能狂言「日出処の天子」錚々たる顔ぶれで初舞台化、山岸凉子「作者冥利につきます」

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山岸凉子原作による「-能狂言- 『日出処の天子』」の製作発表記者会見が、本日4月9日に東京・ホテルニューオータニ東京で行われ、山岸、演出と厩戸王子役を担当する野村萬斎、監修と穴穂部間人媛役を担当する大槻文藏、刀自古郎女役の大槻裕一が登壇した。

左から大槻裕一、野村萬斎、大槻文藏、山岸凉子

左から大槻裕一、野村萬斎、大槻文藏、山岸凉子

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山岸凉子、初の能狂言化で「正直舞い上がってしまいました」

山岸凉子

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8月7日から10日まで、東京・観世能楽堂GINZASIXで行われる「-能狂言- 『日出処の天子』」。能狂言化の話が来たとき、山岸は「サブカルチャーであるマンガを、日本の最も古い伝統芸能である能狂言で舞台化したいというお話が来たときはとても驚きました」と話す。「しかも、常日頃からすごいなと思っていた野村萬斎さんだったものですからさらにびっくりしてしまって。そして、能の重鎮である文藏先生とその芸を継ごうという裕一さんが演じられるということで、正直舞い上がってしまいました」と心の内を語った。そして「作品を好意的に解釈していただけて感謝しております。野村萬斎先生のまな板の上の鯉ですので、裕一さんや文藏さんという切れ味のいい刃物で美味しく料理してもらえたら」と感謝と期待の言葉を添えた。

能狂言についてどのようなイメージを持っていたか問われると、「初めて能を観に行ったときは、気がついたらシテの方が舞台に立っていらして。それを見たとき、“すごみのある美”を初めて感じたんです。演者の方はほとんど動かれず、美しいんだけれどどこか悲しい。正直言葉とか全然聞き取れず、内容もわからなかったのですが、とにかくそのすごさに圧倒されて時間は終わりました」と思い返す。また狂言については「狂言はその逆とはいいませんが、能がピンと張り詰めた糸のようなものなら、狂言はそれを和らげさせ、笑わせてくる。古典なのにエンタテインメントなんです。限られた空間のなかでこれだけのことをやるのかというところで、能狂言は世界に誇る芸術だと思います」と説明した。

連載当時は編集部との衝突も、抱えていた思いは

「日出処の天子 完全版」1巻

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「日出処の天子」は自身にとってどういう存在かと聞かれた山岸は、連載時のエピソードを振り返る。「(「日出処の天子」は)同性愛を描いていることもあったので、それを少女マンガで連載するのはいかがなものか、と編集部と相当揉めました」と告白。当時は同性愛という言葉を使うのも憚られていたという背景がある中で連載を続けてきた山岸だが、「私としては相手が同性、異性であろうと、愛することの尊さは誰にも憚られることなく描くべきと思っていました」と胸の内を明かした。そして「あの頃がマンガ家として最も熱がありました」と話し、「40数年経っても舞台化の話を持ってきていただけるので、私のなかで大事なものだったんだなと」と思い返した。

初の舞台化となった「-能狂言- 『日出処の天子』」。許可を出した理由として「素晴らしいと思えたらいつでも舞台化には臨みたいと思っていたので、今回のお話は飛びつくような思いでした」と明かす。どのような気持ちで初舞台化を迎えるのか問われると、「2次元では空間を越えられるけど、舞台は3次元なので、限られた空間になります。それがどのように表現されるのか楽しみにしております」と期待していた。

野村萬斎「『日出処の天子』は能狂言を持って所を得た、と思ってもらえるように」

野村萬斎

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野村が「日出処の天子」と出会ったのは学生時代、2人の姉の影響で読み始めたと言う。「ショッキングな感情も持ちつつ、非常に引き込まれたのを覚えています。お札にもなっている、どちらかというと善なる人というイメージの聖徳太子が、読んでいくうちに『あれ、なんかそうでもないな』と(笑)」と感想を語る。能狂言化では「どこを象徴化するか」が課題だと説明し、「(「日出処の天子」をそのまま)能にするとかなりの情報量。各キャラクターで能ができてしまうほどです。また活劇というよりは宇宙観も伴った哲学も含んだ作品になっておりますので、そういう作りになるかと」と語った。そういった“象徴性を含めたシーン”によって、理屈で追えない何かが繋がったり飛び越えられたりすると話し、「おこがましいですが『日出処の天子』は能狂言を持って所を得た、と山岸先生にも思っていただけるようになったらいいなと思っております」と意気込んだ。

