WOWOW「いきなり本読み!」Vol.1 岩井秀人×佐久間宣行 対談|東京国際フォーラム公演放送記念 芸人と俳優の本読みはココが違う!2人のアイデアマンが紐解く「いきなり本読み!」

岩井秀人がプロデュースする人気企画「いきなり本読み!」が、3月6日にWOWOWにて初放送される。「いきなり本読み!」とは、出演者に演目を事前に告知せず、ステージ上で台本を渡して、演出家がその場で配役・演出する企画。今回放送される「いきなり本読み!in 東京国際フォーラム」は2020年12月25日に開催されたもので、松たか子、神木隆之介、後藤剛範、大倉孝二が出演した。

ステージナタリーでは放送を記念し、「いきなり本読み!」を初回から観ているというテレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行と岩井の対談を実施。佐久間が感じる岩井作品の魅力、岩井も出演した「ゴッドタン」の爆笑エピソード、「いきなり本読み!」が提案する演劇の新たな楽しみ方など、話題は多岐に広がった。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

印象的だったのは、岩井作品の美しさ

──佐久間さんが初めてご覧になった岩井さんの作品は、2011年に上演された青山円劇カウンシル#4〜Re〜「その族の名は『家族』」だったそうですね。

佐久間宣行 だと思います。それか、「ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン」か「霊感少女ヒドミ」かな。

岩井秀人 「ヒドミ」、どこで観ました?

佐久間 アトリエ春風舎かな。

岩井 よく行きましたね(笑)、小竹向原まで。

佐久間 いや、春風舎、時々行ってますよ。

左から岩井秀人、佐久間宣行。

──佐久間さんは気になるジャンルの“目利き”から情報を得て実際にご覧になるそうですが、岩井さんもそうだったのでしょうか?

佐久間 岩井さんは、確か初演の「て」か「ヒッキー(・カンクーントルネード)」の評判を聞いていて、そのとき直近でチケットが取れた公演に行ったんだと思います。それからほぼ全部、観てるんじゃないかな。

──そのとき、お話はされたんですか?

岩井 いや、してないですね。

佐久間 僕、ほとんど誰ともしゃべらないんです。楽屋に行ったりしないので。

岩井 そうですね。楽屋に入って来て出演者と話す、という方では全然なくて、あとで観に来てくれていたと知って。

佐久間 そうそう、「ゴッドタン」の「ストイック暗記王」のコーナーに劇団ごと出演オファーしたことがあって、そのとき、「実はハイバイのこの作品とこの作品を観てて……」って説明して。

岩井 でもその頃は警戒心がマックスだったので、断ったんですよ。ハイバイではおじさんが女性の格好をして演じるけど、それがテレビ的には違うニュアンスに映るんじゃないかと思って「すみません」って。

佐久間 あと、ハイバイじゃないけど、岩井さん含め演出家4人でやった企画も面白かったですよね? 「四つ子の……」。

岩井 「四つ子の宇宙」!(編集注:2011年に実施された、作・演出・出演を岩井、江本純子、松井周、前田司郎が手がけた企画) すげーお客さん入らなかったやつ。あれも観てるんですか!

佐久間 アトリエヘリコプターで観ましたよ(笑)。あれもめちゃくちゃ面白かった。

岩井 演劇というものが好きなんですか?

佐久間 好きなんだと思います。最近もちょくちょく観てますし。

──佐久間さんは、岩井さんの作品のどんなところにピンときたんですか?

佐久間 最初の頃に観た作品は、どのお話も美しいなって思ったんですね。持って帰る気持ちみたいなものが、ぐちゃぐちゃなときもあるし暴力的なときもあるけど、それもひっくるめてめちゃくちゃ美しいシーンがあって、それが印象的でした。もちろん、イヤーな気持ちで帰ることもあるんですけど。

岩井 異論はありません。

リミットオーバーだった「ゴッドタン」

──その後、岩井さんはテレビ東京で放送されている「ゴッドタン」に出演します。これまでのインタビューを振り返ると、岩井さんにとって「ゴッドタン」への出演は、とても大きな経験だったようですね。

岩井 そうですねえ。

佐久間 何回か出ていただきましたね。でもよく考えると、あれもとんでもないオファーだったなって(笑)。

岩井秀人

岩井 本当にそう思ってます?(笑) こっちこそびっくりしましたよ、なんでこんな大変な役割を、ほぼ知らない人に任せるんだろうって。最初は演者として、1回限りの進行役、って感じでオファーしてくださったんですよね。でもまあ、それはわかるんですよ、15分くらいの、何とかなる感じの役だったので。でもその後、「岩井さん、『キス我慢』の映画やるから、山奥に川島さん(劇団ひとり)連れてって」と。「マジで一発撮りでやるから」って。

佐久間 今思うと本当に恐ろしいんですけど、映画って数千万かかるじゃないですか。それを一発撮りだから……正気の沙汰じゃないんですよね、あれ(笑)。

岩井 佐久間さんがどれくらい本気で言ってるのかどうかもわからなかったけど、「リハーサルします」とか言ってて。でもそのリハーサルっていうのが、見事なほど川島さんらしい人がちゃんと現場に用意されてて!

