ローソンチケットpresents「ここだけの話 ~クリエイターの頭の中~」05. 小林顕作×福原充則|削ぎ落としてもなくしても、最終的に “自分”は残る

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フィールドの越境は海外旅行みたいなもの

小林顕作

小林 小劇場じゃない公演を初めてやったときは、すごく怖さもあったし、どうやってアプローチしたらいいのかってことはやっぱり迷ったところがあったけど、作業としてはまず、自分をなくすことから始めて。「俺は俺、これが俺の色だ!」っていうのを一切なくしたんですよ。そうしたら演出を付けるとき、役者と「君はどうしたいの?」「俺の閃いたこれをどう思う?」ってディスカッションするようになって、徐々にみんなも「僕はこれが好き」「あれが好き」って言い始めたんですね。結果、本番を観た人から「すごく顕ちゃんぽいね」って言われて、それならアプローチは間違ってなかったのかなと。とにかくどうやってコミュニケーションを取るかってことをやり続けた結果が今だったりします。特にこの間の「『パタリロ!』★スターダスト計画★」(18年)は、「宇宙㋹コードのまんまじゃないですか!」ってよく言われたんですが、まったく意識してないです。自分が好きかどうかとか、作品として成り立つかどうかっていうバランスは考えますけど、ずっとふざけてただけ。もちろん、まだ違うフィールドでやったことがない小劇場の若手が、踏み出すのが怖いのは当たり前で、でも海外旅行に行くのと変わらないんじゃないですか? 「海外に行ったら『ヘイ、ジャップ!』って言われて拳銃で撃たれるんでしょう?」みたいな、そういう心配と言うか(笑)。

福原 僕は自分をなくす、までは思わなかったんですけど、でも削ぎ落としていっても残るものはあるだろうと思ってますね。作品はいろんな人に観てもらいたいし、自分の劇団を観てくれないお客さんたちに“嫌がらせ”したいって意地悪な気持ちもあって(笑)。子供の頃に夢見てたことが、「紅白歌合戦」に出るくらいの歌手になって、紅白の舞台で悪ふざけがしたいっていうことだったんです。だからDJ OZMAさんがWAHAHA本舗さんに(裸に見える)ボディスーツを借りてきてやったアレとか、ほぼ理想(笑)。あと「ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル」ってSex Pistolsの映画で、シド・ヴィシャスが「My Way」を歌いながら着飾った客に向けて拳銃ぶっ放すのとか、子供の頃にすごく憧れたな……。

小林 頭おかしいね(笑)。

福原充則

福原 (笑)。大きい企画のお客さんに、お客さんが観たいものを全部観せたうえで、こっそり負の感情も植え付けると言うか。楽しんで家に帰ってカバン開けたら、うんこ入ってた、みたいな。最初からうんこを求めてる下北沢のお客さんにうんこぶつけるんじゃなくて(笑)。あと、まあ僕もそうでしたけど、若手の作家が自分のいるフィールドから1歩出るのが怖いのって、要するに“悪い大人が僕の作品を汚すんじゃないか”みたいな気持ちだと思うんですけど、でもいい大人もいっぱいいて。つまらない若者にはつまらない大人が悪いこと言うけど、立派なプロデューサーってちゃんといるし、そういう人に認めてもらえれば何も恐れることはないと思います。

小林 俺はそんな偉そうなこと言えないけどね!(笑)

福原 あははは!(笑)

小林 僕、すごく流れ任せみたいなところがあって、目標みたいなことを立てるのが苦手なんですよ。だから会ったときの感じがいいなって思った人と仕事がしたいし、逆にアプローチが変な人とは、それが例えすごくお金になりそうなことだったとしても仕事しない。いろいろな経験はしたほうがいいけど、やっぱり人生には限りがあるから時間を無駄にはしたくない。やるなら一番楽しいことをしたいなって思いますね。

福原 でも怖くないですか、収入のこととか。

小林 いやホント、「南の島に雪が降る」(編集注:2014年にお台場潮風公園にて上演された、福原の脚本・演出によるベッド&メイキングスの伝説的な野外劇公演)に出たときは怖かったよ! あんなに稽古して、ひっどいテントで、ずぶ濡れになって、もう生活できないよーと思って、おかしすぎて笑っちゃうこととかあった(笑)。

福原 いやー、大変でしたね、あれは。公演の3日前くらいにスタッフとの緊急会議があって、なんの話かと思ったら「全日程完売しても数百万の赤字です」って(笑)。

小林 あははは!(笑)

左から小林顕作、福原充則。

福原 結局お客さんがたくさん来てくれましたけど、途中でテントが壊れて直したり、失踪するスタッフがいたりで、さらにお金がかかって。でもそこまでやっても芝居って残らないんですよね。いつも思うんですけど、映画「太陽を盗んだ男」が好きで、きっといつの時代も、どの世代にも、あの映画が好きな人っているんです。映画はそうやって残りますけど、演劇はそうではないので、虚しくなったりして……ってなんの話でしたっけ?

小林 テントがひどかったって話!(笑)

自分にない価値観も楽しみたい(福原)

左から小林顕作、福原充則。

福原 最近、原作ものの舞台は、原作が好きなものしか受けないことにしてます。でも昔は自分が知らない作品だったとしても、その作品のファンの思いに応えたいなと思いながらやっていました。あと、自分はまったく興味がないものでも、それを好きな人がいるなら、「俺は興味ないから拒絶」じゃなくて、その楽しみを人生の中で知っておきたいなと思って。それでいろいろな音楽を聴くようにもなったりしたので、自分の価値観にないものも楽しみたいなって思ってます。

小林 なるほどね。僕は「パタリロ!」を全然読んでなくて、演出のオファーが来たときに「プロットを書くために読もうかな」と思ったら、脚本の池田(テツヒロ)くんが早々に書いてきてくれたから読む必要がなくなって、結局ほとんど読んでないんです。

福原 ホントですか!?

