やっぱりロングランは怖かった
“回る劇場”には興味があって、「面白そうだな、やってみたい」と思っていたんです。ただオファーがあった当初は「4年やってほしい」と言われて、それは無理だろうと。そのあととりあえず2年ということになって、そこからいろいろとアイデアを絞っていきました。でもやっぱりロングランは、なかなかビビるものがありましたね(笑)。これまで、長くやるといっても東京で1カ月くらい、地方公演も含めて2、3カ月で公演が終わる感覚だったので、1カ所で1年半以上もロングランするのはやっぱり怖かった。でもおかげさまで「花」「鳥」「風」「月」「極」と満席で、本当によかったと思います。
あの劇場でやるには「髑髏城の七人」しかない
「髑髏城の七人」は、1990年の初演以来、97年の再演、2004年の「アカドクロ」「アオドクロ」、そして11年の「ワカドクロ」と7年ごとにいろいろなパターンをやっていて、それぞれ役者や劇場が変わるごとに演出も変わってきました。それでも話が揺るがないのは作品の根本がしっかりしてるからだし、枝葉末節の部分でもいろいろとアレンジが利くので、IHIステージアラウンド東京でやるには「髑髏城」しかないなと思っていました。実際、基本的に同じ話なのにこれほど展開できたのは、やっぱり「髑髏城の七人」がなかなかのコンテンツだったってことだと思います。演出家としては、「花」「鳥」「風」「月」、そして「極」と短いスパンで、ちょっとずつ作品を変えていけたのは楽しかったですね。この劇場はセットを変えるのも大変なんですが、実際にやってみて「こうすればよかった、ああすればよかった」と思ったことが回を追うごとにマイナーチェンジしていけて、それは成功だったなと思います。
稽古は想像力を駆使し、手探りで
稽古はもちろん普通の稽古場でやっていました(笑)。だからセットの移動やだだっ広い荒野のシーンも、想像力を駆使して稽古して。その点では最初の「花」が一番大変で、小栗旬くんをはじめ、出演者たちにはいろいろご迷惑をかけたなと思います。例えば舞台の上手から登場するか下手から登場するかを変更したときに、IHIステージアラウンド東京では構造的に、俳優が裏で無駄に遠回りしなきゃいけなかったりする。その導線をもちろん考えてなかったわけじゃないけど、「いけるだろう」と思っていたのが、85ステージもあるとやっぱり体力を奪う原因になっていたりして。その反省から、「鳥」「風」「月」と進むごとに動きの無駄をなくしていけるようになったとは思います。だから本当に「花」の出演者のみんなにはがんばってもらいました。ありがとうございました、という感じですね。
映像に関しては、上田大樹くんの力が大きいと思います。劇場に入るまでに半分くらいはできていたのですが、上田くんも僕らも実際に劇場でどう見えるのか、やってみないとわからなかった。もちろんこの劇場の元になったオランダの360°回転劇場は観てるんですけど、それとは全然劇場の使い方が違うので、「花」が開いてようやくわかることがあった。オープニングで、タイトルがバーンと映し出されて、旬くんが無界屋に向かって歩き始め、映像と演技が同時に展開し、無界屋の光景がバーンと広がっていくシーンがあったんですけど、最初に観たときはアトラクション感があったと言うか、「こういうふうになるんだ」ってけっこう感動しましたよ。
基本の「花」、変化球の「鳥」
シーズンごとの魅力としては、「花」では、この劇場における「髑髏城」の基本みたいなものを作りたかった。11年に旬くんが捨之介をやっているんですが、“平成の”と言うか、「今の時代の新しい捨之介の定番は、旬でいきたい」という思いがありました。実際、11年に比べてすごくたくましくなっていてよかったと思いますね。またほかにも山本耕史くんや成河くんなど、時代劇に精通していたり、一緒にやってみたかったキャストがそろったので、そこは成功だったと思います。
「鳥」は、その“正統派”だった「花」を全部ひっくり返すような感じで、歌って踊って変化球でいこうと。阿部(サダヲ)ちゃんが捨之介をやると決まったとき、中島(かずき)くんから「捨之介をテロリストとして描く」という話もあり、定番の捨之介とはまったく違う捨之介になりそうだなと思ってはいました。また(森山)未來が天魔王役だったので、天魔王が蘭兵衛を口説くシーンは、若干ミュージカルっぽくやってみようというアイデアもあり、立ち回りと歌と踊りがコラボレートする、ショーアップしたものにしてみたいなと。さらに(池田)成志とか、笑いが取れる人もいたので、ネタものっぽい「髑髏城」になって、「花」とはまったく違うものになったのは面白かったと思いますね。
こんな企画、なかなかない!