佐久間 川島さんは一発勝負だから、“仮想・川島さん”の訓練をしてもらった役者さんを相手に、周りがさまざまな状況を想定したリハーサルをするんです。例えば劇団ひとりが逃げ出したらこう戻すとか、こう言われたらこう返すとか、ありとあらゆる可能性を考えたエチュード地獄(笑)。

岩井 なのに、その想像を超えることが起きるんですよねえ……。

佐久間 そう(笑)。あるシーンは、マキタスポーツと窪田正孝さんと岩井さんと駒木根隆介さんが出演しているから、何とかまとまるだろうって思ったんだけど、あまりにぐちゃぐちゃになって(笑)、そのシーンが終わったらみんなが「どうやってまとめるんだよ……」と頭抱えるっていう。そんな撮影でした。

岩井 僕は逃げようのないポジションだったし、あんなにリミットオーバーなものを背負わせてもらった経験もなかったので、とにかくすごかったですね。ひきこもりから出たときに「映画に出たい」って思ってたんですけど、「……これのことかな?」ってちょっと考えました。

佐久間宣行

佐久間 あははは! でも、この映画を松尾スズキさんがご覧になって、その後オファーがあったんですよね?

岩井 そうそう。大人計画の方がけっこう観ててくれて。そのあとにつながったっぽいです。

佐久間 宮藤官九郎さんが「ゴッドタン」が好きで、宮藤さんが松尾さんに勧めて、それを観た松尾さんが「あの俳優は誰だ?」っておっしゃったっていう。

岩井 「あの俳優は誰だ」じゃなくて、まずは「あの映画は何だ!」ですけどね(笑)。

──「ゴッドタン」出演後、岩井さんは笑いの番組を作っている人たちに対する尊敬の念を何度も口にされていました。

岩井 そうですね。僕も演劇の中じゃ面白いことを“できがち”くらいに思ってたんですけど、(お笑いをやっている人たちは)もともと持ってるものが違ううえに、すごいひねり出してくるし、至近距離で川島さんたちを見て、考えが変わりました。

佐久間 確かにすごいですよね。

岩井 どこから出てくるのか全然わからないんだけど、瞬発的に出したものがいろいろつながってしまうというような、芸人さんのああいうところを見ちゃうと、「演劇の中でうちは笑いも……」なんて1ミリも言えないなって思いました。

作品を見せるより、演劇の幅を見せられた

──「いきなり本読み」第1回(参照:岩井秀人の「いきなり本読み!」、初回は大爆笑で「おとこたち」を“本読み!”)のときは、岩井さんから佐久間さんに直接ご連絡したそうですね。

岩井 普段そんなにやり取りはないですが、舞台をやるときは連絡していることもあって。それと、この企画に関しては僕だけが考えるのはあまり良くないと思っていたので、どのタイミングだったか、佐久間さんに「これをテレビでやるとしたらどうしたら良いと思いますか?」って相談したことがあって。

佐久間 そうそう。

──佐久間さんは第1回の感想を、ラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」でお話されましたね。

佐久間 しました。第1回は岩井さんの「おとこたち」で、すごく面白かった。終演後、岩井さんにご挨拶したら、岩井さんの第一声が「役者ってすごいですね」って(笑)。岩井さんはもっとぐちゃぐちゃになると思ってたそうですけど、第1回のメンバーは“乗りこなす”メンバーだったから、脱線することなくどんどんどんどん読んでいくことになって。

岩井 そうなんですよ、本当はもっと横道にそれるかなって思っていたんだけど、スパーン! スパーン! スパーン!と1発で正解を叩き出しながら読み進むことになって……。できる人ってここまでできちゃうんだなって、本当に勉強になりました。

佐久間 皆川(猿時)さんが面白かったですよね。最初はあんまりよくわかってない感じだったけど、始まってしばらくしてから「この本面白いな」って言い始めて。

左から岩井秀人、神木隆之介、松たか子、大倉孝二、後藤剛範。©︎平岩と毛利

岩井 そうですよね。あのときは想定してたのと違って僕はすごくテンパってたけど(笑)、振り返ってみると、いわゆる演劇作品を観せるよりも幅広く演劇そのものを観せることができたのかなと思います。台本も俳優も演出も、バラバラなところから集められて演劇が立ち上がっていくのをみんなに観てほしかったし、そういう視点を知って通常の舞台作品を観たほうが、きっと面白いはずだから。

佐久間 ラジオのトークでは端折ったんですけど、岩井さんの指示で劇的に変わるところがあって、それも面白かったですね。