コクーン アクターズ スタジオ第1期生が挑む「アンサンブルデイズ」稽古場レポ&松尾スズキ×杉原邦生が語るCAS生との1年 (2/2)

松尾スズキ×杉原邦生が振り返るCAS生との1年

「アンサンブルデイズ」の稽古後、CAS主任で本作の作・音楽を手がける松尾スズキと、CAS常任講師で本作の演出・美術を手がける杉原邦生に、発表公演に向けた思いやCAS生との1年間について聞いた。


──本作執筆にあたり、松尾さんが意識したのはどんなことですか?

松尾スズキ 若い人たちなので、青春に関わる話をやりたいなという思いがありました。でも24人の芝居となるとやっぱり上演時間3時間ぐらいになってしまうので、どの登場人物のどの部分をピックアップするのか、省略するのかということを考えながら、なんとか2時間ぐらいの台本に収めました。実は、そこがめちゃくちゃ大変でした。

──作品にはシェイクスピアやほかのミュージカル作品など、舞台好きな人が「あ!」と思うエッセンスがたくさん詰まっていて、松尾さんの演劇愛を感じます。

松尾 この公演はやはり、CASのレッスンの一環という部分もあるので、1つの台本の中にいろいろなバラエティがあったほうが良いだろう、そのほうが勉強になるだろうと思ったんです。また次から次へと変わった人たちが出てくるほうが、作品としても楽しみがあるんじゃないかなと。あとはまあ、現実的に早く書かなきゃいけないという問題もあったので、演劇の話ならいくらでも蓄積があるから書けるなと(笑)。

松尾スズキ

松尾スズキ

──杉原さんにとっても、普段とは違うタイプの作品への挑戦となります。台本を読んで、どんな印象を持ちましたか?

杉原邦生 当たり前なんですけど、第一印象は“松尾さんの台本だなあ”と(笑)。続いて、いろいろな方向に向けられた松尾さんの愛情を感じました。CAS生たちへの愛情、演劇やミュージカルに対する愛情、劇場への愛情、舞台芸術界全体への愛情……。僕自身、劇中の言葉に励まされたり、気付かされたりすることがたくさんあって、発表公演のテキストとしてすごくいいな、素敵な台本だなと思いました。

松尾 かなり杉原くんに丸投げしている部分があります(笑)。

杉原 いえいえ、でもそれも楽しいです。松尾さんの新作ミュージカルを演出するって前例のないことですし、“これから”の人たちと一緒に作品を作っていくという点でも、すごくスペシャルな機会だと思っています。

──配役はどのように決めたのですか?

杉原 松尾さんが当て書きしたような役もある、ということは聞いてはいたのですが、僕は松尾さんの想定キャストについてほぼ聞かずに、制作チームと暫定キャスティングを考えました。その後、改めて松尾さんにご相談し、松尾さんのアイデアも伺って、最終的に配役を決めました。ただ、松尾さんが想定されていたキャストと僕たちが考えた暫定キャストは割と似てましたよね?

松尾 そうですね。だから基本的に僕は、何も言っていないです。

──2バージョンで上演するということも最初から決めていらっしゃったのでしょうか?

松尾 はい。24人の出演者を平等に扱うことは、ちょっと不可能なので。

──お稽古の様子を見て、どんな手応えを感じましたか?

松尾 人数が多いということもあって、みんなのトーンを合わせていくのが大変そうだなと思いました。

杉原 そうですね。今日稽古したシーンが、実は一番大変なんじゃないかと松尾さんともお話ししていたんですけど……。でも稽古が始まってみて気づいたのは、2バージョンあるおかげで誰がどの役なのかわからなくなってしまう瞬間があること!(笑) それが思いのほか大変です。それから、みんなもちろんすごくいいものを持っているし個性もあるんだけど、経験値や引き出しの数がまだ少ないので、予想以上に時間がかかるなということはあります。

──松尾さんもよく稽古にいらっしゃるのですか?

松尾 いや、今日が稽古初日以来2回目で、そんなに来てはいません。見ると余計なことを言いたくなってしまうので(笑)。

杉原 でもいてくださると僕としては心強いです。相談したいときに松尾さんに直接聞けますから!

杉原邦生

杉原邦生

──“教える”という点では、お二人共コクーン アクターズ スタジオ以外にもさまざまなご経験がありますが、CAS第一期生と寄り添ってきた1年を振り返り、今、どんな思いをお持ちですか?

