「サイレントノイズ」1巻

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「サイレントノイズ」BL初心者は聞き慣れない“ガイドバース”設定とは?複雑そうな世界観も、いちかわ壱が2つの要素で優しく導く

PRいちかわ壱「サイレントノイズ」

「俺は尊の犬なので」──優秀な能力者家系ながら唯一能力を持たない百目鬼家の末っ子・尊。そんな尊に護衛として長年仕えているのは、イケメンで優れた五感覚醒能力者である暁臣だ。片時も離れないほど過保護かつ粘着質で、その溺愛っぷりは尊が高校進学後も健在。目立つ存在である暁臣にクラスメイトたちが騒ぎ立てる中、能力を持たないはずの尊が能力者クラスに在籍していることへ不安を持つ生徒も現れ始める。新しいバース設定“ガイドバース”が描かれた、主従関係ボーイズラブだ。MAGAZINE BE×BOY(リブレ)で隔月連載されている。

/ 阿部裕華

「サイレントノイズ」1巻
「サイレントノイズ」1巻
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BL好きの体に馴染む王道なストーリーライン

オメガバースをはじめ、Dom/Subユニバース、ケーキバースなど、BL作品には“〇〇バース”と呼ばれる数多くの特殊設定が存在する。「サイレントノイズ」で描かれるのは、まだ聞き馴染みのない人も多いであろうバース設定“ガイドバース”だ。ガイドバースとは、海外ドラマ発祥のセンチネルバースという特殊設定をもとにしたもの。その世界観には、聴覚・視覚・嗅覚・触覚・味覚の一部が非常に発達している能力者を“センサー”、特殊な共感能力と読心能力を持ちセンサーの能力制限やメンタルケアができる“ガイド”、何の能力を持たない一般人“ミュート”が存在する。本作では、そのガイドバースに作者のいちかわ壱による独自解釈・設定が加えられている。

本作に登場する主人公・尊は能力を持たないミュート。一方、尊に護衛として仕える暁臣は、すべての五感が発達しているセンサーである。最初にガイドバースの設定を見たときは、少々難しそうな印象を受けたが、実際は「平凡(一族的には非凡ではあるが……)な主人公が、優秀なイケメンに溺愛される」「末っ子のお坊ちゃんが年上幼なじみに守られる」というBL好きなら三度の飯より好きであろう王道なストーリーラインと言える。

尊の高校入学初日。朝のホームルームに顔を出し、放課後も迎えに来ると約束する暁臣。

尊の高校入学初日。朝のホームルームに顔を出し、放課後も迎えに来ると約束する暁臣。

BL好きは王道設定が大好きだ。かなり早い段階で物語が体にスッと馴染んでいくため、本作の冒頭に書かれている“センサー”“ガイド”“ミュート”の説明さえ覚えておくことができれば、そこまで難しく考えずともガイドバースの世界へ入り込める感覚があった。

それはおそらく、本作を手がけるいちかわが2024年にアニメ化もされたオメガバースBL「ただいま、おかえり」の作者であることも大きいだろう。オメガバースもかなり複雑なバース設定が詰め込まれた世界観であるが、「ただいま、おかえり」でも読者を置いてけぼりにしないわかりやすさが徹底されている。数あるオメガバース作品がある中、初オメガバース作品のアニメ化に「ただいま、おかえり」が抜擢されるのも頷けるほどだ。

ガイドバースの解像度が高まる個性豊かなキャラたち

BLには攻めと受け、2人だけの世界が描かれる“箱庭系”の作品も多く存在するが、いちかわの作品にはメインキャラクター以外にもスピンオフ作品が数本作れてしまいそうなほどの個性豊かなキャラクターたちが登場する。彼らの存在によって、バースの世界観へ深く入り込める感覚があるのだ。

というのも、そもそも尊はミュートであるため、メインキャラの2人だけではセンサーとガイドがどのような関係性であるのかがあまり見えてこない。この関係性を説明するうえで大きな役割を果たしてくれるのが、尊のクラスメイトである聴覚が優れたセンサーの逢坂とガイドの立花だ。

第3話で描かれる尊の高校の新入生オリエンテーション合宿で、逢坂が能力を制御できなくなった際、立花がガイディングをし、力を制御する。この2人の存在で、センサーとガイドの関係性の解像度がグッと上がる。

第3話より。逢坂が“ゾーンアウト”と呼ばれる危険な状態に陥りかけているところを立花が救う。

第3話より。逢坂が“ゾーンアウト”と呼ばれる危険な状態に陥りかけているところを立花が救う。

一時的にパートナーとなった逢坂と立花に対し、尊の兄・司(センサー)とその秘書の天宮(ガイド)は常日頃行動をともにしている専属のパートナー。特別なつながりを持つ“ボンド”なのかはまだ明かされていないが、彼らの間にはかなり強固な関係性が感じられる。

尊と暁臣の恋愛にヤキモキしながら読み進めているだけなのに、脇を固めるキャラクターたちのおかげで、気づいたときにはガイドバースの理解が深まっている。王道なストーリーラインと個性豊かな脇キャラクターのおかげで、ガイドバース初心者でもあっという間に「サイレントノイズ」の世界の住人へとご招待されてしまった。

そして一読者としては、ミュートの尊とセンサー暁臣の付き合っていないながらも、あまりにも近すぎる距離感に戸惑いと尊さを感じる。「ド執着攻め主従学園ガイドバース」というキャッチの説得力があり過ぎるわけだが、一方でなぜこれほどまで強固な関係性として描かれているのか、疑問を抱く。

優れた五感を使っていつも尊のことを守っている暁臣。しかし、1つだけ尊に対して使ったことのない感覚があり……。

優れた五感を使っていつも尊のことを守っている暁臣。しかし、1つだけ尊に対して使ったことのない感覚があり……。

そんな疑問を抱く中、1巻のラストでは能力を酷使しすぎて生命の危機に瀕した暁臣を救う尊が描かれた。尊は本当にミュートなのか、なぜ暁臣は尊へ異常なまでに執着しているのか。その謎が明かされぬまま終わってしまった1巻……。2巻の発売を今か今かと待ち詫びている読者はきっと私だけではないはずだ。「サイレントノイズ」を通して、ガイドバースの世界へ積極的に足を踏み入れていきたいと思う。

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「サイレントノイズ」第1話を試し読み!
©Ichi Ichikawa/libre

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