Netflixアニメ特集 園子温が語る「DEVILMAN crybaby」|シンプルさがかえって禍々しい、永井豪ファンが見た“新たなデビルマン”の魅力

怖さがどう描かれるかが楽しみ

──デーモンの造形についてはいかがですか? 頭部に巨大な翼を持つ美女、シレーヌは非常に有名ですが。

シレーヌとカイム、いいですね。僕が忘れられないのは、カメの形をしたデーモンがいたでしょう。名前はなんだっけな……?

──えーと……ジンメンです。

園子温

そうそう! そいつは人間を喰うと、甲羅からその顔が浮かんでくるんですよね。大勢の人たちが苦しそうな表情で、泣いたり叫んだりしている。その中に、明の友達もいたりして…。永井先生、よくあんな悲しいアイデアを思い付かれたなと思います。あのデーモンたちは今回、「DEVILMAN crybaby」にも出てくるのかしら?

──それは大きな注目ポイントですね! もともと原作マンガは、地球の先住人類・デーモンと人類との戦いを描いていますが、園さんはどういう出会いを?

もちろん連載時から読んでました。たしか1972年から1973年なので、小学校5、6年くらいだったんじゃないかな。少年誌の連載であそこまで突き詰めた世界を展開する作家はなかなかいないので。当時の印象は鮮烈に残っているし、脳裏に焼き付いていまだに離れない1コマというのもあります。

──どのコマですか?

もはや古典ともいえる名場面なので、言ってもネタバレにはならないと思うんですが……。やはり物語のヒロインが迎える、あの悲劇的な結末ですね。当時の少年マンガで、あんなショッキングな表現はまず考えられなかった。マンガ界の暗黙の掟を完全に逸脱しているというか……子供心に「え、ここまでやっちゃうんだ」と感じました。そもそも原作の根底には、“人間は時として、悪魔以上に悪魔的な存在になりうる”という永井先生の認識があると思うんです。その恐ろしさが見事に集約されているコマだった。

──その直後にデビルマンが口にするセリフが、また鮮烈なんですよね!

「DEVILMAN crybaby」

そうなんだよね! ただ、連載とほぼ同時放送されていたアニメ版では、そういう怖さはほぼ脱色されていたので。だから今回の「DEVILMAN crybaby」でそのへんがどう描かれるのかも、すごく楽しみです。ちなみに新作「東京ヴァンパイアホテル」では、僕なりのオマージュとして、あのコマのパロディをやってるんですよ。作品自体、「ヴァンパイアより実は人間のほうが怖いんじゃないか」という視点で作っていて。その意味ではまさに「デビルマン」と同じ。先日、東京フィルメックスで行われたプレミア上映には永井先生も来てくださって。すごくうれしかったですね。

永井豪作品は“ハレンチ”な存在

──改めて、園子温少年にとって永井豪先生とはどんな存在でしたか? 以前のインタビューでは「ふがいない子供時代、こんな自分でも生きていていいんだと思わせてくれた人」とおっしゃっていましたが……。

園子温

当時の少年マンガって、大きく“文化系”と“スポ根系”に分かれていたんですね。僕は完全に文化系。「巨人の星」はもちろん「あしたのジョー」にすら興味がなく、むしろ手塚治虫先生、赤塚不二夫先生にどっぷりとハマっていました。中でも永井豪作品には、想像力がどこまでも過激に突き抜けていくスリルがあった。まさに大ヒット作の題名じゃないですけれど、とんでもなく“ハレンチ”な存在だったんですよ。それが少年の好奇心をくすぐり、僕の心に変態性を植え付けたんじゃないかと(笑)。しかも物語作家としての振り幅がすごいでしょう。ギャグ満載の「ハレンチ学園」にしても、後半はめちゃくちゃ残酷な戦争状態に突入していきますし。ちなみに小学生の頃、僕はけっこうオリジナルのマンガを描いてましてね。

