2008年4月4日に1stアルバム「少女は二度死ぬ」を発表して以来、“トラウマテクノポップ”を標榜して現代社会の“闇”と“病み”をポップかつユーモラスに表現してきたアーバンギャルド。彼らがCDデビューのちょうど10年後である4月4日にニューアルバム「少女フィクション」を発表し、4月8日に東京・中野サンプラザホールでデビュー10周年記念ライブ「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」を開催する。
音楽ナタリーでは今回、アーバンギャルドの10年間の歩みを振り返るべく浜崎容子(Vo)と松永天馬(Vo)にインタビューを実施。聞き手にプロインタビュアーの吉田豪を迎え、浜崎の加入当時の話やその後の彼女の葛藤、サブカルチャーにおける“メンヘラ系”の一般化、メンバー脱退時の心境、今後のCDビジネスに対する意見など、さまざまなトピックについて語ってもらった。
また特集後半のページでは、アーバンギャルドと関わりの深い26組のアーティストや著名人から寄せられた、CDデビュー10周年を祝うコメントも掲載している。
取材・文 / 吉田豪 撮影 / 草場雄介
音楽的にもレベルが低いし、ちょっとひどいねって
──10周年おめでとうございます! ただ、正確には“CDデビュー10周年”ってことなんですよね。
松永天馬(Vo) そうです。CDデビュー10周年にして、浜崎容子が2007年の4月に加入して丸10年になるんですかね。
──そもそも、あんまりメディア上に情報が残っていない、それ以前の歴史もあるグループじゃないですか。
松永 アーバンギャルドは黒歴史も長いので……2000年代前半は劇団とかをやってて、その合間に遊びで音楽をやってたような感じだったんですけど、いろんなカルチャーに触れていたものが結果的にバンドの形になっていって。だから初期は音楽的ではなかったんです。浜崎さんが入ってからようやく音楽的になれたしバンドになれたので、そこで結成って言ってもいいのかもしれない。自分で本当にアーバンギャルドの作品として認められるものを作ったのも浜崎さんが入ってからかな。
──初期の音源はボクも2006年発売のオムニバス「萌えテクノぽっぷぅ」を持ってるくらいです。
松永 紀元前の音源ですね。豪さんに紙やWebで文字になるインタビューをしていただくのは今回が初なんですけども、それ以前に何度かお仕事をお願いしたとき、「ギャラはいいんでアーバンギャルドのレア音源をください」と言われましたよね(笑)。
──単なるファンなので(笑)。黒歴史時代からコンセプトは変わってないんですか?
松永 コンセプトも実はあってなかったようなもので、初期はホントにただ表現衝動をむき出しにしてやっているだけだったんですよ。最初はファンなんて1人もいなくて平日イベントの夜6時半からの1バンド目で誰もいないところでライブしてましたけど、浜崎さんが水玉のワンピースを着てライブに出演するようになって、少しずつファンの子たちが増えてきたんです。浜崎さんのレディメイドのように彼女の髪型とか衣装を模した水玉柄の前髪ぱっつんの子たちがたくさん集まり始めて、その現象に感化されて「水玉病」って曲を書いたんです。アーバンギャルドはファンと連動してると言うか、ファンと作りあげてきた部分があるのかもしれない。
──そんな浜崎さんはバンドに誘われたとき、過去の音源を聞いてどう思ったんですか?
浜崎容子(Vo) いや、面白いんだけど残念だなって(笑)。
──ダハハハハ!(笑) 正直すぎる感想です!
浜崎 そう伝えたと思います。面白いんだけど、音楽的にもレベルが低いし、ちょっとひどいねって(笑)。
松永 アーバンギャルドは浜崎容子のボーカルであることがすごく大事だと思っていて。
浜崎 ありがとうございます。
松永 歌詞が濃いしサウンドが厚いので、ボーカルもエモーショナルすぎると、野方ホープの100倍くらい濃くなってしまう(笑)。もう食べれない代物になりそうなところで、浜崎さんの声がいろんな要素を1回フラットにさせていると言うか。
浜崎 私が入る前に何人もいたボーカリストの頃の音源も全部聴かせてもらったんですけど、やっぱり言葉がね……歌詞カードで読むとすごく面白いのに、聴き取れないなっていうのが第一印象だったんですよ。それが非常に残念だねって。
──言葉として頭に入ってこない感じ?