「髑髏城」は、何者でもない人たちが巨悪に向かって団結して戦うという、根本的に日本人が好きな話がベースにあり、そこに蘭兵衛や極楽太夫、敵対する天魔王といったそれぞれのバックボーンを抱えたキャラクターが集まって来る。ただの悪役じゃないし、単なるいい人でもない、そういった人物たちが歴史の狭間で右往左往する様が描かれているのが人気の理由だと思いますね。お客さんもあれこれ想像できるのか、各キャラクターにファンが付いていたりもして(笑)、ただの勧善懲悪のチャンバラではないところがいいんだと思います。「髑髏城の七人」のように、同じ話をいろいろな俳優が演じて、いろいろな演出で観られることってなかなかないと思いますし、それが連続放送される企画も珍しいので、ぜひ見逃さずに楽しんでください!
WOWOW「12カ月連続放送!劇団☆新感線『花鳥風月極&名作選』」
- WOWOWライブ「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season鳥」
2018年9月29日(土)19:45~23:00 -
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:阿部サダヲ、森山未來、早乙女太一 / 松雪泰子 / 粟根まこと、福田転球、少路勇介、清水葉月 / 梶原善 / 池田成志 ほか
- 劇団☆新感線『髑髏城の七人』 Season鳥劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season鳥|WOWOWオンライン
- ステージ(舞台) | WOWOWオンライン
- WOWOWステージ (@wowow_stage) | Twitter
- WOWOW「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season風」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:松山ケンイチ、向井理、田中麗奈 / 橋本じゅん、山内圭哉、岸井ゆきの / 生瀬勝久 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月“上弦の月”」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:福士蒼汰、早乙女太一、三浦翔平、須賀健太、平間壮一 / 高田聖子 / 渡辺いっけい ほか
- WOWOW「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月“下弦の月”」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:宮野真守、鈴木拡樹、廣瀬智紀、木村了、松岡広大 / 羽野晶紀 / 千葉哲也 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:天海祐希 / 福士誠治、竜星涼、清水くるみ / 三宅弘城、山本亨、梶原善 / 古田新太 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線 ゲキ×シネ『阿修羅城の瞳2003』」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:市川染五郎(現:松本幸四郎)、天海祐希、夏木マリ、伊原剛志 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線 ゲキ×シネ『蜉蝣峠』」
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作:宮藤官九郎
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太、堤真一、高岡早紀、勝地涼、木村了、梶原善 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線 ゲキ×シネ『蛮幽鬼』」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:上川隆也、稲森いずみ、早乙女太一、堺雅人 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線 ゲキ×シネ『シレンとラギ』」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:藤原竜也、永作博美、高橋克実、三宅弘城、北村有起哉、石橋杏奈、古田新太 ほか
- WOWOW「劇団☆新感線 ゲキ×シネ『蒼の乱』」
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作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:天海祐希、松山ケンイチ、早乙女太一、平幹二朗 ほか
- いのうえひでのり
- 1960年福岡県出身。80年に劇団☆新感線を旗揚げ。以降、ドラマ性に富んだ外連味たっぷりの時代劇“いのうえ歌舞伎”、生バンドが舞台上で演奏する音楽を前面に出した“Rシリーズ”、いのうえ自身が作・演出を手がける笑いをふんだんに盛り込んだ“ネタもの”など、エンターテインメント性に富んだ多彩な作品群で人気を博す。劇団本公演以外では、シス・カンパニー公演「今ひとたびの修羅」「近松心中物語」、PARCO THE GLOBE TOKYO PRESENT「鉈切り丸」、大人計画との合同公演・大人の新感線「ラストフラワーズ」、歌舞伎NEXT「阿弖流為<アテルイ>」などのプロデュース作品も手がける。第14回日本演劇協会賞、第9回千田是也賞、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第50回紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞歴多数。2018年7月から12月まで東京・IHIステージアラウンド東京にて、演出作「新感線☆RS『メタルマクベス』」が上演されているほか、19年には劇団☆新感線「39(サンキュー)興行」で演出を務める。