「THEATRE for ALL」湯浅永麻×鈴木竜 対談|“違い”や“変化”を柔軟に受け止め、作品を進化させたい

「THEATRE for ALL」は、バリアフリーと多言語に対応したオンライン型劇場。演劇・映画・メディア芸術など多彩な演目が並ぶ中、ダンス作品も多数ラインナップされている。

本特集では、プラネタリウムマシーン・MEGASTARが映し出す宇宙空間のもと、昨年12月に新作「n o w h e r e」を展開した湯浅永麻と、批評家・詩人・美学者・インタープリター(解釈者)らが、視覚障害者に言葉でダンスを伝える「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇~」を体験した鈴木竜の対談を実施。共に海外での活動経験があり、多様な環境にある人とのクリエーションを続けている彼らが、作品を通じて感じた“違いを面白がる”ことの大切さとは?

取材・文 / 熊井玲

THEATRE for ALLとは?

日本で初めて演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象に、日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施した動画配信プラットフォーム。オリジナル作品を含む映像作品約40作品、ラーニングプログラム約40本を配信中。

「THEATRE for ALL」で見られる湯浅永麻作品&鈴木竜作品

湯浅永麻 Dance New Air 2020->21「n o w h e r e」
配信開始:2021年10月4日(月)
価格:1000円(税込)
※アクセシビリティ:作家オリジナルのバリアフリー、バリアフリー日本語字幕、バリアフリー英語字幕
Dance Base Yokohama「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス観賞篇~」
配信開始:2021年2月26日(金)
価格:無料
※アクセシビリティ:バリアフリー日本語字幕

共に、第一線で活動するダンサーとして

──お二人は共演経験があり、昨年は横浜のダンスハウス・DaBY主催の「DaBY talk live」で対談もされていますよね。いつ頃からお知り合いなのでしょうか?

「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス鑑賞編~」より。©Naoshi HATORI

湯浅永麻 共演させていただいたのは2019年の「横浜ダンスコレクション」で上演されたエラ・ホチルドさん振付「Futuristic Space」(参照:「横浜ダンスコレクション2019」 エラ・ホチルド×大巻伸嗣「Futuristic Space」)で、それ以前にも一度同じ舞台には立っているんですけど、お互い別の作品に出演していたから接点はなくて。だから実はわりと最近ですよね。

鈴木竜 そうですね。最初にお会いしたのが、渡辺レイさん、小㞍健太さん、湯浅さんがされているユニット・Optoの公演(編集注:2017年の「Opto 桐生公演 optofile4」)で、4年前くらいでしょうか。

──鈴木さんは、2020年6月に本格始動したDaBYの、アソシエイトコレオグラファーに就任されました。どのような思いからお引き受けになったのですか?

鈴木 最初からアソシエイトコレオグラファーという役職が決まっていたわけではなくて、DaBYを創設するチームの方々が2019年の「横浜ダンスコレクション」に僕のソロを観に来てくださったとき、「何か一緒に」と思ったそうなんです。その後、DaBYマネージングディレクターの勝見(博光)さんとアーティスティックディレクターの唐津(絵理)さんと3人でお会いして、お二人から「DaBYはまだどうなるかわからないけど、1年目でさまざまな冒険をするための実験台になってほしい」と言われて(笑)、面白そうだなと思ってお引き受けしました。“アソシエイトコレオグラファー”という役割をダンスハウスで制度化するにあたっての実験ですね。

──始動から1年以上経ち、DaBYでの役割は見えてきましたか?

「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ~視覚障害者と味わうダンス鑑賞編~」より。©︎comuramai

鈴木 そうですね。徐々に見えてきていると思います。「DaBYコレクティブダンスプロジェクト」(編集注:鈴木を中心に、異ジャンルのクリエイターが集い、ダンス作品を創作するプロジェクト)のような作品作りや勉強会などに振付家として関わらせてもらえており、すごく学びになっています。

──DaBYを運営するセガサミー文化芸術財団は、DaBY開設前から多くのダンスアーティストを支援しています。湯浅さんに対してセガサミー文化芸術財団は、湯浅さん主宰のOptoを資金的にサポートしたり、湯浅さんご出身のNDTを招聘したりと関わりがありますよね。またインスタグラムでのトークライブのほか、ProLab「Master Class」でレパートリークラスの講師を務められるなど、DaBYと湯浅さんの関わりは続いています。

湯浅 今年の2月にOpenLab「ダンサー、言葉で踊る」というトークイベントにお声がけいただき、「n o w h e r e」のデモンストレーションも少しさせていただいたりと、なかなかない機会をいただけてうれしく思っています。

オランダとイギリスと日本、ダンサーを巡る環境は?

──昨年5月に行われたDaBYのオープニング会見では、海外と日本の振付家やダンサーを取り巻く環境や社会的地位の違いも話題に上がりました(参照:3つの“拡張”を掲げ、ダンスハウス・DaBYがグランドオープンに向けて意気込み)。お二人とも海外での活動経験がありますが、その点についてはどんな実感をお持ちですか?

Dance New Air 2020->21「n o w h e r e」より。(photo by Yulia Skogoreva)

湯浅 ダンスを観に来てくださるお客さんは、海外でも日本でもやっぱりダンスをよく観てる人が多くて、でも海外はその範囲が日本よりやや広いな、とは感じます。ただそれより大きいのは、職業としてのダンサーの認識度です。私が活動していたオランダでは、ダンサーが職業として保障されていて、つまりダンサーの寿命がどれくらいで、どうなると生活が不安定になるのかという理解があるから、ダンサー用の積立金制度があるんです。そのお金は、ダンサーとして引退したあとに、別の職業に就くためのリトレーニング資金として使われます。

実際、私もNDT在籍中は積み立てをしていましたし、コロナ期間中にはその積立金を使って、ダンスのメソッドの資格を取りました。受講料や交通費、さらに資格取得中の1カ月の生活費まで支給されるのですごいなあと思いましたね。とはいえ、これはヨーロッパの一部の話なので、一概に“日本と海外の違い”と捉えるのは語弊がありますし、ダンサーに対する保障はその国の裕福さや歴史の長さ、また“文化が人の生活にどのような影響をもたらすか”を、どのくらい長期的に捉えているかどうかによると思います。

鈴木 僕が主に活動していたのはイギリスで、イギリスにも永麻さんが言ったような制度があるにはあったんですけど、そのプログラムが適用されるカンパニーやダンサーは限られていましたね。もちろん、そのプログラムを活用してダンスの写真家になった友人や、大学に行ったりした人もいたので、セーフティネットがあるのはすごいと思いますが……。永麻さんにちょっと質問なのですが、NDTにいたとき、(NDTがある)デンハーグの街の人はNDTをどう受け止めていると感じましたか?

湯浅 NDTは1990年代に黄金期を迎えたカンパニーで、でも当時は海外のほうが認知度が高く、オランダ国内ではそこまでではなかったんです。だから街を歩いていて「何をやってるの?」って聞かれたときに「この街の、あの劇場で働いているダンサーなの」って答えると、「え、この街に劇場があるんだ?」って言われたり。現在はバブル期のように潤沢な予算を国が出してくれるわけではないので、NDTも積極的に街と関わって、地域に認められるような活動をしようとしている部分がありますね。