このマンガ、もう読んだ?
「ヴィジランテム」毎話驚きの連続。愛する娘のため、62歳の父はいかに悪に立ち向かうのか?
2024年11月28日 18:15 PR新海つかさ「ヴィジランテム」
大学で物理化学を教えている62歳の田川一男は、妻を早くに亡くし、芸大生の一人娘・桃と2人で暮らしている。世の中の悪行に目を背けながらも、娘と2人で穏やかな日々を送っていたある日、警察からの1本の電話をきっかけに、一男の日常は揺るぎ始める。新鋭がビッグコミック(小学館)で執筆している、正義と悪を問うクライムサスペンスだ。
文
とにかく毎話、初見の驚きを噛み締めてほしい
「この作品の面白さを伝えるためには、どこまでタネ明かしをするのが適切なのか?」
単行本1巻分にあたるエピソードを読み終え、いざ本稿に着手するにあたり、筆者は大いに悩んだ。
本作では1話ごとに新たな事実が明かされ、その驚きによってもたらされるカタルシスが大きな魅力。そう感じ、未来の読者諸兄の初見の楽しみを奪ってしまってはならないと思ったからだ。
そんな責任重大な思いを抱えつつ、「ヴィジランテム」のあらすじを紹介していこう。主人公の物理化学教授・田川一男は、早くに妻を亡くし、芸大生の娘・桃を男手ひとつで育ててきた。街中での暴力や電車内での痴漢……日常にあふれる人々の悪行から目を背けてしまうことに、一男は罪悪感を抱いている。
そんなある日、警察からの1本の電話によって、一男の日常は一変する。桃が鮫島という男から30分間にわたる暴行を受け、生死の間をさまようほどの大怪我を負ったのだ。愛する娘の変わり果てた姿に、一男は「犯人を捕まえて償わせる」「この世界の悪を正したい」と決意して……。
「ヴィジランテム」とはスペイン語の「vigilante」から派生した言葉で、ラテン語で「見張り人」を意味する。還暦を過ぎた一男は、気づくと涙を流していることもしばしばで、正直頼りない印象を受ける。人を殴ることなど到底できなさそうな初老の彼が、どうやって“見張り人”となり、悪に立ち向かっていくのか。誰もがそう思うだろう。しかし一筋縄ではいかない人物が次々に現れ、彼の世界を広げていく。
元捜査一課の刑事であり、もう1人の“カズオ”こと五十嵐和夫は、ガラは悪いが一男に何度も助け舟を出し、ピンクの耳付き帽子を被った桃の友人・杏は、天才的なハッキングセンスで活躍する。
そして一男自身も負けてはいない。物理化学の知識を駆使して、独自の配合で生み出した癇癪玉などで窮地をくぐり抜けていく展開は、「人間長く生きていると、あらゆる経験が生きるんだな……」と、中年の1人として謎の角度からしみじみ噛み締めた。
一見仲が良い家族でも、お互いのすべてを知っているわけではない
作者の
筆者が魅力的だと感じたのは、キャラクター造形の深さだ。例えば第1話冒頭の、一男と桃の朝の何気ない会話。強迫神経症を持ち、物の位置が乱れていると気になって仕方がない一男や、タバコをふかし自由奔放に見えるが父と仲がよい桃の人間性が、6ページの描写だけで見事に立ち上ってくる。
またハラハラとさせられる先の読めないサスペンス展開はもちろん、家族愛、そして一男の成長劇も「ヴィジランテム」の魅力。2話では娘の部屋を捜索した一男が、本棚から発見された大麻とナイフに衝撃を受ける。「娘のことならよく知っている」と思っていたが、自分が知らない娘の一面があるのかもしれない……。筆者も思春期に入った我が子を子育て中なので、とても他人事とは思えず、「ウッ」と唸った。家族だからといって、お互いのことをすべて知っているわけではない。そんな現実に少し寂しさを覚えながらも、一男が見せる娘へのまっすぐで深い愛情には、胸を熱くさせられる。
1巻は、一男がある人物から「この腐り切った世界を正しませんか?」と、ある組織へ誘われるところで幕が下りる。第1話の扉絵には、東京スカイツリーの横で火が上がるさまを、遠くの高台から一男、杏、五十嵐と思しき人物と謎の大きな背中が見下ろす姿が描かれていた。これは一男がすでに、組織へ入ってからの出来事なのだろうか。ページをめくる手が止まらず一気に1冊分を読み切ってしまったが、1巻で描かれた内容はおそらくこの物語の序章に過ぎず、2巻から本格的に“自警団サスペンス”が展開されていくのだろう。
果たして一男はどこまで正義を突き詰められるのか。娘を守り切ることができるのか。平凡な男による決死の戦いの行方を、ぜひ見届けてほしい。
「ヴィジランテム」第1話を試し読み!