岡田利規がつづり、湯浅永麻と太田信吾が紡ぐ「わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド」 (2/2)

湯浅永麻&太田信吾が寄せる、作品への大きな期待

「お二人とのクリエーションは大きな挑戦になる」
湯浅永麻

湯浅永麻

──本企画のどのような点に興味を持ち、参加することを決めましたか?

以前から演劇には大変興味がありましたが、今回佐藤まいみさんから思いがけないご提案をいただき、岡田さんとオンラインで対話を重ねてこのクリエーションを実現することができました。もともとお互いに面識はありませんでしたので、事前にじっくり対話の機会を持つことができ、より一層岡田さんとのコラボレーションが面白くなるであろうと確信しました。ある種のお見合いのような対話ではあらゆることを雑談させていただきましたが、そこでお互いの思考や興味の共通点・違いをシェアするのはとても楽しく、作品の内容にも反映されています。

──2021年のワーク・イン・プログレスで印象的だったことはありますか?

これだけのテキストを話すのは初めてでしたので、どれだけ忠実に話すべきなのか疑問でしたが、内容と思考がしっかり自分の中にあれば、言い回しはある程度違っても良いとおっしゃってくれて安心しました。でもその裏にはその言葉を読むのではなく、自分の経験として話すことが必要ですので、岡田さんが「毎回新たに役柄を“産む”のが大事」と言ってくれたのが、しっくりきました。昨日面白かった言い回しを繰り返すと、「それは昨日産んだものですね」と指摘を受け、リピートが求められるパフォーミング・アーツだからこそ、毎回生きた表現にする大切さを改めて感じました。

──“完成版”に向けて期待していること、新たなクリエーションメンバーとして太田信吾さんが参加されることにどのような期待を持っていますか?

完成版に向け太田さんも加わってオンラインで対話を続けたり、太田さんの監督 / 出演作品を拝見しました。俳優 / 監督としてなど、それこそ彼の中では“幾つものナラティヴ”が拮抗していて、自身を客観視されているのを強く感じています。岡田さんも太田さんも事象を観察することにとても鋭い方だと思っていて、お二人とのクリエーションは私にとって大きな挑戦になると期待しています。

プロフィール

湯浅永麻(ユアサエマ)

ダンサー・振付家。9歳からクラシックバレエを始め、1999年にモナコ公国プリンセスグレースダンスアカデミーに留学、首席で卒業。2004年から11年間、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)で活動し、2016年にフリーとなる。異ジャンルアーティストとのコラボレーションプラットフォームXHIASMA(キアスマ)プロジェクトを立ち上げ、数々の作品を発表。第13回、第15回日本ダンスフォーラム賞を受賞。ダミアン・ジャレ×名和晃平「Planet[wanderer]」出演。9月以降に「XHIASMA Research #002 関連ワークショップ」、10月15日から11月13日まで「FORMULA 森山未來×中野信子×エラ・ホチルド」ツアー、12月10・11日に湯浅永麻ダンサー育成プログラム、ダンス・インテンシブ広島(DIH)」に参加する。

「現代を痛烈に批評する作品になるのではないか」
太田信吾

太田信吾

──本企画のどのような点に興味を持ち、参加することを決めましたか?

大学時代に哲学専修で物語論を専攻して以来、物語ることの複雑さと可能性を追求したいと考え、卒業後にその手段として映画制作を続けてきたこともあり、まずタイトル、そして「SNSを題材に自分の考えが正義と信じる危険性を示す第1部に第2・3部を加えた三部作」という紹介文に強く興味を持ちました。社会の言説が物語よりも情報に傾き火花を散らす現代を痛烈に批評する作品になるのではないかと期待しています。

──太田さんは岡田さんの作品にたびたび出演されていますが、岡田さんとのクリエーションや、岡田さんが手がけた作品のどのような点に面白さを感じていますか?

まず岡田さんのテキストには社会の複雑さを繊細な手つきですくい取っているような感覚があり、それを自分なりに咀嚼する楽しみ甲斐があります。リハーサルの段階では、身体や言葉をもたらすものとして俳優の想像力を信じてくださっていると感じます。岡田さんのテキストと自分の想像力による合わせ技のような作業で、どうパフォーマンスが成り立つか最後までわからないスリルもあり、クリエーションは飽きることがありません。また、いち個人の想像力には限界があると考え、取材をしたり人に話を聞いたりして想像の源泉を肥やす作業も楽しいです。

──最初のブレインストーミングで、湯浅さんにどのような印象を持ちましたか?

バレエやダンスという、ともすれば身体の軸やメソッドが重要視され得るであろう世界で活躍されてきた湯浅さんが、これまで積み重ねてこられたテクニックをベースにさらに身体の深部を探り、可動域を広げることなどにご関心をお持ちなのかな、とお話をさせていただく中で感じました。明らかに異質な私たち2人の身体が並んだときに、それぞれの身体性も逆に際立ち、さらに踊りという行為への思索や哲学的時間をもたらすのではないか、そのプロセスでまたお互いに新しい発見もありそうで、クリエーションが本当に楽しみです。

プロフィール

太田信吾(オオタシンゴ)

1985年、長野県生まれ。映画監督、俳優、演出家。「卒業」でイメージフォーラム2010フェスティバル優秀賞・観客賞を受賞。これまでの主な作品にドキュメンタリー映画「わたしたちに許された特別な時間の終わり」、劇映画「解放区」など。岡田作品には「三月の5日間」「未練の幽霊と怪物」などに出演した。主宰するハイドロブラストの第3回公演「最後の芸者たち」が9月10・11日に東京・plan-B、18・19日に大阪・3U、9月24・25日に兵庫・城崎国際アートセンター スタジオ1にて上演されるほか、企画・監督・撮影・編集を手がけた「現代版 城崎にて」が12月に劇場公開予定。