TPAM「福島三部作」スタッフ座談会 松本大介(照明)、佐藤こうじ(音響)、竹井祐樹(舞台監督)、小野塚央(制作)+徳永京子による「福島三部作」評|自分たちの死後にも残ってほしい、“再演不可能”な大作がよみがえる オンライン配信あり

2011年の東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から10年。半世紀におよぶ福島県と原発の歴史を描いた谷賢一の「福島三部作」が、アジア最大規模の国際的舞台芸術プラットフォーム「国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021(TPAM2021)」でよみがえる。神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオでの劇場公演に加え、各国の観客に向けてオンライン配信されることも大きなトピックの1つだ。

第64回岸田國士戯曲を受賞した「福島三部作」は、原発で働く技術者を父に持つ谷が、東日本大震災を演劇作品として残すことを目的に、約2年半の歳月をかけて取材・執筆した作品。「第一部『1961年:夜に昇る太陽』」では、福島県双葉町の住民たちが原発誘致を決定するまでの数日間が、「第二部『1986年:メビウスの輪』」では、福島第一原発の稼働から15年後の双葉町が、「第三部『2011年:語られたがる言葉たち』」では、東日本大震災、福島第一原子力発電所事故当時の様子が描かれる。

“再演不可能”と言われた約6時間の大作の裏側には、谷と苦楽を共にしてきた敏腕スタッフの姿があった。旗揚げ当初からDULL-COLORED POPに携わっている照明の松本大介、小松台東の劇団員としても活躍する音響の佐藤こうじ、ケラリーノ・サンドロヴィッチや谷の作品など、数々のステージを担当している舞台監督の竹井祐樹、庭劇団ペニノのスタッフを務める制作の小野塚央。「TPAM2021」での再演にあたり、4人のプロフェッショナルがアジアの観客に伝えたいこととは? また本特集の後半には、演劇ジャーナリストの徳永京子による「福島三部作」の劇評も掲載している。

取材・文 / 興野汐里 撮影 / 藤田亜弓

松本大介(照明)、佐藤こうじ(音響)、竹井祐樹(舞台監督)、小野塚央(制作) 谷賢一の盟友であるスタッフ4人が語る「福島三部作」

土岐研一っていう美術家は本当に容赦ない

──2016年にスタートした「福島三部作」プロジェクト(参照:谷賢一「福島三部作」プロジェクトがスタート、1回目の現地取材を敢行)では、約2年半の取材・執筆期間を経て、2018年に「第一部『1961年:夜に昇る太陽』」が先行上演されました(参照:約2年の取材・執筆を経て、DULL-COLORED POP「福島三部作」第1部スタート)。その後、2019年に「福島三部作」を一挙上演(参照:谷賢一「ぶっ飛んだラストにご期待ください」ダルカラ「福島三部作」一挙上演が開幕)。2020年には谷さんが第64回岸田國士戯曲を受賞しました(参照:第64回岸田國士戯曲賞授賞式がKAATで開催)。今回は2019年版の再演となりますが、舞台美術や照明、音響などは前回の構想をベースに作っていかれるのでしょうか?

竹井祐樹 そうですね。今のところ舞台美術は基本的に同じです。劇場を視察して、谷さんが何か思い付くかもしれないですけど(笑)。

──谷さんは、実際に劇場を見てインスピレーションを得ることが多い?

松本大介 作品によりますよ。もちろん思い付くことはいろいろあるんでしょうけど、「今、言っちゃいけないな」っていう社会性は一応持っている人間なので(笑)。どうしても思い付いちゃって、「やっぱりこうしたい」と言ってくることもあるんだけど、今回はあまりない気がしますね。

──皆さんは2019年から「福島三部作」プロジェクトに参加されていますが、それぞれどのような部分にこだわってクリエーションを進められたのでしょうか?

DULL-COLORED POP「福島三部作 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』」より。©︎bozzo

松本 第二部に、天井から大量の電球を吊る美術が登場するんですけど、(舞台美術家の)土岐(研一)くんが打ち合わせのときに、部屋いっぱいに電球がぶら下がっているインスタレーションの写真を参考資料として持って来たんです。打ち合わせの段階から否定するのもつまらないから、「いいねえ、この世界観。素敵だねえ」って相槌を打ちつつ、「まさかこの通りにはならないだろう」って思いながら話を聞いてたんですけど、だんだんそれが具体性を帯びてきて……。土岐くんと谷くんのニヤニヤ顔を見て、「なるほど、俺が(電球を)全部作れってことか!」って悟りました(笑)。あのニコニコ顔は忘れられませんねえ。

佐藤こうじ 結局何個吊ったんでしたっけ?

