「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が全国で公開されている。
2009年公開作「アバター」の続編であり、ジェームズ・キャメロンが監督を務めた本作。前作から約10年が経った神秘の星パンドラを舞台に、元海兵隊員ジェイク・サリーと先住民ナヴィの女性ネイティリ、そしてその子供たちが森を追われ海の部族に助けを求めるさまが描かれる。前作に続きジェイク役でサム・ワーシントン、ネイティリ役でゾーイ・サルダナが出演し、シガニー・ウィーバー、スティーヴン・ラング、ケイト・ウィンスレットもキャストに名を連ねた。
映画ナタリーでは「BEASTARS」「SANDA」で知られるマンガ家・板垣巴留に映画を鑑賞してもらい、インタビューを実施。海洋学者を志望していたキャメロンの海への愛、ナヴィと人間という異種族間の絆、板垣いわく“逆にコスパがいい”という3時間超えの映像体験について語ってもらった。
取材・文 / 小澤康平撮影 / 清水純一
「俺の海への愛を受け取れ!」という感じがすごくよかった
──前作「アバター」は2009年12月公開だったので、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」は13年ぶりの続編となります。まずは率直な感想を教えてください。
いい意味で「アバター」とは方向性が変わったなと思いました。前作は立て続けにいろいろなことを起こして展開を作っていく感じでしたが、今作ではキャラクター同士の心の揺らぎや、関係を築いていく過程が描かれていて、登場人物の感情に重点を置いているのかなと。なんでもすぐにコロナと結び付けるのは失礼ですが、コロナ禍を経験したジェームズ・キャメロンが、心のつながりや家族というものをより深く描きたいと思ったのかもしれません。
──確かに1作目よりも内省的な物語であるように感じました。一方で、映像の迫力は他に類を見ない出来栄えになっていると思いますが、映画体験としてはいかがでしたか?
3Dで映画を観たのは久しぶりなんですが、すごかったです! ジェイクら家族がどうやって海と触れ合い、海の一族であるメトカイナ族になじんでいったかがセリフなしの映像で紡がれていましたが、ドキュメンタリーのように思えて没入感がありました。海に入った直後は寒いですけど、徐々に暖かくなっていくじゃないですか。それと同じように、自分も少しずつ海になじんでいく感覚になりました。
──海の描写はどう思いましたか?
自分がマンガで海がメインの回を描いたとき、ずいぶん早く描き上げたことを思い出しました。マンガだと、パースに正確にならなくていい分、人工物より自然物を描くほうが自由で楽です。でもCGでは逆に自然物をいかに自然に作るかが大切で、そこに心血を注いでると感じました。どこかで読んだのですが、ジェームズ・キャメロンって地球最深のマリアナ海溝へ潜航したんですよね?
──「ジェームズ・キャメロン 深海への挑戦」としてドキュメンタリーになっていて、2012年に記録となる世界最深単独潜航を達成しました。もともとは海洋学者志望でもあったそうです。
そういう人が作ってるんだから、それはすごいものになりますよね。何かに対する愛情が大作として上映されるというのは、巨匠だからこそできることだと思いますし、「俺の海への愛を受け取れ!」という感じがすごくよかったです。
──まさに海への並々ならぬ愛を感じました。アクションシーンについてはいかがでしたか?
前作はアバターとメカの戦いが中心だったと思うんですが、今回はアバターと人間の肉弾戦が多くて楽しかったです。私はナヴィが好きなので、本領発揮して人を圧倒するシーンが観られたのでうれしかった。ヒロインのネイティリが大暴れするシーンもよかったです。
ネイティリとクオリッチが好き
──「アバター」は公開当時にご覧になっていましたか?
観ました。このインタビューのお話をいただく少し前に、週刊少年チャンピオンの作者コメントに「高校時代に『アバター』の仮装をしたのを覚えてる」と書いたんですよ。高校生ってハロウィンの日の放課後にお菓子を持ち寄ったりするじゃないですか。私は美術学科だったので、そのときに友達と青く塗って仮装していましたね。それくらい高校時代にハマっていた作品でした。
──そうだったんですね! ツイートで拝見したのですが、2021年に観た印象に残っている映画として「ターミネーター」を挙げられていて。ジェームズ・キャメロンの作品は好きですか?
「ターミネーター」は初見だったんですが、すごく面白くて。人形をうまく使っていたり、若いジェームズ・キャメロンが試行錯誤して作っている情熱が伝わってきて、キラキラした映画に思えました。あとは「タイタニック」も好きです。
──「アバター」はどんなところに惹かれたんですか?
ナヴィのビジュアルですね。人よりもちょっと大きいサイズ感がリアルでよくて、NBA選手だったらこれくらいの人いそうだなみたいな。手足が長くて頭は小さいというスタイルなんですが、それをCGで作ったら気持ち悪くなりそうなのに、ちゃんとかっこよく思えたんです。ネイティリは人間の自分からしても美人なことがわかりますし。あとパンドラの植物が夜に光るように、体の斑点が光るじゃないですか。彼らもパンドラの一部なんだなという一体感を味わえたのもよかったです。「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」では海の部族であるメトカイナ族が出てきますが、ヒレのようなものが付いていたり、ちゃんと泳ぎに特化した体になっているのが面白かったです。今後も火や植物などいろいろな部族が考えられますよね。少年マンガ的に言うと、長期連載する見通しが付いているなと。
──続編の製作はすでに決定していて、2024年、2026年、2028年に1本ずつ公開されていきます。
あと3作あるってすごいですよね。ジェームズ・キャメロン、もう70歳近いのにめちゃめちゃ元気だなと(笑)。今作はシリーズ2作目でありつつ、世界観を広げる序章のような役目もあったと思います。今後もっといろいろな部族のデザインが見られたらうれしいです。
──ちなみに好きなキャラクターはいますか?
ネイティリとクオリッチがめっちゃ好きです。今回大活躍でうれしかったですね。
──それぞれどのあたりが好きなんでしょうか?
ネイティリはまず顔が好きで、泣き方があまりかわいくないところも好みです(笑)。静かに女の子っぽく泣くのではなくて、叫ぶように号泣しますよね。そういうときってあるよなと思いながら観ていました。クオリッチは偉そうに指令ばかりするタイプかと思いきや、自分でちゃんと前線に行くところが好きです。前作では肩に炎が燃え移るシーンがあったんですが、それを冷静にはたくのがかっこよくて印象に残っています。1つの動作だけでキャラクターの魅力ってアップするんだなと。
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美談だけでは美談にならない