社員食堂のカレーの香りに乗せて 岩井秀人×ムロツヨシ×猪股俊明×川上友里×山内圭哉の「WOW!いきなり本読み」#3 収録現場レポート

岩井秀人が企画・進行・演出を手がける人気企画「いきなり本読み!」のテレビ版「WOW!いきなり本読み!」。その第3弾が、7月24日にWOWOWライブで放送&WOWOWオンデマンドで配信される。今回はWOWOWの社員食堂を借り切って収録。岩井演出初参加のムロツヨシをはじめ、岩井作品および舞台版「いきなり本読み!」に出演経験がある猪股俊明、川上友里、山内圭哉が出演した。4人はどんな思いで企画に参加し、どんな“読み”を披露したのか? ステージナタリーは、インタビューと収録現場のレポートで「WOW!いきなり本読み! #3」の面白さに迫る。

なお今回も、当日読まれた作品については、放送で“いきなり”明かされるので、ここではどんな作品が読まれたか想像しながら読んでほしい。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 広川智基

出演者にいきなりインタビュー!
「実際、参加してどうですか?」

ムロツヨシ

私なりの目標が見えた時間でもありました

ムロツヨシ

「いきなり本読み!」のことは以前から知っていて、「いつか出たい」ってことをお伝えさせていただいていました。いろいろな方が出ていらっしゃるのも知っていたんですけど、見ると予習することになってしまうので、一度も見ずにタイトル通り“いきなり”、フラットな状態で参加しました。

岩井さんとお仕事でご一緒したのは、今回が初めてです。いろいろな言葉を持っていらっしゃるし、作品のトーンが好きですね。三十代だったら「負けたくない」とか「岩井さんとは違った方向でやらなきゃ」って思ったかもしれませんが、四十代半ばというタイミングだったからこそ聞けたこともあり、数年以内に一緒に舞台を作れたらいいなって、そんな私なりの目標が見つけられた時間でもありました。

普段の本読みでは、あまり感情の流れを入れずに読むようにしています。それは、二十代の頃からの癖でもあるし、最初に感情を入れて読んでしまうと、後の展開の邪魔になってしまうことがあるので、1回目は文章として、2回目は感情を入れてと、1・2回目で本読みの捉え方を変えています。ただ今回は、「ちょっと違うな」ってときは岩井さんが止めてやり直してくれるので、最初からスイッチを入れて読みました。

最近のmuro式.では演出の比重が重くなってきたので、今回は役者に専念できたのが新鮮でした。与えられた役の中だけでどう表現するか、相手役の方とどうやって会話を成立させるかだけに集中することって、舞台ではあまりなかったですから。演出家の目線を気にしながらも自由にやって見せたり、怖がってひよったり……そういう自分もこういうときじゃないと出てこないし、だからこそ出てきた表現もあったんじゃないかなと思うので楽しかったですね。

ムロツヨシ
1976年、神奈川県生まれ。1999年に作・演出・出演を行った一人芝居で活動を開始。2008年より自らプロデュースを手がけるmuro式.を始動。映画「マイ・ダディ」、(9月23日公開)、「川っぺりムコリッタ」(11月3日公開)が控える。

猪股俊明

岩井くんのツッコミが徐々にクールになってきました(笑)

猪股俊明

今回4度目の出演ですが、雰囲気は毎回違います。岩井くんのツッコミも徐々にクールというかシビアになってきましたね(笑)。僕が違う感じに台本を捉えて読んでいると、岩井くんの表情がハテナって感じになることがよくあって、「ああ、演出の意図はそうだったのか」とあとで気付くこともあります。みんながパッと演出に反応して返している中、僕だけ勘が鈍くて、でもその鈍さが、この企画の調味料になってるのかなって思うところもあります。

普通の芝居を始める前の本読みだと、まずは読んで理解して次にどうしようかって考えていけるけれど、「いきなり本読み!」は「いきなり本番!」なので(笑)。こちらはゼロから出発してるところ「ここは悲しいシーンなので、そういう心境で読んでください」っていう岩井くんの無理難題に、どう応えるのかが腕の見せどころだなと思いますね。ただ、役者ですから台本は好きなんです。子供がプレゼントをもらって、中身はなんだろうってワクワクしながら箱を開けるのと同じで、初めて見る台本を読む楽しさが、この企画にはありますね。

