歌っても歌わなくても同じなら、歌うしかない
──2月にリリースした最新アルバム「音楽」には、「結局は人だって / 人と人なんだって」(「切望」)、「未来とはあなた自身だ / いじけたオトナのうわ言に迷うなよ」(「決心」)など、道徳の教科書に載っていてもおかしくないようなストレートなメッセージの歌詞が満載ですよね。でも、こういったシンプルな歌詞に“体重”を乗せて演奏するのが一番難しいと思うんです。健全な状態のバンドじゃないとできない音楽だなと。
柳沢 ありがとうございます。おっしゃる通りだと思いますね。大昔に作った「ありがとう」という曲があるんですけど、最初にメンバーに送ったデモには「arigatou」と書いていたんですよ。これはたぶん、逃げだった。伝わらなかったときの予防線を張っていたんですけど、活動を通してどんどんストレートな言葉になってきましたね。
──いじめや戦争がなくならない、悲しみや不幸のほうが多いようにも感じる世界で、SUPER BEAVERが希望を込めた曲を作り続けることができる理由はなんでしょうか?
柳沢 歌い続けるしかないんだと思うんです。歌っても歌わなくても同じなら、「歌わない」を選ぶと100%何も変わらないじゃないですか。だったら歌ったほうがいい。成功するまで続けないと、成功しないので。悔しい気持ちにもなるし、そのことにもう慣れたというわけでもないんですよ。落ち込むんだったら、なぜ落ち込むのかを考えたい。本当はどうしたかったのかを声にしたい。これが理由かもしれないです。
渋谷 僕はどんどんリアリストになっているというか、「努力は人を裏切らない」とは言えないし、「がんばれば夢は叶う」とも言えないけど、それを知ったうえで全部あきらめるのかとなったら、そうじゃないところに目を向けたいんですよね。誰かに芽生えた気持ちを、真心を持って鼓舞するにはどうやったらいいのかと考えたときに、生身の人間としてリアルに歌い続けるのが一番力になれるんじゃないかと、僕は信じてるので。「どれだけ愛を謳っても 悪意は未だ消え去ってない / どれだけ面と向きあっても 想いすれ違うかもしれない / でも でも」(「ひたむき」)の「でも でも」の部分を強調したい。そう思いながら、ずっと音楽をやってますね。
──アルバムタイトルがまさに「音楽」ですが、音楽の持つ力を感じる瞬間はいつですか?
柳沢 音楽が世間や社会を変えるかといったら、そういう力はないと思うんですよ。音楽が何かをひっくり返すことはなくて、仮にあるとしたらそれは人がやってるんですよね。音楽が聴いた人の心に作用して、大きな渦になることはあるかもしれない。
──まさしくラストナンバーの「小さな革命」で歌っていることですね。
柳沢 いつだって世界を変えるのはやっぱり人間なんじゃないかな。そのうえで、音楽は人の何かしらのきっかけになる力はあると思いますね。僕らにとってはたまたまそれが音楽で、人によってはスポーツかもしれないし、お笑いかもしれない。美術とかファッションとかごはんとか、いろいろあると思いますけど、その中の1つだろうという気がします。
いい曲を書いてカッコいいライブがしたいだけ
──SUPER BEAVERは一貫してストレートなロックをやっていますよね。来年で結成20年になりますが、ロックというものを取り巻く状況も非常に変わったと思います。ヒットチャート的にもカルチャー的にもメインストリームだったものが、そうとは言い切れなくなっているというか。
渋谷 あんまり考えたことないですけど、確かにニッチになってきましたよね。僕らのやってるバンドのスタイルって、超ベタじゃないですか。ピンボーカルがいて、ギター、ベース、ドラムの4人組。「ロックバンドの絵を描いてください」って言ったらみんな描きますよ(笑)。何も珍しくないんだけど、周りがどんどん減っていくからニッチに見られる。無理して目立とうとするんじゃなくて、実直に好きなことをやっていたら勝手に道が開けていったので、楽しいですよ。
──ニッチになっていく中で、富士急ハイランド・コニファーフォレスト2DAYSで4万人を動員したり、先日も日本武道館3DAYSを成功させたりと、ロックバンドが好きな人、やっている人にとっての希望だなと思いました。
柳沢 本当にありがたいんですけど、個人的には会場のキャパにものすごいこだわりがあるわけでもないんですよね。ロックシーンを元気にしたいとも思ってないし。乱暴な言い方をすれば、いい曲を書いてカッコいいと胸を張れるライブができればそれでいい。僕たちはそれをやって食っていきたいんです。音楽をやれてればなんでもいいわけじゃなく。僕たちの曲を「いい曲だな」と言ってくれる人がいて、ライブでドーンと大きい音でやってワーッとなるあの感動が大好きで。その喜びが一番なんです。もちろん、どんどん大きくなるのもうれしいし、チャートインするのもうれしいですよ。だからといって何か変えようと思ったことはないし、かといって聴いてもらうための努力も怠ったことはないし。1回目のメジャーを辞めて以降は、カッコ悪いことをやったことはないと思ってるので。頑なに同じことしかやりたくないということでもなく。
──そのバランスがSUPER BEAVERの強さの本質な気がします。
柳沢 だからね、「ビーバーはコツコツやってて素敵だ」とか言ってくれる方が多いですけど、誤解なんですよ。僕らだって何段飛ばしだってしたかったのに、結果としてコツコツになっただけ!(笑)
渋谷 ブレイクしたかったですよ(笑)。
柳沢 若手がどんどんブレイクしていって。
渋谷 「追い抜かすなよ」と思った。
──TikTokで世界中でバズりたいと(笑)。
柳沢 したいですよ。バズったって僕らがやることは変わらないですから。
プロフィール
SUPER BEAVER(スーパービーバー)
渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“35才”広明(Dr)の4人によって2005年に東京で結成されたロックバンド。2009年6月にEPICレコードジャパンよりシングル「深呼吸」でメジャーデビューした。2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタートさせた。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと契約を結んだことを発表。2021年7月に映画「東京リベンジャーズ」の主題歌を表題曲としたシングル「名前を呼ぶよ」をリリースした。2023年は映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命- / -決戦-」に主題歌「グラデーション」「儚くない」を提供し、7月に山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストでキャリア史上最大キャパシティの野外ワンマンライブ「都会のラクダSP ~ 真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち ~」を開催。さらに8月より対バンツアー「都会のラクダSP ~サシ飲み五番勝負、ラクダグビグビ~」、9月よりホールとアリーナを回るツアー「都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」を行っている。2024年2月にアルバム「音楽」を発表。6月より野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 ~ビルシロコ・モリヤマ~」を行う。
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2024年12月11日更新