意志を持って輝く“個の時代”へ、新トップスター楊琳が誘うOSK日本歌劇団「レビュー夏のおどり『STARt』」

2021年4月、前トップスターの桐生麻耶からバトンを引き継ぎ、OSK日本歌劇団(以下OSK)の新トップスターに楊琳が就任した。楊は、OSKが2004年に新体制となったあとに入団したメンバーで、ダンスに定評がある。6月に大阪松竹座で始まったお披露目公演「レビュー夏のおどり『STARt』」は、そんな楊の魅力をふんだんに詰め込んだ洋舞レビューで、新生OSKを感じさせるフレッシュさが話題を呼んだ。同作が8月、いよいよ新橋演舞場にやって来る。

7月に東京で行われた記者会見で、「OSKがいろいろな方のパワースポットになれたら。生きる力を、元気に力強く見せていけたら」と語った楊(参照:OSKはパワースポット!?楊琳トップスターお披露目「レビュー夏のおどり」が東京へ)。そんな楊と、このたび娘役トップスターに就任した舞美りらと千咲えみに、舞台に懸ける思い、そして来年の100周年に向けた思いを聞いた。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

奇跡のような星のもとに生まれて

──楊さんは昨年8月にトップスターに就任予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、今年4月に正式に就任されました。その間の約8カ月、どんなことを感じられていましたか?

楊琳

楊琳 そうですね……その期間があったからこそ、トップに就任するという事実と向き合うことができたというか、「前向きにやるのみ、まっとうするのみ」という気持ちになれたと思うので、そのような時間が取れたのは結果的に良かったなと思っています。

──OSKに入られたときからトップスターは目標の1つだったのではないかと思いますが……。

 憧れの対象ではありましたけれど、劇団に入団してお仕事をいただいてからは、トップになるということより、自分が出演している舞台1つひとつをまっとうするのみ、ということだけを考えてきました。ですので、トップになりたいからがんばるというより、観に来てくださるお客様に真心を込めて舞台をお届けするということを心に決めて、毎回毎回、舞台を務めて参りました。

──これまでさまざまなタイプのトップスターさんがOSKを率いてきました。トップスターさんが変わると劇団全体のカラーも変わっていく印象がありますが、楊さんにとって“OSKのトップスター”のイメージとは?

 OSKって皆さんご存知の通り、これまでかなり紆余曲折があって、波乱万丈な劇団ですよね。特に近鉄時代の先輩方は皆さん本当にすごい方たちばかりだなと思っています。自分たちで運動し、劇団を継続させてきたパワーと言いますか、それぞれが自立していて中身が太くて濃いんですね。あのバイタリティや行動力、パワフルさはいったいどこから生まれるんだろう?とずっと考えていました。そういった方々の頂点にいらっしゃるトップさんは、自分にとって雲の上というか、神秘的な存在。ちょっと近寄り難いような存在で、強烈な光を放っていらっしゃる方たちばかりでした。

──その先輩たちからバトンを受け継いで、今後は楊さんが劇団を率いていくわけですね。

 ちょっとおこがましいな、と思っているんですけど……。

──いえ! 記者会見での凛としたお姿、華奢な楊さんがとても大きく見えました。トップ就任にあたって、劇団員の皆さんたちの前で、所信表明はされたのでしょうか?

 コロナ禍なので、4月にみんなで集まることはなく、大阪公演は製作発表もなかったんです。ただ初日間近に修祓式をやってくださったので、そこで初めて、トップ就任のご挨拶をさせていただきました(参照:OSK楊琳らが「レビュー夏のおどり」成功祈願、「とんでもない星の下に生まれた」)。そのときは、自分のルーツと言いますか、生まれてから今に至るまでの、この奇跡のような星のもとに生まれた経緯(笑)をお話しさせていただきつつ、「これからはOSKのため、ここまで温かく応援してくださったお客様のため、そして私の人生に関わってくださるすべての方々に向けて、『応援して良かった』と思っていただけるような姿をお見せできるようにまっとうしたい」という、決意表明のようなことをさせていただきました。

拍手にも感情があるんだと知りました

──これまでも主演舞台はたびたび務めていらっしゃると思いますが、6月の大阪松竹座で特に感じられたことはありますか?

 昨年、コロナの第一波と言われた4月から6月くらいまで、3カ月間本当に何もしなかったんですね。本当にずっとおうちにいて、そんなに長いこと舞台を離れるのが初めてで、いろいろなことを考えたり振り返ったりしていました。それまで幸せなことにたくさんお仕事をさせていただいていたので、1週間以上お休みがあるということがまず初めてだったんですね。その後、11月に大阪松竹座で「OSKだよ全員集合!OSK日本歌劇団Memorial Show & Premium Talk」(参照:OSKだよ全員集合!桐生麻耶をはじめとした全劇団員が大阪松竹座に勢ぞろい)という舞台を上演させていただいたんですが、そのときのお客様の熱気と言いますか、「わーっ」という拍手が忘れられなくて。緞帳が開いたとき、お客様の熱気がわっと伝わってきて、本当に感動したんです。「帰ってきた!」って自然と感じましたし、大げさでなく自分が生まれ変わったような、自分はこんなにも尊いお仕事をさせていただいていたんだと改めて実感できて、初舞台より貴重な体験でした。そこから舞台への向き合い方が変わり、6月に大阪松竹座でお披露目公演をさせていただいたときも、厳しい状況が続いているにもかかわらず、たくさんのお客様が観に来てくださったことに感謝の気持ちでいっぱいになりました。私たちはやはりお客様がいらっしゃらないと成り立たない職業なので。配信公演も経験しましたが、改めて、こんなにも素晴らしいお仕事をさせていただいているんだと実感することができましたね。

楊琳

──観客としても、昨年なかなか舞台が観られない時間を経たことで、舞台を観るときに新たな発見があったり、これまで感じなかったような感動に包まれることがあります。

 それは舞台上にいる私たちにも伝わってきますよ!

──特にOSKのお客さんは皆さん温かいので、大阪松竹座のお披露目公演は盛り上がったのでしょうね。

 そうですね。「おかえり!」とか「待ってました!」という声が聞こえるような(笑)。拍手にも感情があるんだって思いました。

──楊さんは、舞台では涼やかな男役として、肩で風を切るようなカッコ良さを発揮されますが、インタビューさせていただくと常に朗らかで自然体な方だという印象があります。トップさんになられてもあまりその印象は変わらず、自然体なお話しぶりが素敵だなと思います。

 あははは! そうですか?(笑) もともと気負いがちなタイプなんですけど、舞台でも自然体に表現できたら、お客様にももっと伝わるだろうと思ってはいて。ですので、どんなときも自分の“根っこ”を見失わずに、今本当に思っていること、感じていることはなんだろうと自問自答できるような舞台人でありたいと思いますし、いつでも真心込めて舞台をお届けできるように、という思いは忘れずにやっていきたいと思います。