「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」|山崎貴が3時間超えのボーナス・コンテンツに驚愕「もう何がどうなってるんだって感じです」

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のブルーレイ+DVDセットと4K UHDが6月30日に発売。また7月21日には前作「アバター」の4K UHDも発売される。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のブルーレイには、3時間を超えるボーナス・コンテンツを収録。監督のジェームズ・キャメロンをはじめ、キャストのサム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、クリフ・カーティス、ケイト・ウィンスレット、スティーヴン・ラングらがどのように映画を作り上げたのか、壮大な舞台裏が明かされる。

映画ナタリーでは、日本屈指のCG・VFX技術を誇る白組に所属し、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「STAND BY ME ドラえもん」2作、「アルキメデスの大戦」の監督として知られる山崎貴にインタビューを実施した。本編とボーナス・コンテンツを鑑賞した山崎が「もう何がどうなってるんだって感じです」と語った訳とは? またプロデューサーであるジョン・ランドーへのインタビューも掲載する。

取材・文 / 小澤康平撮影 / 入江達也

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」ブルーレイ+DVDセット 予告編公開中

山崎貴インタビュー
山崎貴

映画を観ながら「いったい何が起きているの?」

──山崎さんは去年の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」公開前、新作が楽しみという内容のツイートをされていました。

はい、公開されてすぐに観に行きました。

──いかがでしたか?

壮大な大河ドラマと言いますか、「どこまで行くんだこの物語は!」と思いました。5部作と発表されていますし、ジェームズ・キャメロンは巨大なサーガを作ろうとしているんだなって。人生をこのシリーズに懸けるつもりなんだなという覚悟が伝わってきました。

──2009年公開の「アバター」から13年後に封切られましたが、どこに進化を感じましたか?

ハイフレームレート(※編集部注:通常の映画は1秒間に24コマだが「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」のハイフレームレート上映は48コマ)で撮影されていますが、水のためだったんだなと。24fpsだと現実世界で僕らが見ているように水の動きを表現することが難しいんですが、48fpsだと透明なまま水の挙動を映し出せるんですよね。専門的な話になりますが、24fpsだと水しぶきが白く映っちゃうんです。でもハイフレームレートだと細かく描写できるので、透明なまま移動しているように見せることができる。現実世界と同じものをスクリーンに映し出すことができる唯一の方法がハイフレームレートなので、とにかくすごかったですね。それが作品のドキュメンタリーっぽさにもつながっていて、なるほどと思いました。どこかで撮ってきた映像という感じがなくて、今目の前に水があってバシャバシャしてるという現実感が半端じゃなかったです。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」場面写真

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」場面写真

ほかにとんでもないことをしているなと感じたのが、身長3mくらいのナヴィ族の中に人間のスパイダー(※編集部注:ジャック・チャンピオン演じる少年)が交じっていること。同じ画に映っていたら普通は違和感があるものですが、体の接触や水に対しての影響を見ていても、ナヴィ族とスパイダーが完全に同一世界にいるんですよ。映画を観ながら「いったい何が起きているの?」って。ナヴィ族と一緒に出てくるときのスパイダーはCGでものすごくリアルに作ってるのかな、そうじゃないとこんなに調和できるわけないよな、と思っていたんですが、ボーナス・コンテンツを観たらものすごいことをしていて。ある意味バカヤロー!って感じですよ(笑)。身長差があるキャラクターを違和感なく同じ画に映すために、作らなくても映画制作に支障はないようなセットをたくさん用意して、膨大なお金と時間を掛けている。スパイダーはこの先も重要なキャラクターだと思うので、そこに労力を掛けるのは正しいんですが、正しすぎるよと。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」より、ジャック・チャンピオン演じるスパイダー。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」より、ジャック・チャンピオン演じるスパイダー。

──ジェームズ・キャメロンが完璧主義であることが伝わってくるメイキング映像でした。

完璧主義なんですが、無駄なことはしてないんですよね。新しい技術を開発してまで表現を追求しているのが、ただただすごいと思いました。CGで作られた人間っていう自分の予想が外れていてちょっと残念ですけど(笑)。

──ジェームズ・キャメロンの映画は昔から好きなんですか?

