「東京芸術祭 2022」静岡・豊橋・タイ・京都で生まれた注目作をアーティストのメッセージと共に

9月1日にスタートし、23日にオープニングセレモニーも行われた「東京芸術祭 2022」。今年は国内外の30演目以上が池袋を中心に上演される。本特集では、その多数の演目から、2021年に静岡で創作されたSPAC-静岡県舞台芸術センター「夢と錯乱」、3月に豊橋で生まれた映像演劇「階層」、タイで制作された「An Imperial Sake Cup and I ー恩賜の盃と私」、京都で初演され上演が重ねられてきたakakilike「捌く–Sabaku」に焦点を当て、それぞれの作品のバックボーンや今回の上演に向けたアーティストたちのメッセージを紹介する。

構成 / 熊井玲

SPAC-静岡県舞台芸術センター「夢と錯乱」

本作は、2021年に宮城聰が演出した美加理の一人芝居。クロード・レジは自身“最後の作品”として、夭逝したオーストリアの詩人ゲオルク・トラークルの詩をもとにした「夢と錯乱」を発表しており、宮城はレジへのオマージュとしてトラークルの詩に対峙した(参照:笈田ヨシ&宮城聰が語る「Le Tambour de soie 綾の鼓」「夢と錯乱」)。痛みと悲しみを抱えたある少年が、暗闇の中に見たものとは……。

「夢と錯乱」より。©K. Miura

「夢と錯乱」より。©K. Miura

「夢と錯乱」より。©K. Miura

「夢と錯乱」より。©K. Miura

「“人間というものへの信頼”をいくばくかでも取り戻すために」
宮城聰

──本作は2021年12月に静岡で初演されました。初演時の稽古や本番で印象的だったことがあれば教えてください。

静岡での初演は、ヨシ・オイダさんの「Le Tambour de soie 綾の鼓」という作品と同日の上演でした。実はこの「夢と錯乱」は、ヨシさんへの“返信”でもあるんです。というのは、20年前に僕が美加理さんたちとともに無謀にも1カ月のパリ公演をやっていたとき、ヨシさんが観に来てくれて、終演後に「きみはなぜ動きとセリフを分けているの?」と質問され「現代の人間はことばとからだが乖離しているのでそれを表現しようと思って」と答えたら「でも、演技は、最終的にはことばとからだのハーモニーでしょ」と話されたのです。ずっと“二人一役”を追求してきた美加理さんと共に、いよいよその“ハーモニー”をやってみようとして取り組んだのがこの「夢と錯乱」でした。

宮城聰 ©︎Ryota Atarashi

宮城聰 ©︎Ryota Atarashi

──今回の「東京芸術祭 2022」で本作は、東京芸術劇場 シアターイーストで上演されます。今回の上演で変わる部分、あるいは特に意識していることを教えてください。

初演会場の静岡県舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」(磯崎新さんのデザインした空間)とシアターイーストの空間はまったく異なりますが、考え方は同じで、「空間には何も付け加えずに、ただ俳優の身体と、詩としての言葉だけで演劇を成り立たせること」が目標です。その結果として逆に空間そのものの魅力も引き出せると考えています。なぜなら、こうすることで俳優はまずシアターイーストの空間そのものに全力で向き合わねばならなくなるからです。

──「夢と錯乱」を楽しむうえでヒントになるようなキーワードがあれば教えてください。

「Great actor. Great text. That's all.(すごい俳優。すごい言葉。ただそれだけ)」。これはある海外の演出家が言っていたフレーズなんですが、今こそそういう芝居を観ていただきたいと思っています。消滅しかかっている“人間というものへの信頼”をいくばくかでも取り戻すには、そういう芝居を観てもらうことが必要だと思うからです。

プロフィール

宮城聰(ミヤギサトシ)

1959年、東京都生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京芸術祭総合ディレクター。

公演情報

SPAC-静岡県舞台芸術センター「夢と錯乱」

「夢と錯乱」チラシ

2022年10月14日(金)~16日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

作:ゲオルク・トラークル
訳:中村朝子
演出:宮城聰
出演:美加理

FTレーベル 映像演劇「階層」

「階層」は、チェルフィッチュの岡田利規と舞台映像作家・山田晋平による〈映像演劇〉作品。〈映像演劇〉では、スクリーンなどに等身大の俳優の映像を映し出し、そこに演劇空間を立ち上げる。「階層」は、3月に初演された作品で、穂の国とよはし芸術劇場PLATによる「市民と創造する演劇」シリーズとして、公募で集められたメンバーと共に立ち上げられた(参照:穂の国とよはし芸術劇場PLATで生まれる岡田利規と市民の新たな〈映像演劇〉「階層」)。

観客は舞台上から奈落をのぞき込む形で、“異層”で繰り広げられるやり取りを耳にする。初めは自分に無関係に思えるそのやり取りが、微妙に“こちら”に向けられているように感じられ……。

「市民と創造する演劇『階層』~チェルフィッチュの〈映像演劇〉の手法による~」初演より。(Photo by Kaori Itoh)

「市民と創造する演劇『階層』~チェルフィッチュの〈映像演劇〉の手法による~」初演より。(Photo by Kaori Itoh)

「市民と創造する演劇『階層』~チェルフィッチュの〈映像演劇〉の手法による~」初演より。(Photo by Kaori Itoh)

「市民と創造する演劇『階層』~チェルフィッチュの〈映像演劇〉の手法による~」初演より。(Photo by Kaori Itoh)

「この作品の観客はこの作品を“招かれざる客”として体験することに」
岡田利規

──本作は今年3月に豊橋で初演されました。初演時の稽古や本番で、印象に残っていることがあれば教えてください。

豊橋で約1カ月この作品をコツコツリハーサルし滞在生活していた(主にはテキストを読むということをしつこく繰り返していた)日々の全体が楽しくて思い出深いです。

岡田利規 ©︎宇壽山貴久子

岡田利規 ©︎宇壽山貴久子

──「階層」を楽しむうえでヒントになるようなキーワードがあれば教えてください。

この作品の観客はこの作品を招かれざる客として体験することになります。言ってることの意味がわからないかもしれませんが観てくだされば必ずわかります。

プロフィール

岡田利規(オカダトシキ)

1973年、神奈川県生まれ。熊本県在住。劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。

公演情報

FTレーベル 映像演劇「階層」

「階層」チラシ

2022年10月19日(水)~25日(火)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

作・演出:岡田利規
映像:山田晋平
キャスト:オーディションで選考された市民(伊藤すみか、浦田すみれ、江上定子、笠田優奈、勝田雄介、加藤瑶子、眞田信三、富髙有紗、長井健一、西川ちさと、早川吉乃、矢野昌幸、油井文寧、横田僚平) / 米川幸リオン