竹井 ボリュームを出すために吊ったダミーの電球も足して320個くらい。

松本 土岐研一っていう美術家は本当に容赦ないんだよね(笑)。ダルカラとかイキウメとか、いろいろな公演でアホみたいなことを一緒にやってきたんですけど、彼は「大丈夫、大丈夫」って言いながら、全然大丈夫じゃないことを仕掛けてくるんです。「福島三部作」でもやっぱり「(大丈夫じゃないことが)また来たな」っていう感じがあったのが、自分の中では特に思い出深いですね。

一同 ははは!(笑)

小野塚央 手が空いた劇団員にも手伝ってもらって、毎日みんなで電球を作ってましたよね。

竹井 稽古場で初めて電気を点けたときは感動しました。

佐藤 あれはすごかった!

松本 自分たちの想像をはるかに超えたものができあがったよね。

左から松本大介、小野塚央、竹井祐樹、佐藤こうじ。

いい台本書いたな、この人

──音響でいうと、第三部冒頭に登場する「ゴゴゴゴゴ」という、東日本大震災のすさまじさを思い起こさせる地響きが非常に印象的でした。

佐藤 そうですね。音響としては、あの場面にすべてを込めたと思ってます。実は、稽古場で低い音を出しすぎちゃって受付の人に怒られて、「これ、うまくいくのかな?」って半信半疑のまま劇場に入ったんです。試しに音を作ったら、谷さんから「もっと(音を)出してほしい」と頼まれたので、低い音が鳴るスピーカーを追加で発注して、床下に埋めたんですよ。シアターイーストは床が木でできていて揺れやすかったから、あの音が表現できたんですけど、今回はどうなるかなあ。

左から小野塚央、佐藤こうじ。

小野塚 スピーカーの前の席に座るお客さんは大丈夫か検証しながら、スピーカーの位置を替えたり、けっこういろいろなことを試しましたよね。

佐藤 そうそう。劇場(KAAT神奈川芸術劇場)と相談しつつになると思いますが、あの音をどこまで再現できるかが今回の課題の1つです。

──小野塚さんは制作として、劇場や各所との調整を担当されています。2019年の公演では、第一部、第二部、第三部の通し上演があったり、東京・大阪・福島の3カ所を巡るツアー公演があったりと、いろいろとご苦労がおありだったと思います。

小野塚 そうですね。会場を押さえたり、予算の管理やキャスティング周りの作業をしたり、クラウドファンディングの準備をしたり……。2019年はチケットが残った状態で小屋入りしたので、「これでダルカラが潰れたらどうしよう」って内心思ってました(笑)。

──徐々に口コミが広がり、最終的には当日券を求めるお客さんが劇場前に行列を作っていました。

小野塚 はい、開けてびっくりです。

松本 あれは本当にすごかったよねえ。

──「福島三部作」は第64回岸田國士戯曲賞を受賞しましたが、スタッフの皆さんとしては、戯曲を読んだ段階から手応えはあったのでしょうか?

左から松本大介、竹井祐樹。

竹井 そうですね。第二部の台本を読んだとき、「ああ、いい台本書いたな、この人」って思って。

小野塚 第三部は、初めての本読みで泣いてしまうくらいよかったです。第二部はけっこうスラーッと書けてたんですけど、第三部に関しては苦悩の時期があったのを知ってたから。

松本 自分も「これは面白いものになるだろうな」っていう予感がありました。例えば「Caesiumberry Jam」みたいな、社会性のあるものを書いてきた谷くんの矜持を、俺なりに理解しているつもりだったし、彼がこれまでに積み上げてきたものが、ちゃんと整ったのが「福島三部作」だったと思う。こんなふうに言うと、谷くんはたぶん「そんなことない!」って言うと思いますけど。でも稽古の時点で面白くなかったら、電球作るのやめてたかもしれない(笑)。

佐藤 結局電球なんですか!(笑) そういえば「10年は再演することはないだろう、できないだろう」って言って最後別れたんですよね。なので、公演に向けて今から熱量を高めていかないとなって思ってます。