生田絵梨花×柳沢亮太(SUPER BEAVER)|人に優しくありたい──共通する心の核から生まれた楽曲「だからね」

2021年末に乃木坂46を卒業したのち、昨年ディズニー100周年記念作品「ウィッシュ」で主人公アーシャの日本版声優を務めるなど、活躍の場を広げている生田絵梨花。幼少期からピアノに触れ、乃木坂46時代から高い歌唱力にも定評のある彼女が、ソロアーティストとして初の音源作品となる1st EP「capriccioso」を4月10日にリリースした。

生田はコロナ禍のステイホーム期間に独学で作詞作曲を始め、2022年夏と冬にZepp会場でソロライブを開催。2023年秋には東京、福岡、大阪、愛知を舞台にソロツアーを行った。EPにはライブで披露された自作曲「Laundry」「No one compares」「I'm gonna beat you!!」、そしてIVE「ELEVEN -Japanese ver.-」、藤井風「ガーデン」、森山直太朗「花」のカバーを収録。さらに新曲として、SUPER BEAVERの楽曲の作詞作曲を手がける柳沢亮太(G)が書き下ろした新曲「だからね」が収められている。

音楽ナタリーでは生田と柳沢に、楽曲提供までの経緯や、制作の過程、お互いの作曲方法について話してもらった。2人の会話から、お互いどこか近しい思いを持っていることが明らかになっていく。

取材・文 / 中川麻梨花撮影 / 梁瀬玉実

心のド真ん中にぶつかってきてくれる

──お二人はこれまでも音楽番組でたまに顔を合わせる機会があったかと思います。初めて会ったのは、2022年12月、生田さんがMCを務めている「Venue101」にSUPER BEAVERが初出演したときですよね?

柳沢亮太 そうだったと思います。

生田絵梨花 ちゃんと面識を持ったのは「Venue101」なんですけど、乃木坂46時代に「シブヤノオト」でSUPER BEAVERさんと同じ回に出たことがあって。スタジオで「愛しい人」を演奏されていて、そのパフォーマンスを一方的に観ていました。

左から生田絵梨花、柳沢亮太。

左から生田絵梨花、柳沢亮太。

柳沢 「愛しい人」ってことは今から3年前か。

生田 そうですね。私は「愛しい人」からSUPER BEAVERさんを好きになったので、当時めちゃくちゃうれしかった記憶があります。「愛しい人」は「あのときキスしておけば」というドラマの主題歌だったんですよね。舞台で共演した麻生久美子さんが出演されているということで作品を観始めたら、曲が流れるシーンで感動して泣いちゃうくらい、ドラマの内容と主題歌にすごくハマって。

柳沢 実は「シブヤノオト」のときに、「SUPER BEAVERの曲が好き」とモニタを観ながら言ってくれていた方が乃木坂46さんの中に1人いたというのは、スタッフさんからちょろっと聞いていて。

生田 そうだったんですか!

柳沢 「知ってくれてるんだ」という話をスタッフさんとしていたのは覚えています。

──2022年に「Venue101」にSUPER BEAVERが初めて出演したときに、生田さんは「配信ライブを観ました」とおっしゃっていましたよね。

生田 ドラマの主題歌をきっかけにSUPER BEAVERさんの楽曲を聴いていたんですけど、しばらくしてから、乃木坂46時代からずっとお世話になっている舞台監督さんに「SUPER BEAVERのライブ、めっちゃいいよ」とオススメしてもらったんです。「ライブがうまくできなくて、どうしたらいいですかね」と相談して、アドバイスをもらっていたときでした。

柳沢 うちのライブの舞台監督もやってくれている人なんだよね。

生田 そうです。それでライブを観たいと思ったんですけど、ちょうどコロナ禍の時期で、生では観れなくて。だから配信ライブのDVDを買って、映像を観たんです。

柳沢 わざわざ買ってくれたんだ。

生田 もう本当にすごかったんですよ。画面越しでもこんなに熱を届けてもらえることがあるんだって。1人で部屋で号泣しました(笑)。

柳沢 (笑)。舞台監督を通じて、配信ライブを観てくれているというのは知っていて。「ビーバーのライブの話をしたら、とても熱心な子ですぐに観て、すごく感動したということを言ってたよ」と聞いていました。しかもそのあと、去年の夏にやった富士急ライブにも来てくれて(参照:SUPER BEAVER、4万人と音楽を作り上げた富士急2DAYS「俺たちの歩みは間違ってなかった」)。

生田 あれは超楽しかったです!

