イノセンスをはぎ取って現代の物語に|岡田利規と岡本優が描くオペラ「夕鶴」、小林沙羅&与儀巧が新たなつう&与ひょう像語る

小林沙羅与儀巧が語る新たなつうと与ひょう像
小林沙羅

小林沙羅

まっさらな状態にして、新たにつうを作り上げたい

──現段階で、つうをどんなキャラクターの人物だと捉えていますか?

つうは以前からずっと演じたいと思っていた役なので、私の中にキャラクターのイメージはもちろんありました。でも今回の演出では私自身がつうをどのようなキャラクターだと考えるかということは、あまり重要ではないのだろうと思っています。演出の岡田さんが作品を通して伝えたいことが明確にあるので、まずはそれを表現するために存在している“役”としてのつうというアプローチからキャラクターを捉えていくことが大切だな、と。一度解釈をまっさらな状態にして、そこから稽古やワークショップを通して、つうのイメージとキャラクターを作り上げていきたいと思っています。どんなつうになるのか、私自身とても楽しみです。

──演出の岡田さんについて、印象的だったことはありますか?

立ち稽古はこれからですが、これまでにワークショップを8日間やりました。岡田さん、ドラマトゥルク、キャスト、時には指揮者も加わって、とにかく話し合う。実際に立って歌ったり演技をしたりした時間の何倍も、話し合う時間のほうが長かったです。こんなに会話を通して舞台を作っていくタイプの演出家はこれまでのオペラの現場ではいなかったので、とても新鮮でびっくりしました!

──来場されるお客様に、本作のどんなところに注目してほしいですか?

今回の公演に向けて、岡田さんが「『夕鶴』は他人事ではありません。与ひょうはあなただからです」というコメントをしていますが、おとぎ話で知っている「夕鶴」やこれまでのオペラで見慣れた「夕鶴」とは違った視点から作られた、新しい「夕鶴」をお楽しみいただけましたらうれしいです。合唱の子供たちにもご注目ください。そして何より、團伊玖磨さんの作曲されたオペラ「夕鶴」の音楽の美しさをご堪能ください。

小林沙羅(コバヤシサラ)
東京藝術大学卒業、同大学院修士課程終了。2006年に「バスティアンとバスティエンヌ」バスティエンヌ役でデビュー。2010年から2015年にウィーンとローマにて研鑽を積む。2015・2020年に、野田秀樹演出×井上道義指揮のオペラ「フィガロの結婚」でスザ女(スザンナ)役を務め、2017年には「カルメン」ミカエラ役で藤原歌劇団に初出演。2012年に欧州デビュー以降、海外へも活動の場を広げている。5歳からクラシックバレエ、10歳から日本舞踊を学んでいる。また自身のYouTubeチャンネルで配信を行っている。2019年に3枚目のアルバム「日本の詩」をリリース。2017年第27回出光音楽賞、2019年第20回ホテルオークラ賞受賞。大阪芸術大学准教授。
与儀巧

与儀巧

これまでの「夕鶴」像を打ち破る公演に

──現段階で、与ひょうをどんなキャラクターの人物だと捉えていますか?

素朴で純情。裏表なく直情的な人物で、それゆえ、周りに流されるため、往々にして身近な人を傷つけてしまう一面もあると思います。

──演出の岡田さんについて、印象的だったことはありますか?

毎回、驚きや発見の連続です。初めてのワークショップで「想像が体を動かす。与えられたトラックを歩く……」 オペラしか知らない私は、ほとんどチンプンカンプンでした(笑)。しかし、岡田さんのご指導や提案に導かれ、回を重ねるごとに光の筋が見えてきたような気がしております。

──来場されるお客様に、本作のどんなところに注目してほしいですか?

これまでの「夕鶴」像を、良い意味で打ち破る公演になると思います。それぞれの役が、さまざまな方法でアプローチします。音楽としてはもちろんですが、劇作品としても新たな「夕鶴」をお楽しみいただけましたら幸いです。

与儀巧(ヨギタクミ)
沖縄県出身。国立音楽大学音楽学部声楽学科卒業、同大学院修了。近年の出演作に、東京二期会「オテロ」(白井晃演出)、「サロメ」(コンビチュニー演出)、二期会創立60周年記念「パリアッチ」(田尾下哲演出)、ネオ・オペラ「マダムバタフライX」(宮本亜門演出)ピンカートン役、プッチーニ / 歌劇「トスカ」(河瀬直美演出)スポレッタ役、新国立劇場 2016 / 2017シーズン オペラ「オテロ」カッシオ役など。2014年、<アン・デア・ウィーン劇場との共同制作>東京二期会オペラ劇場「イドメネオ」ではタイトルロールを演じた。