自身が演じる厩戸皇子役にシンパシーを感じるかと問われた野村は、「厩戸の、人なんだけど人と同じでない部分に、恐れ多いですがシンパシーがあるかなと思います。よく人から人外と言われるので(笑)。幼い頃から体幹が強く、それゆえ思春期の頃は人と違うことに悩むこともありました」と述べた。厩戸皇子役を野村が演じることは、山岸も「萬斎さんがやってくれないかなとずっと思っていました」と明かし、「(厩戸皇子は)少年の役ではありますが、超能力者であり、内面にも複雑な物を持っている役柄です。引き受けてくださるというのを聞いて、作者冥利につきております」と述懐。山岸からの期待に対して野村は「厩戸像を壊さずに演じきるのが今回の最大の難所です、ご期待に応えられればと」と応えた。

ポスタービジュアルのキャッチコピーに込めた思い

「-能 狂言- 『日出処の天子』」ポスタービジュアル (c)山岸凉子/OFFICE OHTSUKI

「-能 狂言- 『日出処の天子』」ポスタービジュアル (c)山岸凉子/OFFICE OHTSUKI[拡大]

またポスタービジュアルのキャッチコピー「胞と宙 愛しき想いをいづくに放つぞ」は野村が考案した。「人間という宇宙と、人間を取り巻く大宇宙に非常に関心がありました。厩戸は人間の超能力と、宇宙の神秘、その両方に繋がっているキャラクターです。しかし自分を制御できるほどの才能がありながら、自分というものが分からない宇宙の摩訶不思議に苦労する。そして自分というものの存在意義を示す、または残すことを含めたときに放つ自己発散や、彼が誰の子なのかといった子宮回帰的なことも含めた宇宙観。まさしくポスタービジュアルも宇宙と直結している感じがしたので、胞という字は読みにくいかもしれないですが、あえて韻を踏む形でくくらせていただきました」と解説する。これを見て、山岸は「胞という字を見たときに、孕むという意味を感じ取りまして、つまりこれはインナースペースだなと。ミクロとマクロのコスモスを、韻を踏んで出されているのでさすがだなと感銘を受けました」と述べた。

大槻文藏、原作を読み「一言で言うと『驚き』です」

大槻文藏

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これまで能の新作や復曲を数多く手がけてきた大槻文藏。今回の能狂言化にあたって、「これまで手がけてきた作品で、聖徳太子が出てくるものが3曲もある。今回もご縁を感じており、大変ありがたいお話だと思っています」と感謝をあらわにする。また原作を読んで「一言で言うと『驚き』です」と語り、「太子がここまでいろいろなものを人々に考えさせられることができる人物であるということを、キレイに作り上げていらっしゃる。一夜とまでは言わないですが、続々と読ませていただきました」と熱中して読んだことを明かす。そして「あの絵があるからこそストーリーが膨らんできて、想像以上のものを目にすることができる」と絶賛した。

またマンガ原作の能狂言化の難しい部分として、「能は1人の主人公の思いを、1人の相手が聞くというのが基本のあり方であります。どう展開することで皆の思いを集約できるのか。いままでの能狂言より複雑な形になっています」と述懐。「そのまま舞台化すると7~8時間くらいかかる」としたうえで「舞台として何を出していかないといけないか、よくよく考えて、作り上げていきたいと思っております」と意気込みを語った。

大槻裕一「能の魅力である静と動が、原作にも通じている」

大槻裕一

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刀自古役の大槻裕一は「刀自古という役として舞台に立たせていただける喜びを強く噛み締めて務めたいと思っております」と決意表明。「反響もたくさん頂戴して、(作品が)たくさんの人に愛されていることを強く感じております」と述べる。また刀自古役を演じるにあたってはその“2面性”を表現できたら、と語る。「(刀自古には)お転婆で天真爛漫なイメージがあったんですけれども、お母さんが故郷から帰ってきてからは様子が違ってきます。まったく別人となるその様子は、能で表現することの強みが刀自古にあると感じました」と話した。

また能の魅力である静と動は、原作と重なると述べる。「細かく描写されている絵は美しいですが、一方、背景は無地の部分が多いことが印象的で。細い絵が動、白い背景が静のように、(能と)親和性があるのではないかと感じます」と語った。また好きなシーンとして雨乞いのシーンをチョイス。好きなキャラは「いい人ではないんですけど、人間性があるといいますか、親しみがあるように感じた」というところから、泊瀬部大王の名を挙げた。

「日出処の天子」は1980年から1984年にかけてLaLa(白泉社)で連載された物語。飛鳥時代前夜、権勢を誇る蘇我氏の後継者たる毛人は、父に連れられて出仕した朝廷で厩戸王子と出会う。単行本は全11巻が刊行され、1983年には第7回講談社漫画賞少女部門を受賞した。

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読者の反応

最上和子 @walhallahlaw

うぎゃー、そうですか。わかります、ここに目をつけたのは。でも・・ いや、なんというか・・ うーん。

山岸様の近影、嬉しいです。 https://t.co/PqzKpOzuj8

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