柳沢 ありがたいですけど、山梨まで足を延ばしてくれるとは思ってなかったから(笑)。

生田 ずっと生のライブに行きたいなってタイミングをうかがっていたんですけど、なかなかスケジュールが合わなくて。「合う日がある!」と思ったのが、たまたま富士急ライブの日だったんです。あんなに心を動かされるライブはなかなかないんじゃないかなというくらい、最高でしたね。

──生田さんの中で、SUPER BEAVERの音楽のどういうところが心に刺さったんでしょうか。

生田 私は日常生活で、自分が思っていることにあまり正直になれなかったりする瞬間が多くて。斜めから物事を見ちゃったり、不安を感じていないように振る舞っているところがあるんです。でも、SUPER BEAVERさんの曲は、心のド真ん中にぶつかってきてくれる。自分は本当はこう思ってるのかな、こうしたいんだろうな、というのが見えてくるんですよね。

柳沢 うれしいです。今回の楽曲を制作させてもらうにあたって、直接お会いしてお話をいろいろと聞かせてもらう機会があったんですけど、その中でもそういったことを言ってくれてたよね。わざと自分の本音にたどり着かないようにしちゃってる部分があるという。そして、そこに対してそのままでいいと思っている自分もいるし、もうちょっと変われたら楽かもなと思っている自分もいて、そんな気持ちが心に同居している……そんなことをずっと真面目に考えているんだろうなという印象を受けました(笑)。

生田 あははは。

柳沢 おこがましい言い方ですけど、そういうところは俺もちょっとわかるなあというか、近しいものを感じました。自分もビーバーのライブや楽曲を通して、なんとか本音を表現しようとしているところはあって。アウトプットしようとしているものの質感が似ているのかもしれないです。

生田 光栄です……!

最近何かに怒ったことある?

──生田さんがSUPER BEAVERのファンであることは前提として、今回どういう思いがあって新曲を柳沢さんに書き下ろしてもらうことになったんでしょうか?

生田 私はソロになってから、ハマいく(かまいたち濱家隆一とのダンスボーカルユニット)以外だと、まだ人に楽曲を提供してもらったことがなくて。これからソロアーティストとしてずっと大事に歌えるような曲が欲しい、常に離さず持っていられるような曲がいいなと考えたときに、柳沢さんが書いてくれたらそんなに幸せなことはないなと思ってお願いしました。

生田絵梨花

生田絵梨花

柳沢 ありがたいお話です。ライブを観に来てくださっていて、そのうえでお話をいただいたので、なおさら応えたいなと感じました。純粋にご一緒できたら面白いなとも思いましたし。

生田 よかったあ。

──制作にあたって直接会ってお話ししたということですが、具体的にはどんなことを?

生田 「ライブで盛り上がるアッパー系がいいのか、しっとりとしたバラード系がいいのか」と聞いていただいて、そのときに私からは「『盛り上がっていこうぜ!』というよりは、言葉をしっかり握って、確かめていけるような曲がいいです」ということをお伝えした気がします。

柳沢 番組でお会いしたことはあっても、じっくりとお話をしたことはなかったので、僕からは主に「どんなことを考えているんだろう?」ということを探るための話をしましたね。最初に聞いたのは、「最近何かに怒ったことある?」だったと思います(笑)。

生田 すごく覚えてます(笑)。

柳沢 その質問の意図としては……「何が好きなの?」とか「何にハマってるんですか?」とか、いくらでもポジティブな質問はあるんですが、「何に腹が立ったか」がわかると、同時に何を大事にしているかがわかる。怒りの反対には、「本当はこうであってほしい」という理想があるんじゃないかなと思ったから、まずこの質問をしました。

生田 そのときは、大丈夫じゃない状態のときでも「大丈夫」と答える自分へのモヤモヤ感を伝えた記憶がありますね。

柳沢 よく人から言われる「いろいろとなんでもこなせる」というイメージと、「とはいえ、こっちは必死なんだけどな」という自分の思いの間のギャップにちょっと葛藤があるという話をしてくれて。「怒っているわけではないけど、そんなに簡単に『できるよ』って言ってくれるなよ」というような気持ちはどこかにあるんだろうなと感じました。それを基本的に見せないようにしてるのはすごいことだと思うし、そういった話はすごく印象的だったな。