浜崎 うん、難しい言葉が多くて何を言ってるかわからないから、文字として見ないといけなくなる。だからちゃんと歌で伝えるボーカルにならなきゃなっていうことを最初は思いましたね。ただ、さっき私の加入以前が黒歴史みたいな発言されてましたけど、10年もやってきたから、もうオリジナルメンバーでいいんじゃないかなあなんて(笑)。
──10周年記念で黒歴史時代を抹消して(笑)。
浜崎 そうですね(笑)。いまだに「よこたん、辞めるのかなあ?」みたいなことが書かれたりするんですよ。
「人の前に立つのは向いてないかもしれない」って悩みが浮かんでは消える日々
──まあ実際、辞めそうな雰囲気を持ち合わせていますからね。
浜崎 辞めたメンバーもいますけど、もう10年やってるのにボーカルが交代するグループだって思われてるんだなっていうのがビックリですよね。
松永 彼女自身がどうこうって言うより、アーバンギャルドってすごく時代の空気を反芻しているバンドじゃないですか。アルバムごと、常に全力投球で新しいことをやってきたから、いつか事切れるんじゃないかっていう気持ちをファンが抱えかねない。それこそメンバーチェンジで体制が変わったことも含めて、事切れそうなままいまだになんとか続いている。「血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようなもの」で。
──「ウルトラセブン」のモロボシ・ダンのセリフですね。
松永 ときめきに死にそうで死なない。そんなバンドなんですよ、アーバンギャルドは。
──これだけ辞めそうだった人が10年続いてることを評価してほしいですよね(笑)。
松永 生き永らえてきたことをね(笑)。
浜崎 辞めようと思ったことがないかって言われたら「あります」って全然答えるし、バンド以前に音楽自体を辞めたいと思った時期ももちろんあったし、「人の前に立つのは向いてないかもしれない」っていう悩みが浮かんでは消えっていう日々の繰り返しなんですよ。それをあんまり隠せないから(笑)、いろんな人が見てて「危ういな」って感じてらっしゃるのはすごくわかる。そこを隠してこそプロなんだろうけど……。
──アーバンギャルド的には正解だと思います!
松永 まあ、元祖メンヘラバンドですからね(笑)。
浜崎 私が加入してからメジャーデビューする前くらいまでは、けっこうかたくなに「そういう部分は見せないぞ!」っていう思いがあったんですよ。インディーズの頃に黒髪ではなく茶髪だったのも、私の中での「そういう感じっぽいよねー」っていうふうに見られたくないぞ!っていうささやかな抵抗で(笑)。だけど情緒が危ういファンの方が多い中で、自分自身が強くいるのも大事だけど、そういう人間臭い弱さみたいなのをちょっとずつ見せていいんじゃないかなって、だんだん年月を重ねて思うようになったんです。
松永 音楽は心を表現するもので、リスナーも心で感応するわけだから、自分の弱い部分を見せないと相手の心も開けないって思いながら、僕は歌詞を書いてます。だから自分が思ってる以上にアーバンギャルドの歌詞はドキュメントだったと言うか、自分の心情を吐露してたみたいなところもありましたね。
──ものすごく精神的に強い人たちがこういう方向性で音楽をやってたら、それはそれでちょっと引っかかりますからね。
松永 確かにね(笑)。
浜崎 ビジネスメンヘラ(笑)。
──だから信用できる部分はすごいありますよ。
浜崎 あんまりきれい事が好きじゃないんです。リスナーに夢を見せる部分も持ちたいんだけど、自分たちを知ってくれる人たちが「あ、こういう人だったんだ」「私たちと同じ人間なんだ」っていうふうに思ってもらえたらうれしいなって、最近は思うようになりましたね。
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ブレイクしないのは、やっぱり自分の容姿のせいなんじゃないか
- アーバンギャルド「少女フィクション」
- 2018年4月4日発売 / 前衛都市
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / FBAC-050 -
通常盤 [CD]
3024円 / FBAC-051
- CD収録曲
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- あたしフィクション
- あくまで悪魔
- ふぁむふぁたファンタジー
- トーキョー・キッド
- ビデオのように
- 大人病
- インターネット葬
- 鉄屑鉄男
- キスについて
- 少女にしやがれ
- 大破壊交響楽
- 初回限定盤DVD収録内容
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- あたしフィクション(PROPAGANDA VIDEO)
- あくまで悪魔(PROPAGANDA VIDEO)
- ふぁむふぁたファンタジー(PROPAGANDA VIDEO)
- 大破壊交響楽(MEMORIAL VIDEO)
公演情報
- アーバンギャルド「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」
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2018年4月8日(日)東京都 中野サンプラザホール
OPEN 16:00 / START 17:00
- アーバンギャルドの公開処刑13(トークライブ & サイン会)
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2018年4月3日(火)埼玉県 ヴィレッジヴァンガードPLUS イオン越谷レイクタウン店
START 18:002018年4月4日(水)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 19:302018年4月5日(木)愛知県 HMV栄
START 19:302018年4月6日(金)東京都 タワーレコード新宿店
START 21:00
- アーバンギャルド
- 「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる4人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表。ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫き、多くのリスナーから共感を集める。2011年7月にはシングル「スカート革命」でメジャーデビューし、2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。2014年から東京・TSUTAYA O-EASTを舞台にした主催イベント「鬱フェス」を毎年開催している。松永は2015年から2017年にかけてNHK Eテレの子供向け番組「Let's天才てれびくん」にレギュラー出演し、2016年にはNHK BSプレミアム「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」でドラマ初出演も果たしている。2018年4月にはCDデビュー10周年を記念したアルバム「少女フィクション」をリリースし、同月に東京・中野サンプラザホールでデビュー10周年記念ライブ「アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』」を開催する。