アリ・アスター×小出祐介 / 園子温|世界が注目する鬼才、初来日!その映画哲学とは

「ヘレディタリー/継承」で鮮烈な長編監督デビューを飾り、世界で注目を集めたアリ・アスターの新作「ミッドサマー」が2月21日に公開される。「ヘレディタリー」に続いて気鋭のスタジオA24が贈る本作で描かれるのは、スウェーデン奥地で行われる90年に1度の祝祭。白夜に照らされる村を訪れたアメリカ人の学生たちが、想像だにしなかった悪夢に見舞われていく。

このたび映画ナタリーでは、初来日を果たしたアスターへの取材を2回に分けて実施。観客にトラウマを植え付けるほどの鬼才でありながら、にこやかで人当たりのいい素顔を持つ彼の映画哲学に迫る。第1回では映画好きとして知られ、ミュージシャン仲間とともに映画を観るWeb連載も持つ小出祐介(Base Ball Bear)によるアスターへのインタビューを掲載。第2回では、アスターと彼が敬愛する映画監督・園子温の対談をお届けする。

取材 / 小出祐介(P1、2) 文 / 平野彰(P1、2)
取材・文 / 柴﨑里絵子(P3、4) 撮影 / 入江達也

INTERVIEW アリ・アスター×小出祐介

すごく切ない恋愛映画としての側面(小出)

アリ・アスター (小出がびっしりとメモを書き込んだ取材ノートを見て)ワオ! どんな質問が来るのか楽しみです(笑)。

小出祐介 (笑)。昨年の秋に初めて観たのですが(編集部注:「ミッドサマー」は第32回東京国際映画祭の企画「シン・ファンタ / 復活!? 東京国際ファンタスティック映画祭ナイト」で上映された)、インパクトのある映像やスリリングな展開に衝撃を受けましたし、会場も大盛り上がりで、まず劇場体験としてすごく楽しかったです。

アスター ありがとうございます。

小出 それから今回の取材にあたって改めてもう一度じっくり観たんですけど、1回目のときには気付かなかった、恋愛映画としての側面がすごく沁みてきて。周囲でとんでもないことが起きていく中でも、恋人……とは言いつつも、自分と義務感や同情で一緒にいるクリスチャンが、自分のことを見てくれているかどうか確認するダニーの健気さがすごく切ない。離したくても手を離せず、関係性にしがみついていた自分との決別。この要素ってすごく普遍的なもので、実は物語の中核なんじゃないかと思ったんですけど、こういう構成にされたのはどうしてですか?

「ミッドサマー」より、フローレンス・ピュー演じるダニー(左)と、ジャック・レイナー扮するクリスチャン(右)。

アスター もともと複数のレイヤーが同時に機能するような物語が好きなんです。「ミッドサマー」では、アメリカ人の若者たちが異教徒のコミュニティに立ち入ったことをきっかけに、いろいろな恐ろしいことが起きます。そういう意味では、ただの民間伝承ホラーとして観ることができる。ただ、ほかのキャラクターの視点から見ればこの物語はホラーですが、ダニーにとっては一種の“おとぎ話”なんです。彼女は物語の冒頭で家族を失います。そして、クリスチャンだけが彼女にとって頼れる存在になるわけですが、2人の関係はすでに機能していない。物語の中で、ダニーとクリスチャンの関係は少しずつ変化していきます。

家族とは?それはいつも頭の中にある問い(アスター)

小出 なるほど。まさにそういった部分が、この映画のすごく面白いところなんですよね。この構造が何回観ても楽しめる理由になっていると思います。それから今のお話でダニーが家族を失うという部分に触れられていましたけど、近年、家族を題材にした映画が世界的に多く作られていますよね。「万引き家族」や去年の「家族を想うとき」、今年の「パラサイト 半地下の家族」とか。これらは社会の縮図や鏡像として家族を描いた作品だと思うんですが、アスター監督も、これまで短編を含めて家族を題材にした映画を複数撮られています。監督にとって家族とは、どういったものなんでしょう?

アスター いい質問ですね。答えるのが少し難しいですが……なぜかというと、それはいつも僕の頭の中にある問いだからです。ある意味では、前作の「ヘレディタリー」も今回の「ミッドサマー」も過去に作った短編も、その問いを模索する試みから生まれたものだと言えます。それから、アメリカのポピュラーな映画には「家族が一番。どんなにつらいことが起きても家族がいるから大丈夫。状況が悪化しても、むしろそのことによって家族がひとつになるんだ」という思想があって(笑)。

小出 わかります(笑)。

左からアリ・アスター、小出祐介。

アスター 確かにそれは1つの真実と言えるかもしれません。でも僕は知っています。それが必ずしも正しいわけではないということを。悲しみやトラウマが人をひとつにすることはもちろんあるけど、亀裂を生じさせることだってたくさんあります。ですから、ハリウッドのいわゆる「家族が一番だよね」という、すべてが丸く収まるタイプの映画を観たときに「これは自分が経験したことではない」と思い、より孤独感に苛まれる人もいるはずだと感じていました。そして実際、過去にシリアスな悲劇を経験したことのある何人かの方からは「自分の気持ちを高揚させてくれるのは『ヘレディタリー』のような映画です」という感想をもらえたんです。

小出 (しみじみと)おー……。

アスター 話が戻りますが、小出さんがおっしゃったように、「家族とは何か?」という問いに真正面から向き合っている作品は確かに世界中で増えていますね。そして「パラサイト」は、僕が知っているすべてのフィルムメーカーがジェラシーを感じている映画です。僕もその1人ですけどね(笑)。


2020年2月20日更新