松尾 杉原くんも多分そうだと思うけれど、これまで“素人以上プロ未満”のような人たちを多数教えてきた中で、CAS生たちが一番ハングリーな印象があります。彼らには「何かひとかけらでもいいから持って帰りたい!」という強い思いがあって、そういう姿勢で来られると、こちらも何か差し出したい気持ちになるんです(笑)。思い出すのは、自分が二十代で東京に出てきて、闇雲に演劇の世界に入ったときのこと。演出家や周りの一言ひとことに一喜一憂しながら、なんとか視線をこっちに向けたいと必死だった日々を思い出します。

──確かに、CAS生さんたちはよく笑い、お互いにアドバイスし合い、演出家にも積極的に質問しているなと感じました。

杉原 普段のレッスンでも、終わると毎回、質問の嵐です! 気づいたら1時間以上経っていたり、質問の行列ができていたり……。

松尾 質問に来てくれるのはうれしいけど、最後はこちらもカスカスになっちゃうくらいみんな熱心なんだよね(笑)。

杉原 前のめりですよね(笑)。でも松尾さんがおっしゃったように、その思いに僕らも応えたいと思うからすごい相乗効果というか。いい生徒が集まるといいレッスンができるんだなと実感しています。

──質問されることで、改めて気づく、ということもありますよね。

杉原 そうですね。答えるために改めて考え直したり、「こういうふうにも考えられるんだな」と気づくことは確かに多いです。

松尾 自分の頭が整理できる、ということはあるよね。

──そして3月、いよいよ第1期生の発表公演「アンサンブルデイズ」が上演されます。稽古が始まって、レッスンとは違うCAS生の一面を感じる部分はありますか?

杉原 顔つきがみんな変わってきたなと思います。最初からハングリーではありましたけど、俳優としての自覚が出てきたというのかな。そういう変化は感じます。

松尾 と同時に、レッスンが始まってちょっとテングになっていた鼻が、続けるうち、ペシャッとなったところもあって。「自分は基礎を守ってちゃんと心を伝えようとしているのに、それとは無関係にただただ面白いやつがいる」ってことに悩んだり……かつて荒川良々が出てきたとき、周りの俳優が「あんな風にはできない」と悩んでいたのと似た状況になっていると思います。あとは……みんなのチームワークがもっと取れたらいいなと思いますね。今はまだそれぞれに精一杯なところがあると思うから、稽古を通じてそこが変化していくといいなと思います。

──CAS最初の1年目がようやく巡り、2期生のレッスンが4月にスタートします。「アンサンブルデイズ」には、CASに興味を持っている人たちが多数来場されると思いますが、公演に向けたお二人の思いを伺えますか?

杉原 CASにはモチベーションが高い人たちが集まってきていて、とてもいい環境だし、いい学びの場になっています。その熱量はどこにも負けないくらいのものだと思いますので、本当に演劇をやりたい、演劇を生業にしていきたいという人はぜひCASの門を叩いてほしいです。さらに第1期生の「アンサンブルデイズ」を観て、「次は自分たちがもっと面白くしたい!」と思ってもらえたら、僕はうれしいですね。

松尾 若い人たちの芝居を長いこと観てきて、昔の俳優より上手い人はいっぱいいるなと思うんです。文化的底上げがされたというか……カラオケが上手い人はどんどん上手くなっているし、絵が上手い人もどんどん上手くなっていて、それはそれでいいことだと思います。でも俳優の場合は、上手さにプラスアルファ“面白い”ということが重要で、その点ではもしかしたら、昔のほうがいたんじゃないかとも思います。上手くはないけどすごく面白いとか、バケモノみたいな人とか……そういった、面白さと上手さが2階建てになっている“強い俳優”に出会えたらいいなと思いますし、CASの公演を観て、「面白い俳優になりたい」と思う人が出てきてくれたら、演劇がもっと豊かになるんじゃないか、と思っています。

左から杉原邦生、松尾スズキ。

左から杉原邦生、松尾スズキ。

プロフィール

松尾スズキ(マツオスズキ)

1962年、福岡県生まれ。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。2004年に映画「恋の門」で長編監督デビュー後、2008年には映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2015年に映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」(監督・脚本・出演)、2019年に映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(監督・脚本・主演)が公開された。小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」「もう『はい』としか言えない」で芥川龍之介賞にノミネートされるなど、作家としても活躍。2019年に上演した「命、ギガ長ス」が第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。2020年、Bunkamura シアターコクーンの芸術監督、2023年より京都芸術大学舞台芸術研究センター教授に就任。

杉原邦生(スギハラクニオ)

1982年東京生まれ、神奈川県茅ヶ崎市育ち。演出家、舞台美術家。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映像・舞台芸術学科卒、同大学院 芸術研究科 修士課程修了。学科在籍中の2004年にプロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げ。これまでに「エンジェルス・イン・アメリカ」「ハムレット」、太田省吾「更地」などを上演。木ノ下歌舞伎には2006年から2017年まで参加し、「黒塚」「東海道四谷怪談―通し上演―」「勧進帳」などを演出。そのほか、近年の主な作品にCOCOON PRODUCTION 2022 / NINAGAWA MEMORIAL「パンドラの鐘」、ホリプロ「血の婚礼」、COCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」(コーナー演出)、歌舞伎座「新・水滸伝」、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「SHELL」、PARCO PRODUCE 2024「東京輪舞」、東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」、「モンスター」など。2018年度第36回京都府文化賞奨励賞受賞。2018年より跡見学園女子大学兼任講師。