柳沢亮太

柳沢亮太

生田 でも、こういうふうに人となりを掘り下げてもらう機会がこれまであまりなくて、心の開け方があまりわかってなかったんですよね。「どうぞ」という状況になったときに、なかなか自分の胸の内を解放できないというか。せっかく柳沢さんと対面で打ち合わせをさせてもらったのに、全然自分のことを伝えられなかった感覚があったんです。聞かれたことに対して、ちゃんと答えられた自信がなくて。それで楽曲を書いてもらうにあたって、もうちょっと「こういうやつなんだ」というのを知ってもらえたらいいなと思い、打ち合わせが終わってしばらくしてから、日頃書いているメモの一部をスタッフさんを通して柳沢さんにお渡ししたんです。私はモヤモヤしたときや不安を感じたときに、気持ちを整理して覚えておくためにメモを取る習慣があって。メモを曲に反映してほしいというわけではなく、単純にもうちょっと自分の情報を渡せたらよかったなという後悔があったので送らせてもらったんですけど、曲を受け取ったらメモの言葉をふんだんに取り入れてくださっていて。それが本当にうれしかったし、すごく真剣に言葉を読み解いてくださったんだなと優しさを感じました。

柳沢 メモを読ませてもらったときに、おこがましいけど、めちゃくちゃ近いことを考えてるなと思って。

生田 ホントですか!

柳沢 これはビーバーの楽曲を好きになってくれるのもわかるなと、すごく合点がいきました。メモの内容をどこまで言っていいのかはわからないんですけど、全体を通して一番感じたのは、自分の中だけで自問自答してるというよりは、どこかに“人”の存在があるなと。相手のことを許せる自分であれたらいいなとか、何かにイラッとすることがあっても「いいよいいよ」と言えたほうがいいなとか、「人に優しくありたい」という思いを感じました。俺も理想として、そういうことを掲げていたいんですよね。自分が人に優しくできているからそう言ってるわけではなく、まだなれていないからこそ目指したい。自分の中で大事にしたい部分というのが、すごく近いなと思いました。

生田 メモは誰にも見せるつもりはなかったので、思ったことをただ書いてたんですけど、1つだけ意識していたことがあって。それは文末を「~したい」で締めくくること。そうじゃないと、どんどんドツボにハマって何も見えなくなってしまうような気がしたんです。「~したい」という言葉を文末に使うことによって、「自分は今はこういう状態だけど、これからどうしたいのか」という方向がちょっと見える。そんな中で、「人に優しくありたい」という気持ちを汲み取っていただけたのはうれしいです。「だからね」というタイトルも、メモで意識していた部分とリンクすると思います。いろんな接続詞がある中で、「だからね」という言葉は、「~したい」という自分の考えにつながる感じがあるので。

左から柳沢亮太、生田絵梨花。

左から柳沢亮太、生田絵梨花。

玄関の鍵を閉めたあとの自分

柳沢 この曲は「玄関の鍵を閉める音で 誰も知らない私になる」というフレーズで始まるんだけど、これもメモから感じ取ったことなんですよね。1人で部屋の中にいるときの姿って、ほかの人にはわからないじゃない。それは家でもそうだし、例えばツアーで地方に行って、「おつかれ! 楽しかったねー!」と言ったあと、バタンってホテルのドアを閉めた瞬間に真顔になる自分がいて(笑)。

生田 わかります(笑)。

柳沢 そこからもう1回外に出るまでの間に、本当の意味で“自分しか知らない自分”が存在する。もしかしたらそういう時間に、ボーッとメモに書いてあるようなことを考えているんじゃないかなと。そういう思いから曲を書き始めました。

生田 デモを受け取って、すごく丁寧に向き合ってくださっているのが伝わってきて……この曲はこれからずっと大切にしていきたいなと心から思いました。特にサビの「私は私のできること あなたはあなたの得意なことを」というフレーズが印象的で。何かをやろうとしても、なかなか自分の理想に追いつかなくて「できない」と思っちゃったり、一歩踏み出すのが怖くなったりするけど、周りの人に頼ったり助けを求めたり、関わる人を意識することで、自分も自分にやれることを一生懸命やろうと、ちゃんと立っていられるような。人と人が助け合って生きていくために大切なことが書かれていると思います。

柳沢 直接話してみて思ったけど、いくちゃんの心の根底には、誰かを勇気付けたいというか、人それぞれの生活において希望になるものを発信したいという気持ちがあるよね。それが軸としてあるからこそ、「もっと応えたいな」「もっと喜ばせたいのに、なんでできなかったんだろう」といろんなことを考えたり悩んだりしているんじゃないかなと感じて。

生田 確かに。

柳沢 例えばソロアーティストとして音楽活動をしたら、いくちゃんのためにたくさんの人が動くわけで、いくちゃんにはそこに対する責任感がどうしても生じてくる。でも、そこから降りたいとは思ってないんだろうなというのは、話していて伝わってくるんですよね。しんどいと思うことはあるだろうけど、きっと逃げたいわけじゃない。「だからね」は、そういうことを書きたいなと思って作った曲です。