吉本興業が運営する劇場・神保町花月が、2019年1月から、演劇界の脚本家・演出家とよしもとの所属タレントを掛け合わせた作品を、次々と世に送り出している(参照:神保町花月ラインナップ!田村孝裕×板尾創路、川尻恵太×なだぎ武らコラボ7作)。「演劇界の次代を担う作り手たちと、よしもとのタレントの化学反応をお見せしたい」と語る同劇場の目論見は、どのように実を結び、観客に届けられるのか。ステージナタリーでは、この企画の第4弾となる、□字ック×しずる「演劇♡顧問」の稽古場に潜入。“化学反応”の現場を読者にお届けする。また特集の後半には出演者からのコメントも掲載。併せてチェックしてほしい。
[稽古場レポート]取材・文 / 興野汐里 撮影 / 相澤心也
本番を約1カ月後に控えた3月下旬、穏やかな春の日差しが差し込む稽古場を訪れると、別作品の本番のため欠席となった大竹ココを除く、出演者8人の姿があった。台本を片手に軽くストレッチをしながら発声練習をする者、床に座り、リラックスした様子で共演者と談笑している者、椅子に腰掛けて台本に目を通す者……出演者たちは思い思いのスタイルで稽古の開始を待っていた。
本作の脚本・演出を手がける□字ックの山田佳奈はこれまでに、中学教師の女性を主軸とした「荒川、神キラーチューン」や、団地に住む主婦と女性用風俗で働く青年を描いた「滅びの国」(参照:本多劇場初進出!□字ック「滅びの国」開幕、山田佳奈「転換期になるような作品」)など、女性たちの心の中にくすぶる思いを作品の中に落とし込んできた。そんな山田が今作で描くのは、旧友である2人の男性の軋轢や、彼らを取り巻く男女の愛憎など、登場人物たちの複雑な感情が入り交じった群像劇だ。
この日の稽古は、演劇部の顧問たちが個室居酒屋で慰労会を開いているシーンの読み合わせからスタート。まず演出助手の須貝英がト書きを読み、それに続いて演者たちがセリフを重ねていく。出演者の名前を役名に取り入れた登場人物たちは、どのキャラクターも曲者ぞろいで、豪快さと繊細さを兼ね備えた演技で活動の幅を広げる□字ックの日高ボブ美は、お局気質の古典教師・日高として、山田が演じる国語教師・山田に対し、「高校の演劇コンクールで上演された山田の戯曲の内容に疑問がある」と、まくしたてるように厳しく追求する。
日高の暴走を止めに入るのが、ヒラノショウダイ扮する英語教師・平野と、今年から□字ックの新メンバーに加わった、水野駿太朗扮する国語教師・水野だ。英語教師というキャラクターにちなみ、ヒラノが流暢な英語を発すると、稽古場の至るところから笑い声が上がる。一方、水野が演じるキャラクターは、一見爽やかな好青年だが、女性の扱いに慣れているような素振りをふとした瞬間に垣間見せる。
日高と山田の争いとは別のところで、池田一真(しずる)扮する数学教師・池田と、村上純(しずる)演じる高校演劇大会の審査員・村上との確執が明らかになり、慰労会はさらに険悪な雰囲気に。かつて同級生の村上と共に演劇をやっていた池田は、現在も脚本・演出家として演劇活動を続けている村上に、ことあるごとに噛み付き、負の感情をぶつける。そして、そんな池田を「まあまあ……」となだめる村上。コントで演技力を磨いてきたしずるの2人は、心の距離が開いてしまった旧友の関係を、抑揚がありながらも自然な演技で表現した。
村上に加え、もう1人の審査員として登場するのが、バイク川崎バイク扮する脚本・演出家の川崎。川崎は“アクセル全開”な自身の持ちネタとはある種対極の、寡黙で少々か弱いキャラクターに扮する。また、カートヤング演じる地理歴史の教師・川戸と川崎の2人が、実在する劇団やお笑い芸人の名前を列挙しながら、テンポのよい掛け合いを披露する場面も見どころの1つだ。
前半部分の読み合わせがひと通り終わったところで、稽古は一旦ストップ。演出席に座った山田はキャストたちと向き合いながら、1人ひとりのキャラクター設定を細やかに説明しつつ、「『何が正義なのか』を考えながら演技をしてほしい」「探り探り会話をしながら、徐々にテンションを上げていってほしい」とオーダーを出す。かんしゃくを起こした日高が激しく責め立てる場面について、山田は「日高先生は正義感が強くて、理詰めでじわじわ責めていく人。今の感じだと悪役レスラー感が強いかも……?(笑)」とユーモアを交えながら日高に伝え、池田と村上の人物造形については、「池田先生は、自分の創作物が面白いというよりも、『創作することができる自分自身が面白い』と心の中で思っている人なんです」「村上さんは人間力高め。それを生かして仕事を取っている人ですね」と説明。しずるの2人は「なるほど……」と山田の言葉に頷きながら、真剣な表情で台本にメモを取る。
コントと漫才、そして演劇、それぞれの稽古の仕方に違いはあれど、山田と出演者たちは1つの作品を立ち上げるべく、同じ方向を向きながら、「この場面で繰り広げられている会話の中で、ヒエラルキーの1番上に立っているのは誰か、それ以下の順位はどのようになっているのか」「あと何段階テンションを上げたらよいのか」など、活発にディスカッションしながら物語を立ち上げていた。