楽曲やライブなどを通じてリスナーの生活に潤いを与えてくれるアーティストやクリエイターは、普段どのようなことを考えながら音楽活動を行っているのだろう。日本音楽著作権協会(JASRAC)との共同企画となる本連載では、さまざまなアーティストに創作の喜びや苦悩、秘訣などを聞きつつ、音楽活動を支える経済面に対する意識についても聞いていく。
第8回は、2024年にメジャーデビューするなど大きな飛躍を遂げた離婚伝説が登場。活動規模が大きくなっても変わらずに楽しく音楽活動を続けているという2人に、一番楽しい瞬間はどんなときか聞いてみた。
取材・文 / 張江浩司撮影 / 森好弘
プロフィール
離婚伝説(リコンデンセツ)
![離婚伝説](https://ogre.natalie.mu/media/pp/static/music/jasrac_rkndnsts/pc_artist01.jpg?impolicy=pp_image)
2022年に松田歩(Vo)、別府純(G)の2人で活動を開始。バンド名はマーヴィン・ゲイが1978年にリリースしたアルバム「Here, My Dear」に由来する。2022年に発表した「愛が一層メロウ」で注目を浴びる。2024年3月20日に1stアルバム「離婚伝説」をリリースし、その3日後に行われた初ワンマンライブでメジャーデビューすることを発表。2025年1月に配信シングル「しばらく」をリリース。11月にはZepp規模を中心とした全国ツアーを開催することが決まっている。
「根拠のない自信」に突き動かされた結成前夜
──お二人が「音楽で生きていく」と決めたのはいつ頃ですか?
松田歩(Vo) 離婚伝説の活動を始める前からですね。20歳くらいのときにボーカルグループに誘われてライブに出演したのがきっかけで「音楽を仕事にしよう」と決めました。すぐには叶わないだろうと思ってましたが、そこで覚悟を決めたというか。半ばあきらめていた歌が好きだという気持ちが、改めて芽生えた感じでした。根拠のない自信だけがある状態で(笑)。
──別府さんはどついたるねんのライブを観て就活をやめたそうですね。
別府純(G) そうですね。学生の頃からずっと音楽はやってたんですけど、将来どうするかは漠然としていて。どついたるねんというバンドのライブを観たときに、ステージにいる彼らの姿が輝いていて、すごく楽しそうだったんですよね。「この活動が仕事になるなら素晴らしい人生だな」と思って、一度もリクルートスーツに袖を通さず卒業してしまいました。どついたるねんのおかげで人生変わりました(笑)。
──「音楽で生きていく」とひと口に言っても、「仕事にする」「ライフワークとして取り組む」「リスナーとして極める」など、いろいろなレイヤーがあります。お二人の姿勢は最初から噛み合いましたか?
別府 僕も根拠のない自信がずっとあって、「いつかどうにかなるだろう」という精神で生きてきたんですよね。そういうところは一緒だったのかな。
松田 離婚伝説を結成する前から「絶対にいい音楽を作れる」と思っていました。でも、僕らは方向性を話し合ったりすり合わせたりしたことはほとんどないんです。シンプルに仲がいい友達からスタートしてますから。結成時はコロナ禍だったこともあっていつから活動し始めたかも曖昧で、とりあえず自分たちの好きな音楽をやってみようと。今もずっとその延長線上にいる感じです。
──2024年は、お二人の音楽が急速にリスナーに受け入れられた1年でした。
松田 本当にあっという間でした。目の前のことを一生懸命、一歩一歩やってきたというか。
別府 離婚伝説を組んでから2、3年のことは、死ぬ前にも思い出せるんだろうなと思います。きっといい思い出として。
松田 ワンマンライブもだし、ツアーも、海外でのライブも、アルバムも。初めての経験がたくさんあったんです。すべて大切に向き合ってこれたと思います。
別府 いろいろありすぎて「これが一番のターニングポイント」みたいなことはないかも。
松田 幸せだよね。
別府 でも、1つひとつ夢だったはずのものが、すごいスピードで過ぎ去っていくと感じています。もちろん全部大切にしようとはするんですけど、終わったあとにすぐ次に取りかからないといけなくて。
松田 もっと余韻に浸りたい。
別府 そうそう。なかなか浸らせてもらえない感覚がずっとあります。
松田 「本当に自分たちがやったのかな?」みたいな。そういうスピード感でした。
──しかし、その熱狂から距離を置いているような冷静さも感じます。浮かれていないというか。
松田 そんなことないですよ。浮かれる暇もないというだけで(笑)。正直、全部大変なんですけど、全部楽しくもあるので。音楽で悩める時間だから、こんなに幸せなことはないです。こういう大変な期間が、のちのち振り返ると大切な記憶になっていくのかなと。
権利については知らないことばかり
──昨年はアニメ「ラーメン赤猫」のエンディングテーマになった「本日のおすすめ」もありました。離婚伝説にとって初めてのタイアップソングでしたね。
別府 原作のある作品へのタイアップ、書き下ろしは初めてでした。制作もかなり自由にやらせてもらえたほうだと思います。
松田 バランス感がすごく難しい。自分たちの色を原作にどれくらい寄り添わせるのか、それも含めてすべて楽しかったです。
──こうして自分たちの音楽が聴かれるフィールドが広がっていくと、おのずとそれに付随する権利についても意識するようになるかと思うのですが、いかがですか?
別府 ありがたいことに、これほど忙しくなる直前にいろいろ勉強する機会があったんですよね。
松田 メジャーデビューするタイミングで。本当に知らないことばかりでしたね。
別府 全部知らなかった(笑)。
松田 楽曲が使われる機会は多岐に渡るので、JASRACさんはそれを全部チェックしてくれているのかと。(JASRACスタッフに向かって)ありがとうございます。
別府 例えば、知らない人の結婚式で僕らの曲が流れたら、その使用料も僕らに分配されるんですか?
JASRACスタッフ 多くの場合、場内で流れる音楽は結婚式場にまとめて著作権使用料をお支払いいただいて、利用楽曲の報告をもとに権利者に分配することになっています。
別府 なるほど。新郎新婦じゃなくて式場が払うんですね。
JASRACスタッフ はい。披露宴などでプロフィールムービーを流す場合もあると思います。プロフィールムービーに思い入れのある音楽を使ったりすると思いますが、ムービー制作の際に音楽を入れる(複製する)部分については、先ほどの式場のご契約に含まれていませんので、映像制作者の方に複製の手続きをとってもらっています。映像制作事業者からのご申請が多いですが、直接、新郎新婦からご申請いただくこともあります。利用いただいた楽曲は、権利者に分配する仕組みを作っています。結婚式で使われたのか、コンサートで使われたのか、サブスクで使われたのか、精緻な情報をご確認いただけます。
松田 著作権使用料の割合が大きいのは、どの分野なんでしょう?
JASRACスタッフ 現在だと、圧倒的にYouTubeやサブスクなどのインタラクティブ配信です。ついでテレビなどの放送ですね。海外に比べると、日本はまだCDも多少あります。
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ケンカはしないがめちゃくちゃ話し合う