最終回はあの伝説的キャスティングで、岩井秀人×ユースケ・サンタマリア×松本穂香×橋本さとしの「WOW!いきなり本読み」#4 収録現場レポート

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「WOW!いきなり本読み!」とは何だったか?

左から岩井秀人、橋本さとし、松本穂香、ユースケ・サンタマリア。

「いきなり本読み!」は、岩井秀人が企画・進行・演出を手がける企画で、2020年2月に東京・浅草フランス座演芸場 東洋館で第1回が行われた(参照:岩井秀人の「いきなり本読み!」、初回は大爆笑で「おとこたち」を“本読み!”)。本企画の誕生は、岩井が俳優として出演したとある舞台の稽古で、「初めての本読みって、圧倒的に発見があるし、クリエイティブだな」と思った(参照:「いきなり本読み!」WARE配信チーム座談会 岩井秀人×平岩享×石橋利真×安達きょう介)ことがきっかけとなっており、俳優や演出家が普段、台本をどのように読み、どのように作品を立ち上げていくかをドキュメンタリータッチで見せる内容となっている。出演する俳優には、作品に関する情報が事前に一切明かされず、俳優は当日その場で、初見の台本を前に物語の展開や登場人物の関係性を想像しながら、即興で作品を立ち上げていく。本読みの途中で配役がガラリと変わることもあり、俳優たちは年齢や性別の壁も超えて、与えられた役にすぐさま徹する。また、演じる人が変わることで、役のキャラクターが大きく変わることも。そのように、台本や演技の奥深さがビビッドに感じられる、演劇の醍醐味が詰まった企画なのだ。

舞台版は昨年2020年中に複数回上演され、12月には東京国際フォーラム ホールCでも開催。その模様は3月にWOWOWで放送され、好評を博した。そして5月、テレビ版の「WOW!いきなり本読み」がスタート。テレビ版は、劇場ではなくロケ収録スタイルで、ショータイムや食事タイムなど、その場にちなんだ“お楽しみ”も用意されたが、それ以外の要素は舞台版そのまま。これまで「いきなり本読み!」を知らなかった人や、劇場に足を運ぶことが難しかった人にも、舞台との新たな出会いのきっかけを提供した。

5月から月1で展開されてきた「WOW!いきなり本読み」には、バラエティに富んだ4組が登場した。初回の#1には水川あさみ、上白石萌歌、皆川猿時が出演し、筋骨隆々の小学生女子を描いた「ごっちん」(岩井作)を山奥の学校で披露。#2は郊外の古風なクラブで、伊藤万理華、秋山菜津子、高橋克実が年増のホステスの物語「きよこさん」(ハイバイの劇団員・川面千晶作)を、#3はムロツヨシ、猪股俊明、川上友里、山内圭哉がWOWOWの社員食堂で、岩井の代表作の1つである「おとこたち」に挑んだ。収録の雰囲気はそれぞれで、大爆笑が起きる回もあれば、じんわりとした感動に包まれる回もある。ただ、毎回自然と、出演者それぞれにハイライトシーンが生まれることは共通していて、収録後の“反省会”では、そんなお互いの見せ場を称え合う様子がしばしば見られた。

後述する#4収録後のインタビューで岩井自身が語っていることだが、「いきなり本読み!」シリーズは、舞台版にしろテレビ版にしろ、キャスティングがとても重要だ。それは、俳優としてのキャリアの長さ、舞台経験の有無、年齢や性別といったわかりやすいポイントに限らず、共演者の変化や演出の言葉を敏感に感じる人かどうか、登場人物をステレオタイプに分けずに“1人の人間”として捉えている人かどうか、など、俳優としての個性や資質といった部分にも踏み込んで熟慮されている。ただ、“熟慮”といっても岩井自身はおそらくそれを直感的に嗅ぎ分けているのであって、その感覚の鋭さこそが、演出家・岩井秀人の凄みであり強みであることを、「いきなり本読み!」シリーズは実証している。

そして迎えた、「WOW!いきなり本読み」のラスト、#4。出演したのは、昨年8月に本多劇場で行われた舞台版の第3回に出演したユースケ・サンタマリア、松本穂香、橋本さとしの3人だ。舞台版・テレビ版共に、まったく同じ顔合わせで2回目に挑んだのはこれが初めてとなるが、実は岩井はこの3人の顔合わせに強い思い入れがあったようで、「いきなり本読み!」について語るとき、岩井はよくこの3人の出演回を引き合いに出していた。

6月下旬、東京都内の某大学の図書室にて#4の収録が行われた。図書館が開館中だったため、収録の間も学生や職員など人の出入りがあり、関係者のみで行われた過去3回に比べると、俳優にとっては集中力を要する環境での収録となった。しかし、そういった状況が逆に緊張をほぐしたのか、台本に向かっている瞬間は全力で、台本から目を上げた途端に朗らかに談笑する3人の様子に、余裕も垣間見えた。

台本への向き合い方は3人それぞれで、各シーンの人間関係を瞬時に捉え、関係性の中で自身の役を立ち上げていくユースケ、台本中の些細な情報から想像力を膨らませ、それを役人物に投影させていく松本、パワーや技術を出し惜しみせず、全力で台本に向かい、役人物を鮮やかに立ち上げていく橋本と、三者三様のアプローチによって作品がメキメキと色付いていく。そして本読みが進み、配役が変わると、それぞれの“読み”の個性が共鳴し合ってさらに作品世界が膨らみ、ラストは最終回にふさわしい一大スペクタクルとなった。

岩井秀人

#4収録後の岩井に、収録の感想と「WOW!いきなり本読み」シリーズを振り返ってもらった。岩井は、「WOWOWさんとは当初、舞台版とWOWOW版で同じキャスティングはしないようにしよう、と話してたんです。でもこの3人の顔合わせは特別で」と#4のキャストに言及。「ユースケさんは僕にとってすごく大事な存在で、言葉にならないけどみんなが『あれ?』って思っているようなことを、その場の空気に漂ってるみんなの気持ちの粒子を集めてポンっと言葉にするんです。そういう超能力者みたいなところがある人だと思うんですね。松本さんは、初見の本読みでできることの精度がものすごく高くて、その高さがちょっと普通じゃないです(笑)。さとしさんはカッコいいだけでも全然いられるのに、わざわざカッコよくないこともやって面白がられてしまう“人間力”みたいなものがあって、生き物としてちょっとよくわからない存在(笑)」とそれぞれへの信頼を愛あるコメントで語った。

またシリーズを振り返って「キャスティングってめちゃくちゃ大事だなということを感じましたね」と岩井。「顔合わせのバランスが、本当に大事だなと。また、いろいろな場所で収録させていただきましたが、ロケーションが与えるインパクトをどう生かすかについても考えさせられました。ただ発見だったのは、笑いの部分だけじゃなくて戯曲のグッとくる部分も、『いきなり本読み!』シリーズで見せることができたこと。笑いのすぐあとに物語の芯となるシーンが続いたりするのが演劇の面白さだと思うから、そういった部分を見せることができたのは良かったです」と話した。

最後に、岩井が思う“面白い俳優”とは、と尋ねると、「極端な言い方をすると、作家よりも戯曲を信じてくれる俳優。戯曲に飛び込んでいくというか、傷ついたりすることも含めて覚悟がある俳優さんですね。転んで血を流しながらも笑っているような、そういう無謀さのある俳優さんが面白いと思います」とキッパリと語った。

左から岩井秀人、ユースケ・サンタマリア、松本穂香、橋本さとし。