猪股俊明(イノマタトシアキ)
1948年、福岡県生まれ。青年団「上野動物園再々々襲撃」「眠れない夜なんてない」、飛ぶ劇場「生態系カズくん」、ハイバイ「ある女」「て」「夫婦」などに出演。

川上友里

岩井さんの演出は、自由さが良いなって

川上友里

「岩井さんが若手を集めてやっている勉強会に呼んでいただいていたので、「いきなり本読み!」のことは前から知っていました。舞台版の第5回(参照:岩井秀人が「志賀廣太郎さんに恩返しのつもりで書いた台本」を“いきなり本読み!”)に続き、今回が2度目の出演だったんですけど、やっぱり面白かったですね。特に今日は先輩方ばかりだったから、安心して臨めました。ただ毎回、「これで良かったのかな」っていう思いはあって。「もっとああすれば面白くなったんじゃないか、こうすれば良かったんじゃないか」って、終わってから思ってしまうんですよね(笑)。

初見で台本を読むときは私が最初に感じたことをお客さんも感じるんじゃないかなと思うので、初めて読んだときに感じたことを忘れないようにしています。だから誰もいないところで1人で台本を読むのはあんまり得意じゃなくて(笑)。所属している劇団はえぎわも、前もって台本を渡されることはあまりなくて、稽古場で台本を渡されていきなり本読みってことが多いので、こういう状況には慣れてるかもしれないですね(笑)。

岩井さんの演出は「夫婦」で1回受けていますが、自由にさせてくれるなという印象です。だから若い人だとすごく戸惑うかもしれませんけど、私はその自由さが良いなって思っています。

川上友里(カワカミユリ)
1980年、鳥取県生まれ。ノゾエ征爾主宰のはえぎわに所属。2014年にユニット・ほりぶんを結成。劇団公演のほか、外部公演やドラマなどに多数出演。7月27日から8月1日にかけて、ほりぶん「これしき」に出演。9月19日から26日まで「物理学者たち」の公演が控える。

山内圭哉

僕らにとって本読みは“型”を作ること

山内圭哉

そもそも今日、テレビ版の収録だって知らなかったんですよ(笑)。という状況で撮影が始まって、舞台版とテレビ版の違いは観客の有無くらいかなって感じがしました。

岩井くんは、演劇の楽しみ方が独特やなって思いますね。この「いきなり本読み!」もコロナ禍において、朗読劇や配信劇が増えるなかでも演劇をどう楽しむのか、演劇をバラエティとしてやろうとした中で始めたことなんじゃないかなって思います。

普段は台本を読むとき、最初は読者として読み、次に自分がやる役を中心に読み、って感じで実は割と真面目にやるんです。もちろん現場によっては本読みの日にまだ台本が出来上がってないとか途中までのものを渡されることもよくあるので、いきなり本読みすること自体に戸惑いはないですね。

亡くなった中村勘三郎さんの、「型破りっていうのは型を知ってないと破れないんだよ」って言葉は良い言葉だなと思ってて。僕らにとって型は、本読みなんです。本読みを丁寧にやっていくことで、型を作ってるんだと思いますね。「いきなり本読み!」の場合は丁寧に読んでも仕方ないっていうか、いつもやってるようにはやれない部分もありますけど(笑)、でも台本に対する向き合い方としては普段とあまり変わらないと思います。加えて、岩井くんが引き出そうとしている、初見の本読みの面白さにどれだけ流れていけるか。やっぱりイベントですから、普段とは違う努力は必要になってくると思いますね。

山内圭哉(ヤマウチタカヤ)
1971年、大阪府生まれ。Piper、新ロイヤル大衆舎のメンバーで、プロデュースユニット・Wat Mayhemを主宰。またThe Jizz Monks、Khwaiでバンド活動も行う。9月から10月にかけて福田転球とのユニット「2Cheat5」の公演が控える。