映画「
黒沢が1998年に発表した同名映画を日仏共同製作でセルフリメイクした本作。愛娘を殺され復讐を誓った父親が、偶然出会ったパリで働く日本人の心療内科医の協力を得て、真相を暴いていくさまが描かれる。
アップリンク吉祥寺にて、単独でのトークイベントに出席した黒沢は「公開2週間経っても多くの人に観ていただいてうれしい。復讐をやり通す人のさわやかさがちらっと感じ取れる作品になったらいいなと作りました。どうかよろしくお願いいたします」と挨拶。MCから、フランスで撮影した経緯について問われると「フランスの制作会社のプロデューサーから“君のこれまで撮った作品をフランスでリメイクしないか”という誘いがあり、それなら『蛇の道』をやりたいということで実現しました。『ダゲレオタイプの女』でもフランスで映画を撮ることの充実感を味わっていたので、チャンスがあればまたフランスで撮りたいと思っていました」と答える。
また柴咲のキャスティング理由について「これまで一度も仕事をしたことはなかったが、顔つき、目つきが非常に鋭く、哀川翔さんを日本の女優に置き換えたらトップクラスの女優である柴咲さんにダメ元で当たりました」と明かす。さらに「柴咲さんのアクションに不安がありましたが、実際には非常にアクションが得意で、身体能力が高かったことがうれしい誤算でした」と評価した。
続く角川シネマ有楽町でのイベントには、「恐怖の映画史」という黒沢との共著もある映画監督・
また小夜子が自転車で去るシーンで突然日が陰ったことについて篠崎が指摘すると、黒沢は「最初から狙っていたわけではありませんが、その天気になった瞬間に動きました。倉庫で雷が鳴るシーンも雷の音はあとから付けましたが、雨は狙っていませんでした。ただ、結果的に雨以外にはありえないシーンとなりました。撮影時には予定と違うと思いましたが、やってみるとそれが絶対のものになるというのが映画です」と明かした。
最後は「蛇の道」オリジナル版の脚本を手がけた
黒沢が「復讐を手伝う主人公が秀逸」と述べると、高橋は「自分の子供が殺されたら、自分で復讐する。その過程では冤罪の可能性など考えず、自分の手で始末する。そういうことを友人の篠崎誠監督と以前話していてこの物語が生まれたんでしょうね」と当時を述懐。続けて黒沢は「ターゲットがこの人でいいのかわからない中で、次々と怪しい人が出てくるのが大きな構造になっている。“復讐もの”と同時に“監禁拷問もの”でもある。冤罪の可能性を意に介さない主人公が、犯人と思われる人物たちを監禁して拷問する。『こいつらに何してもいいよね』というのをやってみたかった。映画を観ている人も復讐に加担しているという構造」と話した。
さらに黒沢は「オリジナルはヤクザが追いかけてくる。リメイクの際、フランスではマフィアを出したかったが、フランス人が想像するマフィアをひねるのは相当難しいと思いやめた。見た目が悪そうに見えない人にした。ヨーロッパは移民の問題が入ってくるため、日本人の我々が描くには難しい。こちらからしたら相手は悪だが向こうからしたら善。突き詰めると善VS善になってしまう。集団の悪を描くのは難しい」と振り返った。
また黒沢が「(オリジナルには)主人公の日常的な風景がほぼない。どんな家に住んでどんな生活をしているのか、どこまで描くのが正解なのか?」と問うと、高橋は「哀川さんの場合、日本映画によく見られるような男所帯しか思い浮かばない。女性が主人公の場合、プライベート空間を出す意味がある」と、小夜子の描き方についても言及。最後に黒沢は「この企画は立ち上がったときは不安だったが、やってみたら映画は国境を超えると思えました」と手応えをのぞかせた。
「蛇の道」は全国で上映中。
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「復讐をやり通す人のさわやかさがちらっと感じ取れる作品になったらいいなと作りました」
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