TOMOO|音楽と生きる、音楽で生きる やめようと思ったことは何度もある。だけど…

楽曲やライブなどを通じてリスナーの生活に潤いを与えてくれるアーティストは、普段どのようなことを考えながら音楽活動を行っているのだろう。日本音楽著作権協会(JASRAC)との共同企画となる本連載では、さまざまなアーティストに創作の喜びや苦悩、楽曲の誕生秘話などを聞きつつ、音楽活動を支える経済面に対する意識についても聞いていく。第1回は、9月27日にメジャー1stアルバム「TWO MOON」をリリースしたTOMOOが登場。長らくインディーで音楽活動を続けられた理由や、メジャーデビュー後の環境や意識の変化を語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 梁瀬玉実
ヘアメイク / Chika Uenoスタイリング / Minoru Sugahara

プロフィール

TOMOO(トモオ)

TOMOO

1995年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。2021年8月に発表したシングル「Ginger」がさまざまなアーティストから注目され、2022年8月にポニーキャニオン内のIRORI Recordsより配信シングル「オセロ」でメジャーデビュー。2023年9月にはメジャー1stアルバム「TWO MOON」をリリースし、11月からは本作を携えた全国ツアー「TOMOO LIVE TOUR 2023-2024 "TWO MOON"」の開催を控えている。

紆余曲折を経てメジャーデビュー

──この企画ではアーティストの皆さんに楽曲制作など創作に関するお話と、音楽活動が生活の基盤になっていくまでの流れや意識の変化について伺えたらと思っています。さっそくですが、インディーで活動している多くのアーティストが費用を捻出するのに苦労している中で、TOMOOさんはいかがでした?

最初の自主制作盤を作ったときが初めてお金の問題に直面したタイミングだったかもしれない。楽器を弾いてくれたミュージシャンの皆さんにお支払いするギャラとかスタジオ代とか、けっこうかかるなあって。そのときはまだ楽曲を収入源にしようという感じではなくて、それよりも「作品を残したい」という思いのほうが強かったですね。

──楽曲を作っても収入にはならない状況の中で、音楽家として生きていく未来に迷いは生じなかったですか?

いや、ずっとありました。17歳でコンテストに応募して、初めて自分以外の同じ志を持つ同世代の人たちと並べられたときに、「なんか自分ってナヨナヨしてるなあ」と思って。「この人たちに太刀打ちできるだけの、ガツガツやっていくモチベーションが自分の中に本当にあるのかな?」みたいなことは当初すごく思ってました。

TOMOO

──でも、やめようと思うには至らなかった?

やめようと思ったことは何度もあります(笑)。当時はSNSで自分から発信していくという発想もそんなになかった時代で、ライブハウスでたまたまその場に居合わせた数人の人に対しての伝達だけが宣伝っていう形式だったので、それだとやっぱりなかなか広がってはいかなくて。それで「広がらないのは自分がダメだからなんだろうな」って思っちゃうんですよ。変に人と比べて、まだ未熟なだけなのに「才能がないのかも」という方向に考えちゃったりとか。

──それでも続けられたのは?

自信をなくしかけると、私の音楽を強く受け取ってくれる人が現れるんです。「あなたは続けなきゃダメだ」みたいな……直接そういう言葉で言うわけじゃないけど、私になんらかの希望を託してくれているような人が、大事なポイントポイントで熱いメッセージをくれるんですよ。そういうのが17歳のときから要所要所でずっとあって。

──“広く”ではなく、“深く”伝わっていることがそこで実感できた。

そうですね。

──そうした中で、明確に「音楽で生きていく」ことを決めた瞬間みたいなものはあったんでしょうか。

大学3年生までに何も芽が出なかったらそこであきらめようと思っていたんですけど、そのくらいの時期に音楽出版社の人から声がかかって、一度デビューへ向けての活動が始まったんです。それが2017年かな。それまでの個人での動きとは違う形での音楽活動がスタートしたことで「就職活動はしない」と決めたので……ターニングポイントと言えるかどうかは微妙なんですけど、それが「これでやっていこう」と思ったタイミングではありました。

TOMOO

脳内の景色を思い通りに表現できる喜び

──メジャーデビューを果たした今となっては、余計なことを考えずに音楽を作れている実感がありますか?

そうですね、だいぶ自由に。このうえなく自由に作らせてもらっているなあって。

──インディーズ時代との違いは、どんなときに感じますか?

イメージを具現化しようとすると、だいたいお金がかかるんですよね(笑)。映像にしろ音にしろ、自由な心で思い描く脳内の景色というものは、自分の身ひとつでは表現できないこともけっこうあるんです。私の場合は脳内の景色がけっこうフルカラーっていうか、「12色全部使う」みたいなところがあって……それはリッチさという意味ではなくて、最低限必要な色数がもともと多いという意味なんですけど。

──豪華にすることが目的ではなくて、脳内で描いたものを忠実に再現するためにたまたま必要だった、ということですよね。

それを思い通りに表現させてもらえる喜びがありますね。いつも本当にありがたいなと思ってます。

──具体的なところでは、例えば生楽器による生演奏が挙げられますよね。TOMOOさんの作品では生バンドはもちろん、弦や管なども入ってきます。めちゃくちゃ豪華なやり方というか。

はい(笑)。

──そのやり方でなければ表現できない音楽なんだ、という確信があるわけですよね。

そうですね。思えば20歳のときにやった最初のワンマンライブでも、めちゃめちゃ無理やりカルテット(弦楽四重奏)の皆さんを呼んだんですよ(笑)。

TOMOO

──筋金入りですね。

そのときも身の丈に合わない豪華なライブを無理にやろうとしたわけではなくて、それが必要だと思ったからやったまでなんですけど。めちゃくちゃ狭いライブハウスの舞台にバンドとカルテットとホーンの人たちがぎゅうぎゅう詰めになって、バイオリンの人とかはステージ端の床に腰掛けて足プラーンってなりながら演奏するような状態で(笑)。

──でも、それはすごく象徴的なお話に思えます。当時の活動規模からするとオーバースペックだったとしても、音楽的には必然性があったということですもんね。

そうなんです。それ以来そんなことはやってないですけど(笑)。


2024年12月11日更新