見ないでほしい」「目が合いたくない」と言われるくらいまでいきたいですね(笑)。自分にとって、いつものスイッチの入れ方では臨めない役だと思っています。

紅ゆずる

紅ゆずる

後藤 あなたのファンの人たちが「空那を演じている紅さんは怖かった」とずっと言ってくれるようなものを作りたいですね!

──空那ら女囚たちをはじめ、クセの強い人物が多数登場します。中でも松岡役は、初演時、後藤さんが厚い信頼を寄せていた山本忠さんが演じた役で、今回内場さんが松岡役を演じられることが、「FOLKER」再演のポイントの1つになったと伺いました。内場さんの俳優としての魅力を、後藤さんはどんなところに感じていらっしゃいますか?

後藤 コメディアンって、アクタープラスアルファだと思うんですね。アクターの作業が全部できた人で、さらに笑わせる能力を持っている人がコメディアンだと思っていて、内場さんはコメディアンを名乗れる大事な財産だと思っています。内場さんとはずいぶん仕事をさせてもらいましたが、最初に会った頃はとにかく「泣かせたりするようなものはやりたくない、俺は笑わせるためにいるんだ!」ということをはっきり言う人でした。でもお互いだんだんと歳を取る中で、「泣かせてやろうじゃねえか」っていう気持ちが湧いてきて……の今回です。ちなみに今回は僕が信頼するコメディアン2人、内場勝則と松尾貴史が一緒の舞台に立ちます! そのことに僕自身がすごくワクワクしていますね。内場さん演じる松岡が、空那に接近こそしないんだけどずっと寄り添っているのは、僕としてはちょっと泣けてきたりもする。関西の人にとっては、見たことのない内場勝則を見ることになると思います。

──紅さんは「アンタッチャブルビューティー~浪速探偵狂騒曲~」(2022年)(参照:「空気を感じながら演じたい」と紅ゆずるが意気込み、「アンタッチャブル・ビューティー」開幕)で内場さんと共演されています。

 ……なんですが、実は開幕してすぐ休演になってしまったので(編集注:新型コロナウイルスの影響により、初日翌日から千秋楽前日まで公演中止となった)、内場さんとは2日間しか共演できていなくて。しかも内場さんもすごい人見知りだから(笑)、お稽古中もあまりお話しできなかったんです。

後藤 内場さんこそ本当の人見知りだからね(笑)。

 でもこの間、内場さん含め数人で京都の焼肉屋さんに行ったとき、ちゃんとお話しできて。内場さんはやっぱり新喜劇の大スター。関西の人にとって土曜のお昼の顔なんですよね。だからもっともっと一緒にお芝居したかったんですけど、今回そのリベンジができるのがとてもうれしいです。あと、後藤さんもおっしゃたように、空那にとって松岡がキーパーソンなんやろうなと感じているので、それもうれしいです。

──そして初演で後藤さんが演じられたマイキー役を、今回は松尾貴史さんが演じられます。

後藤 自分がやった役って、自分のやり方に合わせて書いたものだったりするので、人に任せづらいところがあって。でもやっぱり松尾さんはもともとモノマネ芸人ですから(笑)、僕の雰囲気も出しつつ、彼のオリジナリティを出してくれるだろうと思います。彼ともね、随分一緒に仕事をしてきたので信頼度は高いですし、胡散臭さも似たようなものを持っているんじゃないかと思います(笑)。

──今回の座組は大阪にゆかりがある人も多く、楽しい稽古と本番になりそうですね。本公演がラインナップされている「大阪国際文化芸術プロジェクト」は、大阪の魅力を発信することを目的の1つにしたプロジェクトですが、今回のカンパニーの魅力を改めてどんなところに感じていらっしゃいますか?

 キャストのお名前をご覧いただければわかるように、これだけ多彩な人たちが大阪、そして日本にいるんだっていうことにまず驚きますね。こんなにホットな舞台、スペシャルな公演を大阪でやれるのはすごくいいことだと思いますし、大阪に観劇文化を根付かせる作品として「FOLKER」はぴったりじゃないかと思います。なので「まずはこれを観て! 観たら舞台の面白さがわかるから!」と声を大にして言いたいです。そして個人の時代になってきている今、みんなで1つのものを作り上げる姿を観てお客様がどう感じるのか。その感じた思いを、ぜひ日常生活に流し込んでもらえるような舞台にしたいなと思います。

後藤 そうですね。今回の公演は、関西の演劇史に残るくらいの大事件になるんじゃないかと思っていて。これを観てまた演劇をやろうと思う人がドッと増えてくれたらうれしいし、そう思われるぐらいのものを作りたいと思っているんですよ。コロナ禍を経て、「FOLKER」前 / 「FOLKER」後と言われるくらいの、節目の作品になれたらいいと思います。そんな意気込みでいますよ!

左から後藤ひろひと、紅ゆずる。

左から後藤ひろひと、紅ゆずる。

プロフィール

後藤ひろひと(ゴトウヒロヒト)

1969年、山形県生まれ。劇作・演出家。別名“大王”。1987年、大阪の劇団・遊気舎へ入団し、2代目座長を務める。遊気舎を退団後、1997年にPiperを結成。2001年には、自身が主宰する王立劇場を旗揚げした。関西を中心に、変幻自在なギャグとキテレツなキャラクターを持ち味にしたコメディ作品を多数発表している。代表作に「ガマ王子VSザリガニ魔人」「ダブリンの鐘つきカビ人間」「人間風車」「止まれない12人」など。

紅ゆずる(クレナイユズル)

1982年、大阪府生まれ。俳優。2002年、宝塚歌劇団に第88期生として入団、初舞台を踏む。2016年から星組トップスターを務め、2019年に「ミュージカル・フルコース『GOD OF STARS-食聖-』」「スペース・レビュー・ファンタジア『Eclair Brillant(エクレール ブリアン)』」で退団。近年の出演舞台に、Classic Movie Reading Vol.2「風と共に去りぬ」、「新生!熱血ブラバン少女。」、ノサカラボ「ゼロ時間へ」、パルコ・プロデュース2024 PARCO 劇場スペシャル版「カタシロ~Relive vol.1~」などがある。