──へええ、そうだったんですね。

最近、引っ越しをしたら、当時のノートがいっぱい出てきた。それを見ると、ヒロインはほぼ悲惨な最期を迎えていました。それ以外にも、永井豪タッチの登場人物たちが次々に殺されていくマンガばかり描いていて、よほど影響されたんだなと。

──それが血肉になって、映画作家・園子温ができあがったと。

そうですね。実際は“影響された”というより“汚染された”というほうが近いかもしれませんが(笑)。それこそデーモンと融合しちゃった明みたいに。永井豪という悪魔が体内に入り込み、園子温を動かしてるんじゃないかと。そう思うことすらあります。

──永井豪=デーモン説ですね(笑)。ご本人はしごく温厚そうに見えますが。

園子温

いやいや、ああいう人ほど恐ろしいんですよ(笑)。前世ではとんでもない悪事を重ねているのかもしれない。それは冗談としても、実際にお話しさせていただいて感じるのは、たぶん永井先生はご自分が描かれる物語を、架空のことだとは思っておられない。例え「デビルマン」のように悪魔が出てくる完全なるフィクションであっても、心のどこかで現実だと信じておられる気がします。それって作り手にとってはすごく大切で。僕自身、ヴァンパイアの映画を撮るときには、ルーマニアまで行ってヴァンパイアの一族に取材を試みたことがありますよ。結局うまくいかなかったんですけど(笑)。

──な、なるほど、です。

ははは。魔女を介するとか、いろんなルートで当たったんですけどね。でも、ヴァンパイアの存在をどこかで信じているから、ヴァンパイア映画を作れるというのはあるわけで。同じように永井先生は、心の中のデーモンと語り合いながら「デビルマン」という作品を描かれたような気が、僕にはしますね。悪魔に魅入られる感覚とでも言うんですかね。そういう、突き動かされる特別な才能というのは、あると思いますよ。

Netflixオリジナルアニメ「DEVILMAN crybaby」(全10話)
2018年1月5日(金)より全世界で同時配信
「DEVILMAN crybaby」
ストーリー

平凡な高校生・不動明は、ある日親友の飛鳥了から地球の先住人類“デーモン(悪魔)”が復活し、世界に蔓延していることを知らされる。デーモンの証拠をつかむべく潜入したサバトパーティにて、悪魔に憑依される明。人間の心をあわせ持つデビルマンとなり、了とともにデーモンの悪行を暴こうと奔走するが……。

スタッフ

原作:永井豪「デビルマン」
監督:湯浅政明
脚本:大河内一楼
音楽:牛尾憲輔
主題歌:電気グルーヴ「MAN HUMAN」(Ki/oon Music)
キャラクターデザイン:倉島亜由美
デビルデザイン:押山清高
ラップ監修:KEN THE 390
アニメーション制作:サイエンスSARU

キャスト

不動明:内山昂輝
飛鳥了:村瀬歩
牧村美樹:潘めぐみ
ミーコ:小清水亜美
シレーヌ:田中敦子
カイム:小山力也
ゼノン:アヴちゃん(女王蜂)

長崎:津田健次郎
ワム:KEN THE 390
ガビ:木村昴
ククン:YOUNG DAIS
バボ:般若
ヒエ:AFRA

Netflix

映画やアニメ、ドラマをストリーム再生して楽しむことができるオンラインエンタテインメントサービス。作品によってはダウンロードも可能。コースはひと月あたり650円のベーシック / 950円のスタンダード / 1450円のプレミアムの3種類が用意されている。

園子温(ソノシオン)
1961年12月18日生まれ、愛知県出身。1987年、「男の花道」でPFFグランプリを受賞。2008年「愛のむきだし」の第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門 カリガリ賞・国際批評家連盟賞受賞をはじめとして、「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」「地獄でなぜ悪い」などの監督作が、各国の映画賞に輝いた。2017年には、ロマンポルノリブートプロジェクトの一環として製作した「ANTIPORNO」を発表。4月6日公開のオムニバス映画「クソ野郎と美しき世界」では、稲垣吾郎主演のepisode.1で監督を務める。