左から小林顕作、福原充則。

小林 2、3巻だけ。でも俳優が全部読んでくるじゃないですか。だから「ここはどういう話なの?」って質問したりして。「なんも知らないんですね!」って言われますけど(笑)、まあそこから自分がないんですね。でも「帝一の國」の古屋兎丸先生も、「パタリロ!」の魔夜峰央先生も、「どんなふうにしてもらってもいい」って言ってくださったので、僕は脚本と原作を照らし合わせながら「この画をやりたい」っていうのを決めて、そこに自分が好きな曲をどんどん付けていくだけ。だからどっちかって言うと、作品を壊しにかかってるんですよね。そうやって違う価値観を植え付けることで、お客さんをマンガ読んでる気分にさせないって言うか。全然違ったものを提示することで、舞台を観たお客さんが原作に帰っていく、みたいにしたいなと思ってて。そうしたほうが結局、原作が強く残るものになるんじゃないかって思いますし。だから役者にもキャラに寄せるなって言ってて、寄せてたら「君ならどう言うの? そういう言い方、君はしないでしょ」って言って直させます。そうやって彼らしさ、彼女らしさを突き詰めたほうが、自然と原作に近付いていくって、なんとなくわかったんですよね。

ミュージシャン扱いされたい(小林)

福原 商業ものに出る俳優さんと小劇場の役者との違いって、商業で一番手やるような人たちは、舞台に出れば自分のファンの皆さんが客席にいるってことを、確実に知ってるってこと。彼らにしたら、本番はホームに出て行くことだから、本番をすごく楽しみにしてるんですよ。そこは、「そもそも客席にお客がいるのかな」って思いながら稽古してる小劇場の人間とは、全然価値観が違う(笑)。

小林 ああ、その精神状況は全然違うね、確かに。

福原 そういう人には、こちらもだいぶポジティブな気持ちで演出できるかな。あと僕はいつも、自分がいかに何もできないかってことを、丁寧に役者に伝えます。

小林 あははは!(笑)

福原 「俺は本当にわからないから、自分で考えてやらないとダメだよ、ほら、俺の芝居を知ってる役者さんたちはみんな考えてやってるでしょ」って話すんです。すると「そうですね」ってやってくれる(笑)。あとは、だからと言って「頼りない人だ」とは思わせないようにするという、微妙なバランスに細心の注意を払います(笑)。

小林 あははは!(笑) 僕は稽古場で開口一番「稽古長くするの嫌いだから、1回稽古したらもうやめよう」って言う。それはある意味逆のアプローチで、「君がやりたいならやるよ」ってスタンスを取ると「顕作さん、もう1回やりましょう!」って自主性を発揮してくれる(笑)。

左から小林顕作、福原充則。

福原 いつも演出席にいないという噂を聞きましたよ。

小林 うん、長いこと席に座ってると腰が痛くなっちゃうから。稽古場をうろうろしてる。

福原 授業中に座ってられない子供みたいな。

小林 多動児みたいな感じなんです(笑)。

福原 顕作さんは自分で作、演出、作曲もして出演もしますけど、一番求められたい自分はどれなんですか?

小林 うーん……ミュージシャンなんだと思う。なれてないくせにミュージシャン扱いされたいところがありますね(笑)。演出家なんて露とも思ってもらわなくていい。

福原 僕も演出はまあ、頼まれないとやらないかな。でも書くことは、仕事にならなくてもやると思います。

小林顕作(コバヤシケンサク)
1971年東京都出身。96年に宇宙㋹コードを旗揚げ、脚本・演出を手がけ出演もする。同年コンドルズの旗揚げにも参加し、出演すると同時にコント部分の脚本を担当。俳優として河原雅彦、長塚圭史などさまざまな演出家の舞台に出演するほか、絵本の読み聞かせを全国各地で展開。近年はEテレ「みいつけた!」のオフロスキーや、大河ドラマ「真田丸」の明石全登役で注目を集めた。さらに演出家として「帝一の國」「パタリロ!」舞台版を手がけヒットへ導く。作詞・作曲も行い、定期的にフォークライブを行っている。今秋公開予定の映画「パタリロ!」では初メガホンをとった。
福原充則(フクハラミツノリ)
1975年神奈川県出身。2002年にピチチ5(クインテット)を旗揚げし、脚本・演出を手がける。またニッポンの河川、ベッド&メイキングスなど複数のユニットを立ち上げ、不定期で作品を発表。外部作品の脚本、演出を手がけることも多く、「視覚探偵 日暮旅人」など映像作品でも活躍。近年の作品に、ベッド&メイキングス「墓場、女子高生」(脚本・演出)、パルコプロデュース「いやおうなしに」(脚本)、東京No.1親子「あぶくしゃくりのブリガンテ」(脚本・演出)、月影番外地「どどめ雪」(脚本)、「俺節」(脚本・演出)、「秘密の花園」(演出・出演)。15年には初監督作品「愛を語れば変態ですか」が公開された。18年に「あたらしいエクスプロージョン」で第62回岸田國士戯曲賞を受賞。