昔、スターログというアメリカのSF映画雑誌があって、ジェームズ・キャメロンのVFXの仕事が紹介されていたんです。やってることが自分に近かったので勝手に共感していたんですが、「ターミネーター」をきっかけにどんどん出世していって、あれ?みたいな(笑)。でもVFXの制作者が映画監督になるというルートもあるんだと最初に思わせてくれたのがキャメロンなので、やっぱり親近感はありますね。ボーナス・コンテンツの中でキャメロンの「自分たちの『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』を作るんだ」という言葉が紹介されていましたが、僕も多感な若い頃に「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」に入れ込んでいたので、そういうところにも共感を覚えました。

ジェームズ・キャメロン

ジェームズ・キャメロン

船を沈ませたら天下一品

──「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」には主人公ジェイクとネイティリの子供たちや、海辺に暮らすメトカイナ族といった新キャラクターが登場しますが、印象に残っているキャラはいますか?

14歳の養女キリを70代のシガニー・ウィーバーが演じていますが、最初は「何をしてはりますの」と思いました(笑)。パフォーマンスキャプチャってわりと本人が出るので大丈夫かなと思っていたんですが、大丈夫などころか、歳を経ているけど幼いみたいな不思議な感じが出ていてよかったです。たぶんキャメロンはシガニー・ウィーバーの中に無邪気さを見たんだと思います。これは勝手な予想ですけど、キリは今後中心人物になっていくと思っていて、彼女の人智を越えた感じを出すためにシガニー・ウィーバーを選んだのかなと。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」より、シガニー・ウィーバー演じるキリ。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」より、シガニー・ウィーバー演じるキリ。

──先ほどキャメロンは無駄なことをしないとおっしゃってましたけど、キャスティングにもしっかり理由があると。

自分ならキリをどうするかを考えてみたんです。観客にそれとなく重要であることを感じさせる独特なキャラクターを作るとして、オーディションで子供たちの中から適役を選ぶのは難しいだろうなと。その子がどういう資質を持っているかまではわからないときがあるので。なんとなく僕は最後に「アバター」の物語を背負うのはキリだと思ってるんですけど、そうするとものすごく腕のある名優にやってもらわないといけない。それで「シガニー・ウィーバーだ」という思考の流れがあったように感じます。

──確かにキリは今後、より重要なキャラになっていく気がします。

振り返ってみるとキリの話だった、という可能性はありそうですよね。「スター・ウォーズ」がダース・ベイダーの物語であるように。

──ジェームズ・キャメロンの演出で感銘を受けた部分はありましたか?

「ここからどうやって助け出すの?」というシチュエーションに持って行って、そこから説得力のある方法で救助する展開がうまいですよね。最後には助かるだろうとわかっていても感情を揺さぶられるのは、演出力のなせる技だと思います。巨大な船のシードラゴン内の救出劇では「もう無理じゃん」と思うシーンが何回もあって、「本当にダメかも」というギリギリのところでキリが超能力を発動する展開とか。ゆっくりと船が沈んでいく中でアクション的な見せ場を作りながら、シチュエーションをどんどん変化させて楽しませてくれる。船を沈ませたら天下一品ですよ(笑)。

山崎貴

山崎貴

──(笑)。劇中にはジェイクの「家族が私たちの砦だ」という印象的な言葉が出てきて、ジェームズ・キャメロンの家族観が垣間見える物語でもありました。家族というのは世界中の映画監督が題材にしていて、山崎さんの作品にも家族がテーマになっているものがあると思います。家族についてはどのような考えをお持ちですか?

かなり理解のある親のもとで育てられたので、ネガティブな家族を描けないのが僕の弱点だと思っています(笑)。厳しい家庭で育った経験とか、自分の中のカードが足らねえよって。やっぱり映画って負け犬が這い上がっていくのが面白くて、主人公をルーザーにする必要があるんですが、自分からはなかなか手札が出てこない。だからと言ってひどい家庭で育ちたかったとは思わないですし、子供時代の体験を今さら考えても仕方がないので、ポジティブな家族を描く人でいようと思いますね。

──そういう家族を描く映画監督も世の中には必要だと思います。

ありがとうございます。でもやっぱりカードは足らないんです(笑)。

──映画を作るうえではネガティブな体験も必要だと。

嫌なことが起きたときはだいたいつらさで心が埋まるんですが、一部に「よしよし、いい引き出しができた」という邪悪な気持ちも芽生えるんです。「この体験が糧になる」とニヤッとしている自分がどこかにいて、だからこそそんなにくじけなくて済みますね。