□字ックの代表作「タイトル、拒絶」が待望の再演を迎える。2013年に初演された本作は、セックスワーカーとして生きる女性たちの姿を描いた人間ドラマで、2020年に山田佳奈自身の監督・脚本により映画化されたことも記憶に新しい。2018年の「滅びの国」から約3年の時を経て、再び本多劇場へと戻ってきた□字ックは、木竜麻生や美保純ら新たなキャストと共に「タイトル、拒絶」をどのように立ち上げるのか? 「タイトル、拒絶」の初演がきっかけで出会った山田と美保が、本作で描かれる“生”について語り合う。また本特集の後半には山田のソロインタビューも掲載。劇団結成10周年の節目を迎え、新体制として新たなスタートを切った山田が(参照:□字ックが10周年を機に体制変更、今後は山田佳奈の1人体制に)激動の10年を振り返る。
取材・文 / 興野汐里 撮影 / 玉井美世子
初対面で泣きながらハグ
──山田さんと美保さんが出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
山田佳奈 2013年の「タイトル、拒絶」初演を観に来てくださったのが始まりでしたよね。
美保純 そうなんですよ。山田さんとはけっこう長い付き合いで、気が付いたらもう7年くらいかな。そのあと山田さんにしずるの村上(純)さんを紹介して、今では3人で仲良くしてるんです。
山田 美保さんがTwitterでナンパした2人ね(笑)。村上さんとは2019年の□字ック×しずる「演劇♡顧問」(参照:神保町花月4月本公演 □字ック×しずる「演劇♡顧問」稽古場レポート)でご一緒できたから、美保さんとも「いつか一緒に何かやりたいね」っていう話をずっとしてたんです。
──美保さんはどのような経緯で□字ックを知ったんですか?
美保 Twitterで“□字ック”っていう名前を見付けてすごく気になって、山田さんに連絡を取って「タイトル、拒絶」を観に行くことにしたんです。
山田 終演後のロビーで泣きながらハグしたのを覚えてます。泣いてる美保さんを見たら私もつられて泣いちゃって(笑)。
美保 最後、マヒルちゃんが叫ぶシーンにグッと来て涙が止まらなくなっちゃったの。「タイトル、拒絶」と、当時撮影してたドラマ「あまちゃん」は正反対の作品なんだけど、どちらも生きていくことがテーマになってて、「ああ、こんなふうな“生”との向き合い方もあるよね」と思って。
──11月13日には、伊藤沙莉さんが主演を務めた映画「タイトル、拒絶」が公開されました(参照:「タイトル、拒絶」伊藤沙莉、般若との共演シーンに「本当に殺されると思った」)。美保さんもすぐにご覧になったそうですね。
美保 初演を観て受けたインスピレーションと変わらないんだけど、映像ならではの良さがあるし、女性たちの“畳の上で死ねない感じ”がうまく表現されてて、より深いところへ行ったなって思いました。
山田 “畳の上で死ねない感じ”っていうのは安住の地がない、みたいなこと?
美保 そうそう。他人に話しても理解してもらえない女の寂しさというか。舞台は女性中心の話だったけど、男性たちがリアルに描写されることによって、やっぱりこの話って男の人がいないと成り立たないなって改めて気付かされて。初演から7年経ったけど、心にズキズキ来たもん。
山田 うん。7年前と比べて、もしかしたら今のほうがダイレクトに伝わるかもしれない。
美保 世界が危機的状況に陥ってるからこそ、「強く生きよう」っていうメッセージが伝わりやすい気がする。
山田 そうですね。あと、このタイミングで再演することにも意味があるなって思います。
新しい発見を取り入れた“ニューウェイブ”な再演
──映画「タイトル、拒絶」のパンフレットに掲載されているインタビューで、山田さんは初演と映画で大きく変更した箇所はないとおっしゃっていました。再演ではどのようなアプローチをしていきたいと考えていますか?
山田 言うなれば、再演は“ニューウェイブ”。初演へのリスペクトを忘れずに、映画で発見したことを取り入れていきたいですね。例えば、映画の冒頭に伊藤沙莉ちゃん演じる主人公のカノウが独白するシーンがあって、あの場面は相当演劇に寄せたんですけど、実際に演劇でやるとより疾走感が出せるんじゃないかと思う。あと、映画化・再演にあたって、初演メンバーの何人かに「映画化・再演させてもらうよ」って連絡したら、みんな気持ち良く送り出してくれて。「タイトル、拒絶」は彼らがいなかったら作れなかった作品だから、初演メンバーに敬意を持って作りたいなって思います。
──再演版のキャストには、主人公・カノウ役を演じる木竜麻生さんをはじめ、さまざまなジャンルで活躍するキャストがそろいました(参照:主演は木竜麻生、□字ック「タイトル、拒絶」再演に宮崎秋人・安藤聖・美保純ら)。
山田 初演では私が主人公のカノウを演じたんですけど、映画で伊藤沙莉ちゃん、再演で木竜麻生ちゃんにバトンタッチして。バトンタッチというか、初演、映画、再演、それぞれ別のバトンを持ってていいと思ってるんです。
──再演するときには美保さんに出演してもらうというビジョンは以前からあったのでしょうか?
