「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」|山崎貴が3時間超えのボーナス・コンテンツに驚愕「もう何がどうなってるんだって感じです」

予算は僕らの30倍、労力は1000倍

──ボーナス・コンテンツの話に移っていきたいと思います。ジェームズ・キャメロンは映像の中で「どんなにかっこよくてもリアリティのないものは採用しない」と言っていました。

リアリティはすごく大事ですが、キャメロン本当かよとも思います(笑)。技術的な裏付けがないデザインは採用しないでしょうし、現実と地続きかどうかを考えているとは思うのですが、かっこよさで選んでるでしょという気がしなくもないです。ただ「エイリアン2」のパワーローダーとかは本当にうまいなと感じます。現代の技術プラスアルファくらいで、工事現場にあってもおかしくなさそうなものがものすごくかっこいいメカに見える。「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」で言うと、“カニロボ”(クラブ・スーツ)がめちゃめちゃよかったです。最初にデザインを見たときは「なんじゃこりゃ?」と思ったんですが、映像で見たらものすごくかっこよかった。キャメロンは動いてなんぼのものを作りますよね。

ジェームズ・キャメロン(手前)

ジェームズ・キャメロン(手前)

──なるほど。ボーナス・コンテンツを観て、映画を制作したことがない自分にもとんでもないことをしてるのが伝わってきたんですが、実際に映画を作っている山崎さんからするといかがでしたか?

もうヤバいことだらけですよ! 水中モーションキャプチャのために紫外線を使ったカメラを開発するって、頭おかしいですよね(笑)。あとは先ほども話したように、CGキャラクターたちの中に人間が1人いるという状況を、100%違和感なく描写するって普通は不可能なんです。でもスパイダーカム(※編集部注:ドイツのCCSytems社が開発した空中特殊撮影機材)を使って実現させていました。スパイダーカムって1回借りるだけでとんでもない金額が掛かる、僕らからすると憧れの機材なんです。それを目線のためだけに使っていて……嫌になっちゃいました(笑)。技術的にはコストが下がっていて、ノウハウもあるので、1作目よりも安く作ると思っていたんです。何にお金を使っているんだろう?と気になっていたら、ボーナス・コンテンツにその答えがありました。スタントマンをワイヤーで吊って水中シーンを撮影しようとする場面がありますが、キャメロンは集中力が続かないし優雅さも出ないと言って却下するじゃないですか。それで巨大なタンクを作って、水流まで生み出すという。出演者は長時間息を止めないといけないし、撮影は過酷になることがわかっていると思うんですが、それでもタンクで撮影することを選ぶ不屈の精神がすごいです。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」撮影現場の様子。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」撮影現場の様子。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」撮影現場の様子。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」撮影現場の様子。

──キャスト陣は世界的なダイバーの指導によって素潜りを学び、ボーナス・コンテンツにはケイト・ウィンスレットが訓練で6分50秒息を止めていた場面も収められています。

シガニー・ウィーバーはキャメロンから「そういえば3、4分息を止められるかい?」と聞かれたと話してましたよね。キャメロンは「(自分が)息を止めた最長記録は5分30秒だ」と語っていたり、もう何がどうなってるんだって感じです(笑)。衣装や装飾品もとんでもない数作ってましたけど、あれ全部リファレンス(参考資料)ですからね。スキャンはしてるかもしれませんがそのまま撮影に使ってることはなくて、「この光の中だとこういう感じに見える」みたいなことを知るためだけに作っている。たぶん予算は僕らの30倍くらいだと思うんですが、労力は1000倍掛けてるんじゃないかと感じました。あと、水のシミュレーションも想像したら気持ち悪くなりそうなくらいの時間を掛けているんだろうなと。やってもやっても終わらなかったと思いますし、水担当の人がちょっと遠い目になってた気がします(笑)。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」ボーナス・コンテンツの一部映像。

──ボーナス・コンテンツを観て、自分の現場でも採用したいと思うことはありましたか?

使えるなら使いたい技術ばかりでしたが、やはり予算が違うので……。キャメロンが却下した、人をワイヤーで吊って撮る水中シーンは試してみたいです(笑)。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」場面写真

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」場面写真

物が並んでいることへの喜びがある

──山崎さんは前作「アバター」のソフトもお持ちとのことです。配信が主流の中で、ブルーレイやDVDとして手元に持っておくことの魅力はなんだと思いますか?

古い世代なのでコレクションすること、物が並んでいることへの喜びがあるんですよね。あと配信は突然なくなったりするので、本当に大事な作品だったら手元に持っておかないとまずいなと思います。配信があるから買わなくていいやと思っていたら、「今はこの作品を観ることはできません」みたいな表示が出ていてマジかよって。その映画と会えなくなってしまうのは嫌だから、慌ててソフトを購入するときもあります。

──「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」ソフトの魅力はやっぱりボーナス・コンテンツですか?

めちゃめちゃ面白かったですからね。技術的にわからない部分があったとしても、信じられないくらい挑戦的なことをやってるのはわかると思いますし。特典を観て、裏側でどれほどの苦労があったかを知ってから本編を観ると、親近感が湧いてより楽しむことができるのかなと。それが「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を全部体験するということだと思うのでお勧めです。

山崎貴

山崎貴

プロフィール

山崎貴(ヤマザキタカシ)

1964年6月12日生まれ、長野県出身。2000年に「ジュブナイル」で監督デビュー。主な監督作に「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「STAND BY ME ドラえもん」シリーズ、「永遠の0」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」などがある。2023年11月に公開される「ゴジラ」最新作の監督・脚本・VFXも担当した。2023年7月15日から10月29日にかけて、長野・松本市美術館で展覧会「映画監督 山崎貴の世界」が開催される。

ジョン・ランドー(プロデューサー)インタビュー

神秘の星パンドラは素晴らしい逃避先

──デジタル配信やブルーレイで、何回も観てほしいシーンはありますか?

私が真実だと思うことの1つは、人々は現実世界から逃れるためにエンタテインメントに目を向けるということ。そして「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の舞台である神秘の星パンドラは、人々にとって素晴らしい逃避先だと思います。だから私にとっては、あるシーンがどうのこうのというわけではなく、パンドラでの体験全体が重要。自宅の視聴機器の前に座って、映画の世界に没頭することが大事なんです。

ジョン・ランドー

ジョン・ランドー

──「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を通して、若い世代に何を伝えたいですか?

僕が若い世代に、そしてすべての人に伝えたいのは、あなたたちは違いをもたらすことができるということです。ジェイクとネイティリの息子であるロアクが、自分の中に父親を救う能力があることを知らないまま出かけて行って、父を救うようにね。私たちの行動は、周囲の人々や世界に影響を与えることができるんです。

──ジェームズ・キャメロンとは長い間パートナーとして関係を築いていますが、彼と意見が合わなかったりすることはありますか?

ジムと私の意見が一致しないことはあります。私が彼に持ち込んだアイデアで彼が完全に拒否するものもあれば、彼が持ってきたアイデアを私が否定することもある。クリエイティブアートに携わる人と接するときは、その場で答えを出す必要がないということに気付かないといけないと思います。じっくり考えればいいんです。

──あなたにとってジェームズ・キャメロンはどんな存在ですか?

私にとってジムは、毎日、仕事をよりよくできるように背中を押してくれる人です。そのことに感謝しています。

左からジェームズ・キャメロン、サム・ワーシントン。

左からジェームズ・キャメロン、サム・ワーシントン。