「ガンダム 逆襲のシャア」富野由悠季が若者にエール「命懸けないと宮崎駿は超えられない」

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劇場アニメ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」が、昨日3月16日に新潟・新潟市民プラザで上映された。これは「第2回新潟国際アニメーション映画祭」のイベント上映の1つで、上映前には富野由悠季監督とメカニックデザインで参加した出渕裕によるトークショーが行われた。

左から富野由悠季監督、出渕裕。

左から富野由悠季監督、出渕裕。

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業界60周年を迎えた富野監督。「嫌だなあ(笑)」とこぼしつつ、「逆シャア」が36年前の作品であることに出渕ともに驚きを隠せない様子を見せる。また富野監督の師匠でもある高畑勲監督の作品が今回の映画祭でも上映されることに「一緒に上映されることはうれしいけれど、本当は照れるなっていう感じです」と笑顔で語る。

富野監督とは何年か前の忘年会で会った以来だという出渕は、当時のエピソードを語りだす。「忘年会のとき、『もうガンダムやらないんですか!』って聞いたら『やんないわよ!』と言われて。やるとしたらバイストン・ウェルにジムとザクが落ちちゃえばいいじゃないって言ったら、ありがたいことに思った通り『ばかあー!』ってキックをかましてくれたのは宝物です」と当時を振り返った。

左から吉田尚記アナウンサー、富野由悠季監督、出渕裕。

左から吉田尚記アナウンサー、富野由悠季監督、出渕裕。[拡大]

今回の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」が長編アニメーションを中心にしたものであることから、長編アニメにどういう印象を持っているかと聞かれた2人。富野監督は「仕事柄、スポンサーの言うことをすべて聞くで有名な監督です」と冗談めかしつつ、これまでシリーズものをメインに携わってきたことから、実際のところ長編アニメについては詳しくないというのが本音だと明かし、話題は短編アニメにシフトする。富野監督は、短編アニメで未だに覚えている作品として手塚治虫の「ジャンピング」を挙げ、「これはジャンプする人の目線で街を巡りいろんな景色が見えてくるというだけの短編アニメですけど、アニメっていうのはそういうものができるということ。そういうものではない限り、好き勝手に作るなというのがアニメです」と語る。「好きに作るなと言うと?」と問われると、「映画とかアニメっていうのは作り手が好きに作っていたらアニメになりません。ただ、説明しようとすると1時間半かかるのでやめます」と自粛していた。

左から富野由悠季監督、出渕裕。

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また富野監督はここ数年のマンガについて「文芸作品を超えるようなものまででき始めている」と評し、「ファンはそういった作品を見てただ喜ぶだけでもいいけど、プロを目指している人たちに言えるのは、かなり広い視野を持たねば突出することなんでできないということです」と話す。そして宮崎駿の「君たちはどう生きるか」がアカデミー賞を受賞したことを例に挙げ、「ハッピーエンドではない、とんでもないアニメがアメリカの映画界に『こんなめんどくさいアニメーションが生まれてしまった』と影響を与え、受賞までしてしまったんです。なのでアニメやマンガの仕事をやりたいと思っているお前ら若者たち、なめてもらっちゃ困るよ。命懸けないと宮崎駿を超えられなくなるんだよ」と若者に活を入れる場面も見られた。

これまでさまざまな人と仕事をしてきた中で気づいたことについて話し始める富野監督。「いろんな人と仕事をしてきたけど、1つのことしかできない人の方が多いんです。名前を挙げていいとすると永野護。あれ(メカ)しか描けない」と話すと会場からは拍手が湧くも、すかさず出渕が「そこ拍手するところじゃないからね(笑)」とツッコんでいた。すると富野監督が「そこで拍手するってことはお前らさ、永野護のことが好きなんだろ! だからダメなんだよ!」と冗談交じりに観客に語りかける。そして「だけどまさに、一芸に秀でるというのはああいうことで。潰しがきくようなやつは一丁前にはならないね」と述べると、出渕が「俺じゃん!」と反応し爆笑をさらっていた。そして富野監督は出渕を「器用で便利な人」だと言い表し、「デザイナーとしてこんなに便利な人はいないと思っていて、それは現在までまったく変わっていません」と明かした。

富野由悠季監督に抱きつく出渕裕。

富野由悠季監督に抱きつく出渕裕。[拡大]

「逆襲のシャア」はガンダムシリーズで初めての劇場オリジナル作品。出渕は「逆シャア」のことを「シャアをディスカバリー、再構築した作品」だと評し、「クワトロ・バジーナって人いたじゃないですか。でもあれは富野さんにとっては失敗作だと思っていて。基本的にクワトロ大尉をいい人にしちゃったじゃないですか」と持論を話す。次いで「反発する方もいるかもしれないけれど、シャアってあいつ、サイコパスなんですよ」「サイコパスの症例と全部当てはまる」「シャアって女性に対しても部下に対しても嘘ばっかりつく」と矢継ぎ早に語ると、富野監督は大爆笑していた。

さらに出渕は富野監督による編集のよさについても言及。「キャラがしゃべっている途中で、次にセリフがあるんだろうなという頭を残すという、その不思議なリズムがいい」と熱弁する。被せるように富野監督が「それに関して言うと、クソミソに『富野下手だよね』って言ってくる、庵野ってやつがいた!!」と大きな声で言うと観客、出渕ともに爆笑。出渕も最初に「逆シャア」を観たときは違和感があったが、見返したらしっかり面白さを感じたと話し、「(富野監督の編集は)1回目じゃわかんないことがたくさんあって、親切設計にしていないんですよ。説明もダイアローグにすべて落としこんでいるし」と語ると、富野監督は感心した様子を見せていた。富野監督も長編アニメーションのよさはここにつながると語り出し、「リズム感で物語を語れるのが(長編アニメーションの)素晴らしいところで。『逆シャア』はその意味でがんばっているんじゃないかな」と述懐していた。

終始にぎやかな雰囲気で行われたトークショーも終盤に差し掛かり、最後にマスコミだけでなく観客も撮影可能なフォトセッションが行われ、締めの挨拶へと向かう。数年前に脊柱管狭窄症を患った富野監督は「(脊柱管狭窄症で)一歩も歩けなくなりましたが、気分をくさくさとさせないように意識を持てば、65歳以降になっても仕事はできるんです」と語る。そして業界を目指す若者に向けて、「宮崎をつぶすぞ!と思うくらいの気持ちでがんばってください! ここにいるお子さんをお持ちのお父さん、お母さんは、お子たちに今言ったようなことを教えていただきたい。つまり、宮崎アニメがあったおかげで映画界自体も変わってくるぞと。そのための勉強っていうのはただ昔の作品だけを追いかけているだけではいけないんだよということです」と語りかけ、イベントは熱気を帯びたまま閉幕した。

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