山田 決めてたわけじゃないんですけど、初演も観てくださっているし、この世界観にぴったりな人って美保さん以外に思い当たらなかったんです。お忙しい方だから難しいかなと思いつつ、当たって砕けろ!の精神でお願いしたら受けてくださって。
美保 初演を観たとき、自分と同じ血筋の人を見付けたというか、「こういう演劇を待ってた!」って思ったの。山田さんみたいな人が今この時代に生きてること自体がうれしくてうれしくて。だから今回オファーしてもらえてありがたかったですね。本当は初演を観たあとすぐにでも山田さんの作品に出たかったんだけど!(笑)
山田 えっ、そんなふうに思ってくれてたんですか!? うれしいなあ。美保さん、舞台に出るのはけっこう久しぶりですよね?
美保 そう、十数年ぶり。ドラマやバラエティのお仕事をさせてもらう中で、役柄的・立場的に安定してきてしまってる部分があるから、今このチャンスに舞台にチャレンジしない手はない!って思って。
山田 美保さんは常に新しい考え方を探して、それを受け入れていける奇特な人だと思うんです。できあがったものをバットでぶち壊して、また1から作っていくみたいな。だから、切磋琢磨しながら新しいものを作っていくにはベストパートナーなんじゃないかなって思うの。
美保 そうかも。私、ガラガラガッシャーン!が好きだし(笑)。
山田 ははは!(笑) 美保さんは大先輩だし世代も違うけど、芸事の先輩後輩というよりも人間同士のお付き合いをさせてもらってるなって感じます。美保さんのように、バブル期を経験した方々に自分の作品を褒めてもらうことが多いんですけど、自分に15歳上の兄弟がいることも少なからず影響してるのかなって思ってて。
美保 そうかもしれないね。山田さんの作品には、女性が感じるやるせなさとか昭和の要素がたくさん入ってて、私たち世代が生きてきた時代の匂いをしっかり捉えててすごいなって思うよ。
山田 私、時代を切り拓いてきたバブル世代の方々の重厚感にすごく憧れがあるんですよね。
──美保さんは、作中でも一際重厚感のあるベテラン風俗嬢のシホを演じられます。
山田 説得力があって、かつ作品の世界を広げてくれる美保さんがこの役を引き受けてくれて本当にありがたかった。シホはずっと控室で待機している役なんですけど、初演の空気感を知っている美保さんがその役どころを担ってくれるのはすごく大きいですね。みんなが戻ってくる場所にずっといる人、っていうのかな。
美保 シホは私よりもうちょっと若い役なんだけど、裏ぶれ感が出せたらいいなって思う。そういえば昨年、縁日で風俗の女の子と同席する機会があったの。気が合って彼女たちとしばらく一緒に飲んでたんだけど、その子たちからすごく“生”のパワーを感じたんだよね。
山田 へえ! そういうフランクなお付き合いって美保さんだからできることですよね。ほかの再演メンバーも積極的に作品と向き合ってくれてるみたいで、「作品世界を理解したいのでセックスワーカーの人から話を聞いてみたいです」とか、「実際に鶯谷に行ってみようと思ってます」とか、いろいろと相談を受けてて。みんな上演に向けて闘志を燃やしてくれて、本当にありがたいなって思います。正直、映画が注目されればされるほど怖い部分もあるんですよ。だって、別のものを作るってすごく熱量がいることだから。でも、「再演版を良いものにしよう」って気持ちをキャスト1人ひとりが持っててくれるっていうのは、演出するうえですごくうれしいこと。それだけの思いを背負ってくれる人たちに出会えたっていうのは、誰もが経験できることではないと思うんですね。映像には映像の良さがあって、舞台には舞台の良さがあるっていうことに、前回の「掬う」で気付けたし(参照:佐津川愛美「いろいろな感情をお渡しできる作品」と自信、□字ック「掬う」開幕)、だからこそ、今回もまた新しい発見があるような公演にしたいなと思ってます。
次のページ »
10年後、20年後、自分は何をやっていきたいの?